第2話
どうもこんにちは!
今話からいよいよ痛い展開に突入致します。
どうぞ生暖かく読んでやって下さいませ。
アフター5の駅前は、いつもに増して賑やかだった。
幸せそうな顔をした男女や、世に絶望したかのような表情を浮かべた若者。
多種多様な人が集まっている。
「そう言えばさ〜。」
彼女こと、桜井雪乃さんは言う。
「あの時のお礼って、まだだったよね〜。」
あの時、とは自転車の件の事だろう。
僕は反応に困り、曖昧に頷いた。
「ん!じゃあ、今日のは私の奢りねっ!」
おっと!そうは行くまい。
可憐な美少女に奢ることはあっても、奢られてしまったとあっては漢の名が廃る!
「いや、それは悪いよ。お礼って言うんなら、僕と友達になってくれた。それだけで充分だよ。」
これは素直に思う。
「え〜!!それじゃ、全然足りないよぉ〜。」
予想していた反応から余りにもかけ離れた回答が帰ってきた。
「だってね、あの時私、物凄く困ってたんだよ!知り合いも居ないし、携帯も家に忘れて来ちゃってて」
でね、と彼女は続ける。
「家からも学校からも離れてたし、自転車引いてたんじゃ遅くなっちゃう〜!って時に内田くんに会ったの。」
まるで正義の味方みたいだった〜。と言われてしまえば赤面する以外ない。
赤くなりながら歩いていると、小綺麗なオープンカフェが視界に入った。
「ここだよ〜♪」
と、僕の手を引いて行く彼女。僕の顔は既に信号機の様に赤くなっていた。
こういった店で聞かれる「何名様ですか?」という問いに対して、「2人です」と、返すことにまで赤面しながらも、なんとか注文を終える。
女の子と2人で。しかも美少女。たったこれだけの違いで、世界は劇的に変わるものだ。
中心からパラソルが生えているテーブルに隣り合って座っている。
彼女は楽しそうに、色々な話題を切り出す。
僕は、巧く答えることが出来ずに聞いている。
(あいつと居る時は巧く話せるんだけどなぁ…)
ふと、頭を過った考えを急いで追いやる。これでは一生懸命話してくれている彼女に失礼だ。
巧く話せなくとも、真摯に拝聴しよう。
カップが空になる頃、漸くそれなりの返事を返せるまでに落ち着いた僕だったが、時は無情にも過ぎ去っていく。
辺りの人通りは疎らになり、街はネオンの灯りに包まれていた。
「今日はありがと〜!このお店気に入っちゃったなぁ。また来たいなぁ〜。」
楽しそうに言う桜井さん。
結局、彼女に奢られてしまった。これはいつかお返しを用意しなければなるまい。
こちらこそ。僕も凄く楽しかったよ。と返した僕も、この店が少し好きになっていた。
帰宅後、暫く余韻に浸っていた。
風呂に入り、自室でパソコンを立ち上げながら携帯を確認する。
"着信:3"と表示されている待受画面から着信履歴を呼び出す。
18:00 鳴川 雨音
19:00 鳴川 雨音
20:30 鳴川 雨音
3回も掛けてくるということは、なにか大事な話でも有ったのだろうか。
鳴川雨音。僕の所属するバンド『アイオニアン5th』のメンバーであり、唯一の女友達。いや、義兄弟の盃を交わした中だ。
バンドでは、ツインギターとして、プライベートでは趣味の合う仲間として、雨音は僕の相棒だ。
急いで、電話を掛ける。
コール音。1回、2回、3回。
がちゃ。
「よ。何してたのよ?」何時も通りの軽い口調。
少し用事だ。済まなかったな。で、用事は?
「明日。土曜よね?」
うん。
「午後から練習ね。スタジオに2時集合。」
また、急だな。来週じゃなかった?
「スタジオの予約が取れなかったのよ。んで、明日キャンセルが出たよって店長から連絡あったから、明日になりました。」
まぁ、特に予定は無かったからおっけ。
「うむ。んじゃ。あ、明日来るとき例の新刊貸して。替わりに"シス☆ぷりん"のOVA貸したげるから。」
マジで?持ってく。
「「んじゃ。」」
電話を切り、床に就く。
明日は忙しくなりそうだ。早く寝てしまおう。