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『怠惰』の魔人ミドガルズオルム 

 魔獣が出現した。

 アルフェン、ウィル、フェニア、サフィー、メルは休憩していた家から飛び出す。

 すると、村の入口ではすでに戦いが始まっていた。

 戦っているのはA級召喚士たち。全員気合が入り、魔獣たちを徹底的に屠っている。

 ウィルは鼻を鳴らす。


「フン、雑魚は任せろってか……おい、オレらはどうする」

「……魔人が近くにいるはず。アネルは?」

「あ、あれ……? 子供たちと遊ぶって」


 フェニアはキョロキョロと探すが、アネルはいない。

 メルは目を閉じ、数秒そのままにしてカッと開く。


「まずは住人の避難を最優先に。入口の魔獣はA級召喚士たちに任せて、フェニアとサフィーは住人の避難誘導を。ウィルとアルフェンは周囲を警戒……魔人がどこかにいるはず、ッ───」


 メルが気付いた。

 アルフェンたちも気付いた。

 強烈なプレッシャー……それは、村の入口とは逆の方向。

 そこにいたのは、長身で褐色、白い髪にツノが生え、ジャケットにブーツを履いた男だった。

 どこか怠そうで、大きな欠伸をしてアルフェンたちを見る。


「あーあ……被ったのかなぁ……面倒くさいなぁ……まぁ、いっか。ふぁぁぁ~~~」


 男は目を細め、大きな欠伸をする。

 その背後には、大型の魔獣が何体もいた。オークにミノタウロス、さらに巨大なワニやコウモリが飛んでいた。


「じゃ、やっちゃって……」


 男───ミドガルズオルムは軽く手を振ると、魔獣たちは咆哮を上げ暴れ出した。

 これに反応したのはアルフェン、ウィル───ではなく、サフィーだった。


「マルコシアス、『アイスブランド』!!」


 サフィーがマルコシアスに乗り、氷の剣を生み出し投擲。オークに氷剣が突き刺さる。

 すると、魔獣の標的はサフィーに。少し遅れてフェニアが叫ぶ。


「グリフォン、『スパイラルエア』!!」

『キュォォーン!!』


 グリフォンの口からエメラルドグリーンの竜巻が発生し、魔獣を吹き飛ばした。

 ミドガルズオルムは「おおー」と軽く言う。


「すごいね。でも……こいつらいっぱい連れてきたよ。バハムートのやつより強いから、ぜんぶ倒せるかなぁ? まぁ、ベルゼブブの『蠅』を頭に寄生させると、簡単な命令しかできないから、暴れるくらいで言うこと聞かないんだけどね」


 ニスロクの『魔人通信』なら細かな命令を与えることが可能だが、ベルゼブブの『蠅』は違う。頭に蠅を寄生させ魔獣を操っているのだ。

 すると、フェニアが叫ぶ。


「アルフェン!! 魔獣は任せて魔人を!!」

「───わかった!! ウィル、行くぞ……ウィル?」

「…………」


 ウィルは、明後日の方向を見ていた。

 目を見開き、微動だにしない。

 アルフェンは、ウィルの視線の先を追い……見た。


「え……誰だ? 女?」


 空中に、人が浮かんでいた。

 褐色の肌。水着のような上下。薄いヴェールを纏った女が、手に大鎌を持って微笑んでいた。

 ツノが生えていること、そして全体的な特徴から魔人と判断できる。

 そして───ウィルは震え、笑った。


「見つけ、た……見つけた、見つけた、見つけた……見つけたァァァァァァッ!!」

「ウィル!? おい!!」


 ウィルは、一瞬で跳躍し見えなくなった。

 恐るべき速度だった。アルフェンですら追いつけないほどの速度。

 メルが盛大に舌打ちした。


「ああもう、作戦変更!! 住人はわたしが避難させるから、アルフェンは魔人、フェニアとサフィーは魔獣を!! ウィルは……もういい、放っておきなさい!!」


 メルは駆け出した。

 フェニアとサフィーも暴れる魔獣を追い駆け出す。

 そして、アルフェンとミドガルズオルムだけが残った。


「きみ、ジャガーノートだろ?……ああ、ほんとうに同化してるんだ」

「だから何だよ……奪え、『ジャガーノート』!!」


 右腕が巨大化し、右目の色も変わる。

 ミドガルズオルムは、ポケットに手を入れたまま言った。


「オレ、あんまり戦いたくないんだよ。眠気が飛ぶし、それにお前、すごく強そうだし……『完全侵食』もできるんだろ?」

「…………」

「知らないのか? 召喚獣が命を捧げて召喚士と一つになる『完全侵食』」

「は……?」

「はぁ~……アホくせ。オレたち召喚獣は肉体が滅びても魂は残る。時間さえかければ復活できるのに、召喚士と一体化した召喚獣は二度と復活できないんだぞ? 完全侵食なんてしたら、魂は完全に人間と同化して消滅しちまうのに……アホだねぇ」

「え……」


 これには、アルフェンが驚いた。

 召喚獣の完全な死───それが、『完全侵食』の代償。

 もしかしたら、モグは死んでも生き返れた可能性があった。でも、その可能性を捨て、アルフェンを生かしてくれたのだ。

 アルフェンは、右腕に触れた。


「ま、いいや。ジャガーノート……オレらの元王様、見つけたら殺せって言われてるし、ここらで終わりにしてやるよ」


 ミドガルズオルムは大きな欠伸をして、手をプラプラさせる。

 アルフェンは右手を握り、ミドガルズオルムに言う。


「モグは……ジャガーノートは、俺に命をくれた」

「あん?」

「平和な世界に生きろって、俺に託してくれたんだ……だから、俺は死なない。お前なんかに負けるもんかよ!!」

「あっそ。じゃあ死ねば?」


 アルフェンは右腕を巨大化させ、ミドガルズオルムに突っ込んでいった。


 ◇◇◇◇◇◇


 オズワルドは馬車を駆り、アルフェンたちのいる村から離れていた。

 馬車の中には、三番目の村の村長、そして他数名が乗っている……オズワルドは、そのうちの一人、若い少年に話しかけた。


王子(・・)、ご安心ください。このオズワルドめがあなたを安全な場所へ避難させましょう」

「……ああ」


 王子。

 それは、王の子という意味。

 オズワルドたちがいるのは、アースガルズ王国の隣国であるアルフヘイム王国領土である。アースガルズ王国ほどではないが大国であり、緑あふれる豊かな美しい王国として有名であった。

 アースガルズ王国から観光便なども出ている。誰もが知っている王国だ。

 その国の王子が、馬車に乗っていた。

 王子は、オズワルドに聞く。


「……なぜ、ぼくがあの村に隠れ住んでいることを知っていた?」

「預言があったのです。『隣国の王子、危機に瀕する。助けよ』という予言が」

「アースガルズ王国の『二十一人の英雄アルカナ・サモンマスター』か」

「そのような呼び名、初めて聞きましたな」


 オズワルドはにっこり笑う。

 隣国の王子、名はデリング。彼がこの地にいた理由は複雑な政治によるものだった。そのことを知るのは王族とその関係者だけで、三番目の村に住んでいた者は誰も知らない。知っていたのは、デリングの世話係だけだ。

 村長は、オドオドしながらオズワルドに聞いた。


「あ、あの……村の者は」

「……魔人との戦いは激しい物になります、我が部下でも厳しいかと……ですが、あなたと王子殿下だけは、この命に代えてもお守りしましょう」

「おぉ……あ、ありがとうございます!」


 村長は頭を下げた。

 ちなみに、村長とデリング王子はオズワルドの馬車。それ以外で『救う価値のあった命』は、デリングの世話係が運転する馬車に乗っている。

 数日間。村を見てオズワルドは見極めていた。使えそうな召喚獣を持つ子供たち、そしていい壁役になりそうな男を。

 いざという時は、壁役の男を使って逃げる。そして使えそうな子はアースガルズ王国の孤児院に入れ、オズワルドの私兵として育てればいい。


「殿下。このまま本国までお送りします。しばしの辛抱を」

「……貴殿の名は?」

「オズワルドと申します。アースガルズ王国ブラッシュ子爵家のオズワルドです」

「覚えておこう」

「ありがとうございます……」


 オズワルドは頭を下げ、ニヤリと笑った。

 そう。オズワルドの目的は……隣国の王子を救い、恩を売ってコネを作ることだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 数時間後。

 馬車は川辺で止まり、休憩となった。

 このまましばらく進み、アルフヘイム王国の護衛隊と合流。王子を引き渡す予定だ。

 オズワルドは、隠れて同行していた部下の召喚師に言う。


「お前はこのまま王子に同行しろ。私は引き返す」

「はっ……オズワルド様。アルフヘイム王国に恩を売り、魔人討伐の功績まで手に入れたとなれば、爵位昇格だけでなく、オズワルド様の影響力も増すことでしょうね」

「フン。その通り……ついでに、村の住人たちも微小だが救えた。S級たちは魔人と戦い、住人たちを死なせたとでも報告すれば、奴らの評価は下がるだろう。ククク、使えない住人をわざと魔人のいる方向へ誘導したなどわかるまい」

「ええ。預言の通りでしたね。『魔人は二体襲来する』と」

「ああ……実に面白かった」


 オズワルドと部下は声を出さず笑った。

 S級の強さは認めているので、魔人は討伐すると考えていた。その手柄をリリーシャのモノにして、オズワルドはたまたまそこにいた王子を救ったと報告する。オズワルドが見捨てた住人は、S級が守れなかったと報告すればいい。

 実際は、全てを知っていたオズワルドの誘導作戦だった。


「それと、言っておくが……」

「もちろん、他言しません。あなたの『毒玉』が体内に入っている。でしょう?」

「フン……知っての通り、私は用心深い。悪く思うな」


 部下の体内には、オズワルドの召喚獣『ア・バオア・クー』の作り出した猛毒の玉が入っている。オズワルドの意志で破裂させることが可能で、部下は一瞬で溶解するだろう。

 オズワルドは、真面目な顔で言った。


「この任務を終えれば『毒玉』を取り除く。お前を側近にしてやろう」

「おお……ありがとうございます」

「では、頼むぞ」

「はい!!」


 全て順調。オズワルドはそう思っていた。

 順調すぎるからこそ、ささいな油断が命取りになるというのに。


 ◇◇◇◇◇◇


 オズワルドたちのいた小屋に、小さなコウモリが天井にぶら下がっていた。

 召喚獣スクープバッド。

 新聞記者ベックマンの召喚獣は、今の会話をしっかり聞き、記録していた。


「なんてこった……あの、A級召喚師オズワルドが、こんな顔を持っていたとはな」


 ベックマンはメモを取り、召喚獣を戻す。

 ベックマンは、小屋から離れた藪の中で、静かにほほ笑んだ。


「へへ、いいネタをゲットしたぜ」


 新聞記者ベックマンは、『正義』に燃えた表情をしていた。

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