ウィルの心
ウィルは、ボロボロのまま一人歩いていた。
魔人フロレンティアに敗北し、今のままでは絶対に勝てないと打ちのめされた。
向かっているのは、アルフェンたちのいる村。そして、不意に気付いた。
「……ははっ、いつの間にかあいつらのところに帰ろうとしてやがる」
ずっと一人だった。
だが、アースガルズ召喚学園のS級になってから変わった。
騒がしい連中と一緒に過ごすようになり、それが当たり前となっていた。
今も、自然とアルフェンたちの元へ帰ろうとしている。
「くっだらねぇ……」
そう呟きつつも、足は止まらない。
フロレンティアと戦って何日経過したのか。
もしかしたら、アルフェンたちはもういないかもしれない。
なんとなくだが、アルフェンたちは戦いに勝利し、そのままウィルを待たず帰った気がする。
その考えは、間違っていなかった。
「……終わってやがる」
村に到着すると、戦いの爪痕が残っていた。
壊れた家屋、抉れた地面、そしてアルフヘイム王国軍。
王国軍の一人がウィルを見て訝しみ……すぐに目を見開いた。
「まさか、行方不明になっていたウィル君か!?」
「行方不明……まぁ、そんなところだ」
制服でわかったのだろう。兵士は別の兵士に何かを言い、傍に来た。
「酷い怪我だ……すぐに医者を呼ぶ。さぁ、こっちへ」
「……あいつらは?」
「あいつら? ……ああ、アースガルズ召喚学園の生徒たちか。彼らは先に帰ったよ。きみのことを心配していたようでね。見つけたら保護するようにと頼まれた」
「……保護、ねぇ」
まるで子供だ。
そう思い、ウィルは口の端を歪めて笑った。
そして、兵士に一つだけお願いをした。
「なぁ……酒、あるか?」
◇◇◇◇◇◇
傷の手当てをしてウィルは、酒瓶を片手にベッドでくつろいでいた。
今日はこのまま休み、後日アースガルズ召喚学園までアルフヘイム王国軍が送ってくれる。親切だと思いつつも、ウィルは言った。
「いらねぇ。勝手に帰るからほっとけ」
と、数日分の食料や寝袋をもらい、一人で帰ることにしたのだ。
『送ってもらう』なんてあまりにもガキっぽい、とウィルは言った。駄々をこねて一人で帰ろうとするのも十分に子供っぽいのだが、ウィルはそこまで考えてなかった。
今は、ベッドでくつろぎ考えをまとめている。
「男は触れられねぇだと……? ちくしょう、女にでもなれってのかよ」
ウィルは、フロレンティア討伐を諦めていない。
酒を飲みながら考えていた。
「どうする。どうすれば奴を殺せる……?」
ウィルの『ヘッズマン』の『貫通』でさえ、フロレンティアの『男子禁制』を貫くことはできなかった。
ウィルは、左手を持ち上げる……まだ包帯が巻かれた痛々しい腕だ。
「ヘンリー……もうすぐだ。もうすぐお前の仇を討てる。親父、お袋……サラ」
ウィルは、両親と妹の名前を呟く。
目の前で殺された家族。蹂躙された村。そして、生き残った……いや、生かされたウィル。
「『色欲』……奴だけは、オレが殺す」
左手を握りしめ、ウィルは改めて決意した。
このままでは絶対に勝てない。そんな現実という名の壁が立ちふさがる。
だが、ウィルは絶対にあきらめない。
「……チッ、まずはあいつらのところに帰るか」
そう呟き、ウィルはベッドに寝転がった。




