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ネクロダンジョンでの異変

 月日は流れ、もうパーティー参加試験から半年。

 俺と茜はS級になるため、京都に出向いていたんだ。


 茜は駅から出ると、ぐい~と背を伸ばす。


「う~ん、本場に帰って来たって感じするなぁ。うちの関西魂がそう言っとる――せやろ橙矢」


「いや、関西魂ってなんだよ。それに茜は東京生まれ東京育ちの生粋のシティガールだろうが」


 俺がやれやれと首を横に振るとプンプンと擬音が聞こえてきそうな程茜はむくれる。


「うちの魂はここで生まれたんや!! つまりここは魂のふるさと!! 兎美味しいかのやまなんや!!」


「兎追いしだ、兎を食べるなバカ」


「ジョークやジョーク」


 ふにゃっと茜が笑う。


 もうこの頃にはすっかり軽口を言い合えるまで打ち解けていて、田貫さん呼びから茜に変わっていた。


 俺がいつまでも田貫さん呼びだったから、茜が地面で寝転がって駄々こねたり、ずっと耳元で茜、茜……うちの名前は茜や~と呟き続けられて、俺が根負けして呼び方を変えることになった。

 ――渋々だがな。


「ツッコミ入れるのすら疲れた……さっさと試験終わらして帰りてぇ……」


「うちみたいな美少女とおって疲れるとは何事や! ほら、うちの笑顔見て元気出しい♪」


 茜がニコっと笑って見せるが俺はそれを鼻で笑う。


「美少女……ねぇ」


「ちょ、何で半笑いなんや橙矢!」


「いや? 別に? 深い意味はないぜ? ほら、そんなことよりホテルチェックインしに行くぞ」


「ちょ、置いていくなや!」


 俺はスタスタと茜の前を素通りすると体をポカポカと叩きながら会社が予約してくれているホテルへの道を進む。



 □□□



 試験当日の朝、試験前の肩慣らし行ってくると、茜は朝早くからネクロダンジョンに行っていた。

 俺も同行しようか? と聞いたが、茜は慌てた様子で、一人で大丈夫やから絶対についてこんといてね! と言い残し、そそくさと出て行ってしまったのだ。


「全く、人をストーカーみたいに言いやがって、戻ったら絶対文句言ってやる」


 俺はゆっくりと宿泊しているホテルからネクロダンジョンまで移動する。

 そしてネクロダンジョン前につくと目についたのが、ダンジョン協会の従業員が慌ただしく動いている様子だった。

 どうも、試験前で慌ただしい……というわけではなさそうだ。


「あの、何かあったんですか?」


「今日試験を受けられる方でしょうか? ごめんなさい、ちょっとトラブルがありまして、開始が出来るようになるまでもう少々お待ち下さい」


 俺が従業員の人に声を掛けると、軽い試験時間変更の謝罪をされた。

 その後、そそくさと走り去ってしまう。


「一体何が……」


 そんな事を呟くとヒソヒソと話している人の声が聞こえてきた。


「聞いた? 何か中のモンスターの動きがおかしいって話でしょ?」


「聞いた聞いた、六十層のモンスターがいきなり大量発生したって噂だよ。避難誘導してて従業員達も手一杯だってさ」


 嫌な予感がして周りを見渡した。

 試験開始時間はもうすぐだというのに、先に行っていた茜の姿がなかったのだ。


 まさか……巻き込まれたのか!


「茜!!」


 俺は走ってゲートをくぐった。


「ちょ、君!!」


 従業員の制止も振り切ってダンジョンを駆ける。

 六十層につくと確かにモンスターだらけだった。


 人型骸骨がケタケタと笑い、鎧を着たスケルトンウォーリアー達、思わず鼻を抑えたくなる腐敗臭、体は腐り切りそれでもなお動き回るゾンビ軍団。


 普通ならソロで相手どる敵ではない、だが時間がない。

 俺はメイスを抜き、構える。


「そこを……どけぇぇぇ!!!」


 俺は集団に突っ込む。

 全員を相手どる必要はない。

 とにかく前へ、攻撃をメイスで受け流し避けては、茜がいそうな場所までひた走る。


 しばらく走るとモンスター集団を抜け、広い所へと出る。

 そこには……二人の人物がいた。


 一人はボロボロなロングコートを来た細見で青白い肌をした、不健康そうな若い男性。

 そしてもう一人は……ぐったりとして様子で、男性に抱きかかえられている茜だった。


 あの男……人間じゃない。

 人の言葉を話してはいるが、今まで会ったモンスターと同じ嫌な気配をしている。  

 喋る人型のモンスター、未知のモンスターなのだと直感的に理解してしまった。


 男がこちらへニコリと笑う。


「おや、まだ彼女らの生き残りがいたとは驚きだ。吾輩にあれだけやられながらも、まだ抗うとは……実に勤勉だねぇ」


「……なせ」


「うん?」


「茜を……離せって言ってんだよ!!!」


 俺は男に向かって駆ける。

 メイスを振り下ろすが、ひらりと軽く避けられた。


「おやおや、この子を知っているということは、彼女らの仲間ではない? ……だとすると殺すのは少々まずいな。少年よ吾輩の話を聞――」


「うるせぇ!! お前は……お前は茜に何しやがったしたぁぁぁ!!!」


 頭に血が上っているせいか、全く正常な思考判断が出来ていたなかったと自分はのちに思う。

 ひたすらメイスを力任せに振るい続け、軽く避けられる。


「うむ、ある程度実力がある探索者のようだな。仕方がない、えいっ」


「がっ!?」


 男の手がぶれた瞬間、体に衝撃が走る。

 それはあまりにも速い手刀だった。

 軽く体に当たっただけで地面に体がめり込む。

 強い……こいつ俺よりも……。


「あっ……力加減をミスった……我ながら手加減の練習をさぼるとは怠惰なことだ――さて、少年よ。これで実力の差は分かったであろう? もし、今見たことを忘れ、引き返すのであれば――」


「ざっ……けんな!」


 俺は手で男の足を掴む。

 強く握りすぎて男の足から血が出るが、男は全く動じる様子がない。


「全く話を聞かないとは君は吾輩の話を聞く権利を放棄している実に怠惰だねぇ、ほらこの少女の体を連れてさっさと帰りたま――」


 俺の手が赤く染まっていることを見た瞬間、男は目を見開く。


「おい待て少年、吾輩の血に触れたのか!? すぐに拭き取り給え! でないと後悔することに!!」


 ドクン……と心臓が跳ねる。


「なん、だ? 体が……熱い……」


 全身の骨が軋み、肉が断裂しているような痛みが体全体を襲う、まるで体の構造を作り変えられているようなそんな感覚だった。


『【スキル:罪なる者】を獲得しました』


「遅かったかぁ……」


 スマホからスキルを獲得した音声が流れると男は額に手を当てる。

 体の痛みが治まると、以前より体が軽くなった感覚があった。

 同時にバチンと電流が走ったように手に持っていたメイスが吹っ飛ぶ。


「一体……何が……」


「罪なる者を獲得してしまったな少年、こうなってしまっては仕方がない。もう少年をあちらに戻すわけには行かなくなった、一緒に来てもらうぞ」


「断る」


 俺はゆっくりと立ち上がる。


「さっさと茜を返せ、すぐに回復魔術とポーションで回復を――」


 言いかけた言葉を中断して体を捻る。

 直感だった、反射で体が動いた。

 そうしなければいけないと脳より先に体が動いた。

 元居た位置を見るとそこには――男の拳があった。

 

「残念、なら実力行使だ。非常に面倒だがな」

 

 気怠そうにその男は、俺との戦闘の意思を見せたのだ。

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