戦い、終わり。
アルフェンとアネルはフェニアたちと合流するために村へ。
村に戻ると、フェニアたち、そしてリリーシャたちが集まっていた。
雨が降っていたので、外から見える厩舎で雨宿りしているようだ。
アルフェンとアネルが厩舎に入ると、リリーシャが言った。
「どこに行っていた」
「魔人倒しに。それよりフェニア、サフィー、メル、怪我は?」
「あたしは大丈夫」
「私もです」
「わたしも。それより聞きたいのはこっちよ。オズワルドはどこへ行ったの?」
メルはリリーシャに聞く。まるでアルフェンとアネルが帰ってくるのを待っていたようだ。
リリーシャはメルをジロリと見る。すると、サンバルトが答えた。
「オズワルドは住人の避難をさせている。全員とはいかなかったようだが……魔人と魔獣が襲来したにも関わらず、生き残った命があってよかったよ」
「お兄様。そのことですが、少し気になることが」
「ん、なんだい?」
メルはリリーシャを睨みつつ言う。
「魔獣と魔人が襲来し、わたしはS級たちに指示を出してすぐに住人の避難を始めたのですが……どうも妙でした。家屋をいくつか調べたのですが、いくつかの家屋は慌てて逃げ出したような跡があったのです。ですが……それ以外の家屋は、あまりにも綺麗でした。最低限の生活用品、お金、大事な物……それらを袋に詰めて、準備万端で出かけたような痕跡があったのです」
「え、ええと……それで?」
「わかりませんか? まるで夜逃げするような状態だったのです。まさか一気に十世帯が、今夜同時に夜逃げの計画でも立てていたのでしょうか? まさか、魔人の襲撃に気付いていたとか……? まぁ、憶測ですがあまりにも不自然でした」
「……そ、そうなのか」
サンバルトにも、リリーシャにもわからなかった。
リリーシャは『魔人が現れる、自分は手筈通り住人を近くの集落へ逃がす』としか聞いていなかったのである。まさか、リリーシャも知らない計画があったのか。
荷造りをしっかり終えた家の住人は、予めオズワルドに『荷造りをしておくように。混乱を招く恐れがあるので住人間でも内緒で』という話を聞いていたとはリリーシャたちも知らない。
「A級召喚士の皆さん。あなたたちが身体を張って村を守ろうと戦ったことは否定しません。ですが……引率役でありA級召喚士であるオズワルドが真っ先に逃げ出すような行動は評価できませんね。他にもやり方はあったはずです。リリーシャ、あなたもいいなりになるのではなく、A級召喚士として意見を言い、指揮を執るべきでした。はっきり言います。被害はもっと押さえることが可能でした」
「……ッ」
「メル!! なんてことを言うんだ!!」
「お兄様は黙っててください。村はずれの惨状を見ればわかります。住人の半数以上が焼死体となっています。恐らく、村はずれに魔人が現れたのかと」
「なんだって!?」
「……はぁ」
メルはため息を吐く。
どうも、このテンポのずれた兄と喋るのが辛いようだ。
リリーシャは、反撃に出た。
「ならば、メル様に問います。指揮というならあなたはどうなのです? 対魔人の戦力として期待していたS級が、二人も欠けていたではありませんか」
「……ウィルは戦線離脱、アネルはすでに交戦中でした」
「交戦中。つまり、村はずれにいた魔人とアネル嬢はすでに戦っていたと。では、なぜそこに住人の死体が? ……ああ、アネル嬢は住人を守れなかったということでしょうか」
「…………」
アネルは俯いてしまった。
言い方は癪だが、リリーシャの言う通りだった。
アネルは、住人を……子供たちを守れなかった。
メルはずいっとリリーシャに顔を近づける。
「なら、あなたは? あなた、魔人と戦ったこともないくせに偉そうね?」
「そういうメル様、あなたはどうなのです?」
「わたしは魔獣を三匹倒したわ。住人の家にいた家畜を食べようとしていた魔獣をね。住人の生活を守るのも召喚師の役目。馬鹿の一つ覚えみたいに剣を振るだけじゃないのよ」
「私は村の入口を守っていました。魔獣の大群の侵入を防ぐのは、剣を振らねばできないことです。お姫様にはわからないでしょうがね」
互いに、一歩も引かなかった。
そして、黙っていたアルフェンが言った。メルとリリーシャではなく、キリアスに向けて。
「兄さん、これからどうします?」
「え!? えっと、んー……とりあえず、近隣の村に遣いを出して、アースガルズ王国とアルフヘイム王国に連絡、とか」
「わかりました。近くの村か……なぁ、グリフォンとマルコシアス、どっちが速い?」
「「…………」」
フェニアとサフィーが顔を見合わせる。そういえばどっち?というような顔だ。
そして、メルが慌てて言う。
「では、これからの指揮はわたしが執ります!! フェニアはアルフェンを護衛に近隣の村に書状を出して。アースガルズ王国軍が待機しているはずよ。残りは遺体の埋葬を」
「お待ちを、勝手なことは」
「王女命令よ」
「……っ」
リリーシャが押し黙る。
そう。メルはアースガルズ王国の王女なのだ。王族には逆らえない。
すると、サンバルトが。
「メル。勝手なことを」
「お兄様。あなたはまだ国王になったわけではありません。わたしと立場は同列のはず。わたしに命令する権限はありません」
「なら、お前の命令は私が上書きする。リリーシャたちは戦闘で疲弊している。オズワルドが戻るまで休息が必要だ」
「なら勝手にどうぞ。アルフヘイム王国軍がここに到着したときに、何もせずふんぞり返って出迎えるA級召喚士と、王国民を埋葬し死を悼むS級召喚士がどのように映り、どのような感想をくれるのかは非常に気になりますしね」
「む……ぅう」
「では、作業を始めなさい。アルフェン、フェニア、手紙を書くから一緒に来て」
「ああ」
「うん」
そして、キリアスとグリッツが動きだす。
ダオームをチラッと見たようだが、ダオームはリリーシャを見ながら指示を待っているようだ。
「グリッツ。厩舎にスコップはあったな?」
「はい。村の巡回をしたときに墓地も見つけました」
「よし。そこに埋めよう……止むを得ん。埋葬はみな一緒に行おう」
「あ、アタシが穴を掘ります」
「わたしも手伝います」
「……サフィー様は、グリッツを連れて供える花を摘んでもらってよろしいですか?」
「……はい!」
キリアスは、おぼつかなかったが指示を出していた。
まぎれもない、自分の意志で。
「…………」
「リリーシャ。少し休もう……お茶を淹れるよ」
「…………」
「姉上……」
リリーシャ、サンバルト、ダオームは、村長の家に向かった。
そして、残されたのはウルブス。
「やーれやれ……みんな仲良くできないもんかねぇ?」
ポツリと呟き、大きな欠伸をしてスコップを探しに歩きだした。