表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/105

車内での昔話

 魔王からの襲撃を受けた俺達。

 だが、その後は何事もなく車に戻り、次の目的地へと車を走らせていた。


「……」


「……」


「……」


「……」


 車内全員が無言。

 いや、魔王からの襲撃があってから言葉数は少なくなり、あまり喋ることはなかった。

 皆それぞれ先程の出来事について想いや考えることはあるだろうが、俺が考えていることは一つだ。


 無力感……その言葉に尽きる。


 全く歯が立たなかった。


 今まで俺は強くなったつもりでいたが、その考えを一蹴するかのように、あの魔王は軽々と俺達を払い除けたのだ。


 この力だけじゃダメだ――やっぱりもっと力がいる。

 もう二度と誰も失わないためにも、圧倒的な力が。


「あの魔王ちゃんだっけ? まるで、君たち二人がどう動くか分かってるような動きだったね」


 俺が考え事をしている際、無言の車内で一番に口を開いたのは、意外にも先輩だった。

 それに宇佐美が答える。


「……えぇ、そうですわね。味方ごと撃つ狂気じみた作戦も、初見殺しの水溜まりからの水弾も……何より、鈍亀の最速の二撃を全て分かった上で避けたこと。未来視でもしてるんじゃないかっていうくらい、完璧にしてやられましたわ」


 宇佐美のハンドルを握る力が強くなる。


「下手したらあそこで全滅……何てこともあったかもしれないですわね」


「……そうだね。まぁでも、魔王ちゃんの目的が何であったにすれ命が助かってよかったじゃん?」


 苦笑しながら先輩がそう返すとスッと宇佐美は握る力を緩める。


「……そうですわね」


 再び無言が続き、会話が全く続かない。

 だが、そこに陽子さんが手を挙げる。


「あの……魔王の目的は分からないのですが、去り際に言ってたことがあるんです。もしかしたらそれを伝えるために来たのかと……」


「――何を言われましたの?」


「はい、魔王はこう言ってました――ネクロダンジョンで待ってる、と」


 ネクロダンジョン……やっぱりどうあっても、あの場所で決着をつけるしかないのか。

 今まで散々頑張って、ここまできたんだ。


 もう、あの頃の俺ではない。

 自分しか守れなかったあの頃とは違う。

 過去との決着も一緒につけてやるよ。

 ――見守ってくれよ、茜。


 パンパンと先輩が手を叩く。


「はいはい♪ 重い話はここまで、楽しい話しよっか♪」


「そ、そうですね! 神経をずっと使ってると疲れちゃいますからね!」


「いいね、その調子だよ陽子ちゃん♪ じゃあ、親睦も深めるために質問タイム♪ 陽子ちゃんから♪」


「わ、私ですか!?」


 突然話を振られた陽子さんがアワアワとしながら考える。

 しばらく熟考した上で、口を開く。


「えっと、じゃあ橙矢君と宇佐美さんの出会いってどんなだったんですか?」


「わたくしたちの出会い……ですの?」


「また斜め上の質問だね?」


「だめ……でしょうか?」


 陽子さんが俺と宇佐美さんを交互に見る。

 俺は首を横に振った。


「別にいいよ。特に面白みもない話だけどね」


「面白みがなくて悪かったですわね! わたくしとしてはあなたとの出会ったことが、一生の恥ですわ!」


「あの時の負け兎がなんか言ってるなぁ~」


「何ですってぇ!! あの時は茜と二人がかりで勝ったくせによくもぬけぬけと!!」


「菜月ちゃん!? 前見て前!!?」


 後ろに振り返ろうとした宇佐美を先輩に制される。


「えっと……本当に何があったんですか?」


「気にしない気にしない……じゃあ、ちょっと長いけど聞いてくれ、所々記憶違いがあったら先輩が指摘してくれ」


 俺は記憶を呼び起こすように目を瞑る。


「俺と宇佐美の……いや、疾風迅雷と顔を合わせた日の話だ」


 語る語るは、昔の話。

 まだ橙矢が入社して間もない頃の話だ。



 □□□



 株式会社福田本社地下五階。

 そこには簡易ダンジョンが生成されており、いつもは、入社して間もない新人探索者の研修が行なわれている。


 だが、今回はその使用用途が違う。

 会社の若い探索者全員が集められ、顔を合わせていた。

 各々が緊張した面持ちで武器を携え整列する。


「おい、まじなのかあの噂」


 ヒソヒソと喋る声が嫌でも聞こえてくる。


「あぁ、疾風迅雷の今年いっぱいで二人が抜けるから、新たなメンバーを募集するために若い奴らを集めたって話だろ?」


「俺選ばれちゃったらどうしようかなぁ♪」


「ば~か、お前みたいなの入れるわけないだろ?」


「何だとこの野郎!」


「やんのかテメェ!」


 若いだけに血気盛んな探索者が取っ組み合いの喧嘩を始めようとした――その瞬間だった。

 カツカツと足音を鳴らし現れた人影を見た瞬間に探索者一同綺麗に整列する。


 集団の前に現れたのは、疾風迅雷メンバー。


 剣術と雷魔術の最強の使い手にして最高峰の鍛冶師、熊坂雷蔵。

 回復魔術、風魔術、武術などオールラウンドにこなし、戦場を駆けて戦う裁縫師、熊坂風音。

 最年少のレコードホルダーにして日本最強のシューター、宇佐美菜月。


 この三名が前に立っただけでビリビリと緊張が走る。

 全員が二つ名持ちだけあって、立っているだけで誰もが顔をこわばらせ、憧憬を抱き、恐怖する。

 そんな人達の前でふざけることなど誰が出来ようか、ましてや話しかけられる者など誰もいないだろう。


 ただ一人を覗いては……。


「あっ、菜月ちゃんやんけ! なんやこないな所に集めてどないしたん? メンバー募集の話って噂やけど♪ せや、今度また二人でどっか遊びにいこか♪」


 染めたであろう真っ赤に燃える火のような長い髪を束ね、紅玉のようなキラキラと輝くカラコンをした少女が宇佐美を見つめる。

 空気を読まない赤髮の少女は、宇佐美に対してフレンドリーに接するが、プイッと視線を逸らされていた。


「……今は仕事中ですわ。話は後で聞くから、今は黙って話を聞きなさい」


「は~い♪」


 はぁ……と深いため息をついて、宇佐美は持っていたマイクを親方に渡す。

 マイクを受け取った親方はニカッと笑う。


「よぉ~お前ら、疾風迅雷のリーダー雷蔵だ。もう既に噂で知ってるやつもいると思うが、お前らを集めたのは他でもない! オレ達疾風迅雷に新たなメンバーを迎えるためだ!」


「「「「おぉぉぉ!!!」」」」


 会場に集められた全員が感嘆の声を上げる。


「そのためにテストを受けてもらう。な~に、難しいことじゃねえ」


 疾風迅雷全員が武器を構える。


「オレ達と戦って自分を認めさせろ、以上!」


 ざわざわと周囲が動揺する。

 宇佐美はマイクを親方から取り上げた。


「おじ様は説明が短すぎですのよ」


「うちの旦那がごめんなさいね菜月ちゃん」


「いえ、いつものことなので気にしてませんわお姉様。ごほん! それでは改めてルール説明をしますわ。集められた皆様で臨時のパーティーを組んでいただき、わたくしたち一人を指名して戦っていただきますわ。その戦いでわたくしたちが実力を判断し、採用を決めますわ」


 説目が終わった後、ピョンピョンと赤髪の少女は跳ねる。


「はいは~い♪ 勝ってしまった場合はどうするんですか♪」


 その赤髪の少女の質問に対して宇佐美はニヤリと笑う。


「もし勝てるようでしたらパーティー全員無条件で採用でいいですわよ。出来るのなら、ですが」


 暗黒微笑を浮かべて、宇佐美はそう返す。

 誰が二つ名持ちに勝てんだよ、とその場の全員が早々に勝利を諦めた瞬間だった。


「おぉ~ほな、本気でいこか!」


 赤髪の少女だけはやる気満々のようだが……。


「それでは今から十分後に開始しますから、それまでに組んでくださいまし。組めないようでしたら人望がない、もしくは人格に問題ありと判断し、無条件で不採用としますわ。では始めてくださいまし」


 そう言うと、全員が一斉に散る。


「よ~し、うちとメンバー組みたい人、この指と~まれ!」


 赤髪の少女が指を天高く挙げる。

 だが……。


「あれ?」


 全員が目を逸らして、赤髪の少女がぽつんと一人取り残され、完全に孤立無援状態だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ