オークのブレゼ(2)
「わ~お♪ いつ見ても二人の戦闘はすごいね♪」
「これが共闘した二人の実力……」
画面が切り替わった瞬間、それが開始の一言だった。
映像が戻ると絶賛宇佐美とタヌポンの二人。
その前には二足歩行で太くたくましい手足、その剛腕に武器など装備し、元来の豚よりも醜悪に顔を歪めさせたモンスター、オークの集団を相手に戦闘を行っていた。
――だけど、その映像を見た視聴者の反応は、
:何じゃこりゃあ!?
:映像開け初手煙幕やっば!!
:この場所で特撮の撮影でもありました?
:だとしたらスモーク焚きすぎwww
:しかも煙から出てくる二人の動きが全く追えねぇ
:最新カメラでも追えないってどうなっとるん?
:前よりタヌポン速くなってね?
:恐ろしいこというなよ……
:これ以上成長させてどうすんねんwww
映像では、上空から飛び出した宇佐美が、多重の魔方陣を展開、水の弾丸を雨の如く降り注がせる。
地上ではその弾丸をまるでどこに撃つか分かってるかのようにスルスルと避けながら、オークの頭を殴り飛ばして、自分へとヘイトを集めるタヌポンの姿。
:水弾とオークの首が舞っとるwww
:地獄かな?
:シュールすぎる
:それに宇佐美ちゃんすげぇ
:あの発射速度と弾幕の量はヤバいわよ!!
:普通、あんな魔力制御したら頭沸騰しますわよ!?
:規格外すぎるwww
:流石日本に数人しかいない二つ名持ち
:二つ名持ちの戦闘はすごいねぇ~
:ていうか、それを普通に避けられてるタヌポンよ
:ノールックで避けてませんか?
:何で二つ名持ちと肩並べて戦えてるんだよ
:ど っ ち も ば け も の
:へぇ~探索者ってこんなこと出来るんだぁ(白目)
:そんなわけあるか!?
「あはは……」
「あの子達は、結構特別だからね」
虎のお姉さんとYさんは声を引きつらせているのが分かる。
その間にも、戦闘は継続して続く。
「狙いのオークの集団とは、初手からついてますわね♪ しかも大量大量ですわ♪」
宇佐美はダダダとオークの首を器用に弾丸で飛ばす。
仮面越しでも、宇佐美のテンションが高いのが分かる。
「こっちにも、少しは、とっとけって、のッ!!!」
弾丸を避けながら、タヌポンは空中で体を捻って蹴りを入れる。
普段なら一撃で木っ端みじんになるが、90層のモンスターは頑丈で、首から上が飛ぶだけで済んでいる。
つまり……タヌポンは手加減なしでも食材確保が可能なのだ。
「「食材大量ゲットだぜ(ですわ)!!!」」
:実は仲いいだろお前ら!?
:そりゃあ(肩並べて戦えるんだから)そうでしょう
「「誰が仲いいって(んですの)!!」」
:やっぱそうじゃないか(歓喜)
:敵対してる同士背中預け合う展開いいよね
:分かる~
:どっちもツンデレ?
:お兄様のツンデレは重要がなくってよ!
:男のツンデレに需要なんて……
[シュガー]:何をおっしゃるんだお! 最高だお!!
:――需要、在りましたね
:何だよ……結構あるじゃねぇか……
:団長! 何やってんだよ!!
「えっと……もうこの後はほぼ作業っぽいし、何か二人で雑談する?」
「そう、ですね。私達の出番はなさそうですし」
「ということで、聞きたいことある? あっ、お姉さんのスリーサイズとか聞きたい♪ もう、みんなおませさ――」
:いえ、結構です
:地雷っぽいので、ごめんなさい
:何か……ごめん
:重そうな女性はちょっと……
:すいません勘弁して下さい
「ひどい!? うぅ、―――ちゃん達並に、ここの視聴者冷たいよぉ……」
「お姉さん!? ここでタヌポンさんの本名言わないで下さいよ!」
:草
:まさかの本名公開されるとやったwww
:あぶねぇぇぇ!
:地雷(本名バラシ)
:とんでもない爆弾じゃねぇか!?
「いやぁ、うっかりうっかり♪ お姉さんこういうの慣れてなくてね?」
「フィルターかけといてよかったです……危うくバレるところでしたよ……」
「ごめんねぇ~」
あははと虎のお姉さんは後頭部に手を当てて笑う。
:全く反省してなくて草
:反省反省反省反省反省教育教育教育教育
:某会社かよwww
:ていうか、タヌポンの本名知ってるのか
:本名知ってるってことは、タヌポンと知り合いなの?
:今更だけど、虎のお姉さん何者?
:ただの技術スタッフじゃあ~ないな!
「ふっふっふ、さてさて――それはどう……」
「タヌキさんの前会社の元先輩でしたわ」
「ちょっ!? 宇佐美ちゃん!?」
:あっさりばらされてて草
:あの激しい戦闘中でもこっちの会話聞こえてんのかよ
:瞬殺されるオークさんの気持ち考えたことあります?
:善良なオークもいるんですよ!
:↑モンスターに善良もくそもあるか!?
:確か前タヌポンがクビになったって言ってたやつか
:えっ、まじ? タヌポン会社務めてたの!?
:新参だから知らんかったわ
:というか、何で宇佐美ちゃんそれ知ってるの!?
:やっぱ出来てるんだ!
「「絶対にない(ですわ)」」
:息ぴったし、パート2
:まぁ、真面目な話をすると宇佐美さんのウィキ見てみ、それをタヌポンのドラプロのホームページにある経歴と並べれば……ほらね? 二人とも同じ会社に勤めてる
:先輩後輩の仲ってこと?
:あんま配信者のリアル探るの好きじゃないんだけど
:見てみるかぁ
:というかこんな、ウィキあったんだ?
:まぁ、調べればいくらでも出てくるよな
:しかも二人とも会社があの福田で草
:あの号泣会見のかwww
:でも、二人とも社長がやらかす前にやめてるな
:あれ? だとすると辞めさせられた名簿探れば本名が
:それ以上はいけない
:配信者のリアルを探るなとあれほど
:というか、集団解雇してるから人数絞れんわ
:ざっと……数十人はいるな……
:バイト含めたら、もっとだぞ!
:あの社長やっばwww
:やっぱ無能じゃないか!!
:集団解雇する奴が有能なわけないだろいい加減にしろ
「あはは……まぁ、とりあえず話戻そっか?」
:確か質問だったけ?
:セクハラする気失せたし、真面目にするか
:じゃあ……今後の配信で役に立ちそうな情報で一つ
:そうだな、よく聞くタンクとかの役割について
:い ま さ ら
:まぁ、タヌポン見てるせいかタンクとは? ってなってるし
:昔は多かったらしいけどね
:誰に聞いても今時やってる人いないとしか言われない
:な~ぜ、なぜ?
:現場の声が聞きた~い
「オッケー♪ じゃあ、タンク含めて探索者パーティーにおける定石についてお話ししようか♪」
「何か授業始まったんだけど……俺の配信なのに……」
「まぁ、単調な絵面ですし、視聴者飽きさせないためにはいいのではなくて? それに一応仕事、だ・け・は・出来ますし」
「それもそうだな」
:ひどい言われようwww
:先輩後輩仲いいな
:タヌポンが冗談言うの超貴重じゃね?
:普段優しい口調だから珍しい
:これが元同僚同士の会話ってやつか
:こんな職場なら毎日楽しそうやなwww
:なお、福田なもよう
:昔はいい経営してたんだぞ?
:あの社長が無能ってだけで……ねぇ?
:社長のあれな印象が強すぎぃ!
「早く始めてくださいよ先輩」
「そうですわ先輩、先輩なんですからしっかりしてくださいまし」
「……ねぇ、お姉さんにみんな何か恨みでもあるの?」
「「いや全く?」」
:特に?
:初対面で恨むも何もないですよね?
:それってあなたの感想ですよね?
:何言ってるんですか?
:いつもタヌポンはこんな感じですよ?
:全くこれだから素人は
「これがデフォって、タヌポンちゃんの普段はこんなにいじめられてるの!? 本当に大丈夫!!?」
「まぁ、慣れればそういうもんかなって」
:お姉さんこの配信は初めてかい?
:まぁ、ゆっくりしていけや
:いずれ慣れるさ
:タヌポンもそうだったし
:細かいこと、気にするな!!
「……お姉さん、ちょっと怖くなってきちゃった」
そう言って、若干声が引きつりながら虎のお姉さんは、説明のための準備を始めた。




