98 二つの国のギルドマスター達の秘密会議。
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――ノシュマン王国とダイヤ王国ギルドマスターside――
「――と言う情報を手に入れたんですよ。驚きましたね」
「それは……かなり確かな情報だろうなぁ」
「タキ様が実際に見たと仰るのですからそうでしょう」
「可笑しいとは思ったよ、帝王らしくない行動過ぎる。確かに女狂いの酒狂いって噂だが」
「それも、もしかしたら既に死んでいて、新しい帝王がまた毒におかされているのではないかのう。あの国の重鎮や家臣ならやりかねんわい」
「なんて恐ろしい」
と、二つの国のギルドマスターが集まり会話をしている。
私がユリから貰った情報は、今後を左右するには十分すぎた。
もし仮に国王が本当に愚王の場合は、トコトンまで突き詰めてやろうと思っていたのだが、その帝王が家臣や重鎮達から毒を飲まされ余命いくばくもない状態にさせられている事。
そんな中でのギルドマスターたちの暴走。
いや、国のトップを支えるべき者達の暴走は、目を瞑っている場合ではないのだ。
今でも充分な締め付けだが、本来受けるべきその締め付けは上層部にあんまり効果が無いのかもしれない。
だが、確実に下から崩れて行っているのは確かだった。
一度国民が流出し始めると、問題が根本から改善するまで流出は基本的に止まらない。
実際帝国にいた冒険者たちは次々にダイヤ王国に移動している。
冒険者とは身軽だ。
そしてどこのギルドにも所属できる。
場合に依っては山を突っ切ってナカース王国に行っている者も多いだろうが、それでもダイヤ王国に流れ込んでくる冒険者は日々増えるばかりだ。
「ユリが使役しているイワタ様が居なかったら諸々危なかった」と語るのは冒険者ギルドのドナンだ。
多くの冒険者が来るという事は、それだけ鉄やプラチナ、銀も使うという事だ。
魔物の素材はスタンピードのお陰と言うのもあれだが、今は潤沢にある。
だが、鉱石類と言うのはノシュマン王国と友好的であっても、潤沢に届くという訳ではない。
故に、今はユリの代わりに仕事をしに来てくれているイワタ様のお力は本当に助かっているらしい。
無論商業ギルドではユリの金を出す力にはとても助かっている。
値崩れが起きない程度に調整しながら出して貰い、何とか均衡を保っている。
国からの知らせで、後三年は元シャース王国の土地を浄化せねばならぬという事で、ユリの力には頼りっぱなしだ。
何時かはお礼がしたいが、今はそのお礼すら見当たらない。
「流石に三年は浄化となると……我がノシュマン王国も金は限られている。陛下にお願いしてダイヤ王国に余っている金が無いか聞くしか無いかも知れんな」
「ははは、ユリが更に忙しくなるね!」
「それ相応の報酬は考えたいが……彼女はレアスキル持ちだろう? 何を上げたら一番喜ぶのか見当がつかないね」
「多分、一番欲しいって言うのは『休日ですね』って素で言いそうだよ」
「何でユリはあんなに毎日忙しいんだい?」
「素直にあっちにこっちに働いてるよねぇ」
「裁縫ギルドとしては【体感温度が上がる付与】で更に輸出が増えるので嬉しいですが」
「調理ギルドでも何か発案して欲しいけど、料理に関しては調理ギルドに委託って言われてるからなぁ。まぁでも、冒険者にも売れてるし、難民の一時的な食事としても国からの補助で出してるから売り上げは凄いよ」
「その難民問題もあるんだよなぁ」
そう、別に男尊女卑をしない良心的な者達ならば文句はない。
だが、一部では男尊女卑を改めない馬鹿はいるもので、妻に暴力、娘に暴力と言うのは嫌という程見張りの兵士たちは見ることがあるそうだ。
その度に暴力を振るった男たちは檻に入れて隔離しているそうだが、彼等の根深い男尊女卑は治る事はない。
それもまた頭を抱える問題だ。
「男性が優れている、女性が優れている、どっちだっていいじゃーん? もう面倒じゃなーい?」
「レイル、真面目にしろ」
「だって君たちも思わないかい? 男女に差別するのも何かしら理由付けて騒いでさー。奴らを見ていると気持ち悪くなるよ。そもそも男性はそんなに秀でているかっていえばそうでもないし、女性の方が秀でているかっていうとそうでもないし。どっちもどっちなんだよ。どっちもどっちなら、ある程度支え合って行くしかないと思うんだよね」
「極論はそうだろうが……」
「女の癖になんだかんだって聞きたくないね! 帝国のアレは良くない!!」
「まぁ、アタシも女だからそう言う風に言われるとイラっとするねぇ」
「だよねサヤお婆ちゃん!」
「甘えんじゃないよ! ユリならともかく、可愛くもない!」
「も――お婆ちゃんも厳しいっ!」
そう言って場の空気を取り敢えず帝国に持って行かせると、ノシュマンのギルドマスターはクスクス笑いながら「でも、女性の癖にと難癖付ける人間は少なからず一定数は居ますよ」と答えた。
確かに一定数はいるだろうが、全員ではない。
「確かに一定数はいるだろうが、それで生きていて得をする事の方が多いのかい? ただの自己満足だろう?」
「さぁ? 男の矜持を守りたいんじゃないですか?」
「男の矜持じゃ飯は食っていけないよ。頭の後ろに目玉が付いてないのと一緒さね」
「サヤ様は辛辣ですわね」
「大体やっすい矜持持っていても仕方ないだろう」
「うーん、矜持くらいは持たせて欲しいな。それが男をより格好よく見せる一つのポイントでもあるんだからさ」
「全く……若いねぇ」
「そそ、若い故に男も矜持を持っていたいのさ。格好よく生きてるように見せたいじゃないか」
「そう言う矜持なら好きにしな。ただ、女まで不幸にするような矜持なら捨てちまいな」
「もう、サヤ様ったら」
そう言ってサヤお婆ちゃんから譲歩を貰った所で、「では、帝国の彼らの男尊女卑は治るのか?」と言う話になったのだけれど、9割で「無理」と言う結果になった。
そうなると、隔離か結婚している場合は離婚か、その辺りになるだろう。
所謂この国で言うDV被害と変わらないからね。
ダイヤ王国でもDVで離婚する夫婦はそれなりに一定数はいる。
何処でも根深い問題かもしれないが、あからさまに帝国の男尊女卑は国を挙げての事ゆえに尚更駄目だ。テリサバース宗教でも、男尊女卑は禁止されているのになぁ……。
今まで宗教問題にならなかった方が不思議なくらいだ。
いや、そう言えば――。
「ダレン。君は難民キャンプには何度か行ったよな? そこでテリサバース教会の事は聞かなかったかい?」
「ああ、聞いたよ。ずっぷりと男尊女卑に染まっていたそうだ」
「は? テリサバース教会の神父が? 嘘だろ」
「事実だから困ってるんだろうが……。助けを求めた女性たちはその神父に、『人道的支援』と称して首を落とされたって話だ」
「――っ!?」
これには全員が息を飲んだ。
テリサバース教会の神父までもがそこまで染まれる物なのか!?
厳しい修行の果て、やっと一つの国の神父になる事が出来るとまで言われているのに!?
「おかしいな……それは実におかしいぞ」
「ああ、あの国は可笑しい。何かが狂っている」
「保護した女性たちの話だけどねぇ……帝国は『腐敗臭がする』って言うんだよ」
そうサヤお婆ちゃんが口にすると、全員がサヤお婆ちゃんを見た。
サヤお婆ちゃんもまた、【破損部修復ポーション】を持って女性たちの心や体を癒しているのだ。
「アタシは嫌な予感がしてならないね……」
「「「「………」」」」
「そもそも、アンタ達も知っているだろう? 帝国の製薬ギルドマスターが呪いのアイテムを使って一人の少女を呪ったことを」
「ああ、それは聞いている」
「アタシ達製薬ギルドマスターは呪いのアイテムも作れる。無論解除の薬もね。だが、呪いの薬を作るのは簡単でも、それを解除する薬を作る方が大変で、飲ませた後も大変なんだよ。ユリはよく命があったもんだね……。流石レジェンド様が付いていたって事だろうが」
「そんなに危険なのかい?」
「ああ、解除する人間を殺すようになっている。アタシでも作ろうとは思わないね」
「ユリは知ってて作ったのか……」
「無謀な事をするもんだよ……若い身空で命を張るようなことをするなんて……全く」
ますますユリには出来るだけ休みを与えて上げたくなった。
とはいえ、まだまだ難しいのだろうけれど……。
「そう言えば、その男尊女卑の男達には【破損部位修復ポーション】は使ったの?」
「いんや? ああ、一度使ってみる価値はありそうだね」
「そうね、なんだか気になるわ」
――もしも、そのこびりついた様な男尊女卑が呪いのようなモノだとしたら?
その時は、【破損部位修復ポーション】でも治るのだろうか?
もっと別の何かが必要な気がするが……。
「呪い……だったら、治るのかい?」
「治らないね。もし呪いだったら男たちを纏めて【暁の魂】を使うしかない。それで何が起きるのかは想像したくないけどねぇ」
「使う時はレジェンド様達がいる時が宜しいかと」
「ああ、そうするよ」
増々あの帝国に蔓延っているのは――もっと根深い何かだと、言葉には出来ないが、もっと恐ろしいものだと感じることが出来た……。
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