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召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~  作者: さとう
第七章

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帰路へ

「くっだらねぇ……」


 ウィルは過去を振り返り、つまらなそうにつぶやいた。

 一人、歩きながら過去を想う。

 いい感じの木陰があったので、荷物を下ろしてどっかり座る。

 空を見上げると、憎たらしいほど青く澄んでいた。


「…………チッ」


 左手を見る。

 左腕が『ヘッズマン』となった日。最初は意味がわからずひたすら泣いた。

 怪我一つない自分。家族の死体。友人、仲間、住人の死体。いくら呼んでも現れないヘンリー……我に返ったウィルは、家族や住人を埋葬し、荷物をまとめて故郷を出た。

 最初は、食事もできないくらい心が死んでいた。

 不眠症になり、死にたいと常に思い……いっそ、死んでしまおうかと思った。

 だが、あてもなく彷徨っていたある日。ウィルはたまたま立ち入り禁止の森に踏み込んでしまい、魔獣に襲われた。

 敵はコボルト。なんてことのない雑魚だが、ウィルは抵抗せずに死のうと思った。

 だが……ウィルの意志と関係なく、左腕が暴発。まるで『生きろ』と左腕が叫んだような感覚がした。そして初めて気づいた。ウィルの左腕に宿っているのは、ヘンリーだと。

 そして、同時にふつふつと沸き上がったのは、怒り。

 家族を、仲間を殺した女……フロレンティアへの怒りだった。

 

「『色欲』の魔人……」


 ウィルはポツリと呟く。

 家族を失い二年間放浪。左腕を使いこなす特訓を重ね、流れの用心棒で生計を立てた。そして村を壊滅させた手口が『色欲』の魔人と同じで、名前もフロレンティアと知り魔人を追った。

 そうして、とある用心棒の仕事を終え、酒場で一杯飲んでいる時に聞いたのだ。


「アースガルズ王国で、魔人の一体が滅ぼされたってよ」


 ウィルはすぐにアースガルズ王国へ。

 そして、情報を集めているときに城下町で出会ったのがアルフェンだった。

 魔人を倒した男。

 魔人……ウィルは頭に血が上り、つい『ヘッズマン』を向けてしまった。が、アルフェンもまた異形の右腕を持ち、同じく全てを失った同士だった。

 ここまでの回想を終え、ウィルは荷物を持ち立ち上がる。


「フン……くっだらねぇ」


 不思議だった。

 ずっと一人だった。仲間なんていらなかった。

 用心棒時代、ウィルの強さを見込んでいろんな組織や依頼人がウィルを引き込もうとしたが、魔人を追う足枷になるとウィルは全てを拒否していた。

 だが、アルフェンたちは違った。

 戦いなんて知らない貴族のボンボン。そう思っていたが、アルフェンたちS級はどんな組織よりも信頼できた。

 今もこうして、仲間の元へ戻ろうと歩みをすすめるくらいは、ウィルも信用していた。


「……仲間、か」


 ウィルは歩きながら思う。

 そして、ふと思い出した。

 かつて、父クリントとした何気ない会話だ。


『ウィル、仲間を作れ』

『仲間ぁ?』

『ああ。背中を預けられる仲間は大事だぞ? 銃は確かに強い。でも、弾切れは起こす。もし仲間がいたら、お前は安心して再装填できる。そういう仲間を持て』

『くっだらねぇ。オレは一匹狼でいい。そっちのがカッコいいからな』

『やれやれ……まだまだ半人前だな』

 

 銃を再装填する時間を稼ぐのが仲間。ではない。

 信頼し、背中を預けられる仲間を作れ。今ならその言葉の意味がよくわかった。


「…………ちくしょう」


 でも、ウィルは歯を食いしばる。

 いくら仲間がいても、フロレンティアは強すぎる。

 ヒュブリスやアベルとは桁が違う。能力のおかげで、オウガですらフロレンティアにダメージは与えられない。

 対策が必要だ。

 男で駄目なら女。それしかない……が、ウィルは首を振った。


「駄目だ……フロレンティアは、オレが」


 この復讐だけは、自分の手で。

 でも、対策がない。

 考えがまとまらないまま歩き続け、アースガルズ王国へ到着……ウィルはまっすぐS級寮へ。

 無言でドアを開けると、談話室には全員揃っていた。


「「「「「「ウィル!?」」」」」」


 アルフェン、フェニア、アネル、サフィー、レイヴィニア。

 ニスロクはソファで寝ていた。ウィルは軽く頷く。


「おま、大丈夫なのか!?」

「ああ」

「あんた、心配したのよ!?」

「ああ」

「よかったです……本当に」

「ああ」

「ウィル、怪我してない? 大丈夫? ねぇ!!」

「ああ」

「うち、死んだのかと思ったぞ」

「ああ」


 ウィルは適当に返事をする。

 アルフェンは、もう一度ウィルに聞いた。


「お前、どうした?」

「しつこい。悪いな、少し寝る……話は後だ」

「あ、ああ……」


 ウィルは自室に入り、荷物を投げ、ベッドへ。

 帰ってきた。だが……今は誰とも話をしたくなかった。


「…………チッ」


 舌打ちだけが、虚しく響いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ウィルが戻り、翌日から普通授業が始まった。

 いつも通り着替え、朝食を作り、全員で食べ、片付けをして、S級校舎へ。

 ウィルが戻る前から授業は始まっていたが、久しぶりに全員が揃ったことでいつもの日常が戻って……きた、とはいえなかった。

 ウィルは、ほとんど喋らなかったのだ。

 朝食の支度はしたが、アルフェンやサフィーが礼を言っても「ああ」と感情のない返事しか戻ってこない。詳しく話を聞きたいが、どうも聞きづらかった。

 教室内。ウィルはつまらなそうに外を見ている。


「……なぁ、ウィルの様子だけど」


 アルフェンは、サフィーに聞く。

 

「うーん……いつものイライラした感じがありません。いつもは「チッ……」とか「くっだらねぇ……」とか言うのに」

「お、おう。やっぱり、魔人襲撃時に何かあったんだよな……」


 すると、アネルが言う。


「ねぇ、ウィルだけど……やっぱり、魔人のことで悩んでるのかも」

「魔人……ああ、そういや変な『女』がいたな。そいつを見た瞬間に血相変えてた」

「いつも冷静なウィルが血相を変えるくらいの女性……『色欲』」

「……本人に聞きたいけど、デリケートな問題だよな」


 サフィーもアネルも難しそうな表情だ。

 ウィルの宿敵ともいえる『色欲』……あの場で戦い、勝利したならこんな沈んだ表情はしていない。アルフェンは『勝てなかったが負けなかった』と予想した。


「とりあえず、しばらく時間置こうぜ。せっかく帰ってきたんだし……まずはしばらくゆっくりしよう魔人を二体討伐したし、残りは『強欲』と『色欲』だけ……」


 と、ここで教室のドアが開き、メルが入ってきた。

 まだ授業まで時間がある。ガーネット先生ではなかった。

 メルはウィルを見る。


「帰ってきたのね、ウィル」

「…………」

「『色欲』に負けたのね?」


 ウィルは、メルを睨みつけた。

 その表情だけでメルは察した。


「負けなかった。でも勝てなかった、ってところね。とりあえず後で詳細を報告して。それとアルフェン、あまり楽観的なことは言わないの。忘れたの? あなたたちが倒した魔人は『嫉妬』と『怠惰』の魔人。つまり、魔帝が存在する限り『魔人』は補充が可能ってこと。今まで以上に強力な魔人が今この瞬間に召喚されてる可能性だってあるんだから」

「う……」

「大元を叩かなきゃ、魔人はいくらでも現れると考えて」


 メルは言い方こそキツイがその通りだった。

 アルフェンは緩みかけた気を引き締める。

 すると、再び教室のドアが開き、ガーネットが入ってきた。


「さぁ、授業を始めるよ。おやウィル、帰ってきたのかい」

「……ああ」

「ちょうどいい。今夜少し付き合いな」

「…………フン」

「授業が終わったら着替えて待ってな。迎えに行ってやる」

「…………」


 この日、通常通りの授業が行われた。

 ウィルを除き、訓練も行われる。

 ダモクレス、アルジャン、ヴィーナスの三人がアルフェンたちと模擬戦を行い、アルフェンたちはひたすらボコボコにされた。

 アネルも、バハムートを倒したことで自信が付いたが、二十一人の召喚師相手だと翻弄される。それは実戦経験の少なさによる戦術の甘さを突かれていたからだ。単純な攻撃しかしてこなかったバハムートと違い、頭を使った戦いはまだ難しい。

 アルフェンも、かなり強くなった。だが、ダモクレス相手ではまだ分が悪い。

 フェニアたちもアルジャン相手に訓練を重ね、新技をいくつか開発した。

 訓練は順調。アルフェンたちは確実に強くなっている。


「今できることは、A級召喚士が束になってかかってきても一分以内に殲滅できるくらいの強さよ」


 訓練が終わり、夕飯を食べるため全員で高級購買のレストランにやってきた。

 後から合流したメルは、とんでもないことを強く言う。


「あなたたちは強くなって。わたしは裏でコソコソしてる連中を吊し上げたり潰したりするから。王族を敵に回すってことがどんなに愚かなことか教えてやる」

「な、なんかメルが過激」


 フェニアはパスタを食べながら言う。

 サフィーは紅茶を啜り、隣に座るレイヴィニアの口元をナプキンでぬぐった。


「ほら、お口が汚れてますよ」

「むぐぐ……なぁ、うちもっと甘いの食べたいぞ!」

「うふふ。じゃあパフェを注文しましょうか」

「十個な、十個! おいニスロク、お前も食べろ」

「ちび姉ぇ食べすぎぃ~」

「うっさい!」


 この魔人姉弟は変わらない。それがなんとも嬉しかった。

 サフィーはパフェを注文し、レイヴィニアに食べさせる。

 ほのぼのした空気だったが、メル側は違った。


「ああ、報告しておくわ。オズワルドの屋敷を捜索したら出るわ出るわ犯罪の証拠がいっぱい……ブラッシュ子爵家は取り潰し確実。オズワルドは裁判。有罪は確定……絞首刑って話もあるけどわたしが止めたわ」


 意外な話だった。

 アルフェンは、オレンジジュースを飲む手を思わず止める。


「へぇ、処刑を止めるなんて優しいじゃん」

「馬鹿言わないで。死ねばそれで解放されちゃうでしょ? 長く苦しめるために『鉱山で五十年の強制労働』がいいって思っただけよ。アースガルズ王国が管理する犯罪者が働く鉱山で五十年の強制労働……ふふ、終わる頃にはオズワルドはおじいちゃん。帰る家もない、年老いた身体一つで寂しい余生を過ごすことになる。これほどの刑罰はないわ」

「…………」

「もちろん、特別製の『召喚封じ』を付けての労働よ。一度付けると絶対に外れない特別製。二十一人の召喚師にして発明家『(スター)』アルベルト博士のね……」


 メルはニヤリと笑う……アルフェンは背筋が凍った。

 間違いなく、メルは怒らせてはいけない召喚師だ。


「全く……オズワルドのせいで面倒なことばかり。アストルム王国の住人を見殺しにしたのよ? その補償やら謝罪やら……ああもう、馬鹿兄は何もしないし、ほんっと使えない」

「お、おう……」


 いつの間にか、メルの愚痴になっていた。

 オズワルドはこれから、死より辛い目に合う。アルフェンはもう二度と会うことはないと思っていたので別にどうでも良かった。

 いつの間にか、アルフェンとメルだけの会話で、フェニアたちはレイヴィニアやニスロクに構っていた。

 そして、メルは思い出したように言う。


「あ、そうだ。アルフェン、魔人討伐の報酬だけど」

「ん、おお」

「領地、あげることになったから」

「……え、マジ?」

「うん。小さいし、集落がいくつかと町が一つ、あとは森ばっかりの領地だけどね」

「お、俺の領地!?」

「ええ。アースガルズ王国領の隅っこにある『イザヴェル領地』よ。リグヴェータ家が治める領地とはまるで関係のない小さなところだから安心……」

「……じゃない、だろ?」

「ええ。悪いわね……リグヴェータ家はアルフェンが大きくしたようなものだからね。あなたがリグヴェータ家から除名されると、辺境伯となったリグヴェータ家を疑う貴族が現れるのよ。末息子アルフェンを除名し、功績だけを奪ったってね」

「その通りじゃん」

「そうだけど……貴族はよくても、領地に住む住人たちが不信感を覚えるわ。悪いけど、リグヴェータ家からは完全な除名はできないの」

「……ふーん」

「だから、あなたが完全に独立するまではリグヴェータ家に名を残して。十八歳になれば結婚して独立できる。イザヴェル領地を治める貴族としてね」

「うへぇ……面倒くさい」

「そう言わないの。ああ、それと爵位も与えるから。近いうちに叙爵式やるからね。これからは『アルフェン・リグヴェータ・イザヴェル男爵』よ」

「長い。あと言いにくいしカッコ悪い」

「文句言わないの! それと、独立するにあたって婚約者も探さないと」

「婚約者ねぇ……ん?」


 ここで、ようやくフェニアたちがアルフェンとメルの話を聞いていることに気付いた。


「あ、アルフェンが男爵……ねぇ、あたしもその領地行くから」

「…………こ、婚約者、ですか」


 フェニアとサフィーは、なぜかうんうん頷いていた。

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