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SS:シュガーの推し活

 私の朝は早い。


 早朝四時に起床し、推しの配信を聞きながらランニング。

 大体一時間程運動したら、軽くシャワーを浴びる。


 その後、推しの料理配信を見ながら調理し、朝食をとる。

 メイクなど、会社に出社する準備を済ませてから出社。

 会社に付いたら、メールなどの確認作業、スケジュール管理など仕事をこなす。


 前までは残業をしていたが、推しに言われてからはしっかりと仕事の時間内に終わらすようにして帰宅。

 帰宅後も推しの配信を見ながら、夕食の準備から就寝まで推しの配信を、何度も見返してから眠りに落ちる。


 これが私のいつものルーティーン。

 仕事でも日常でも推しを感じ、推しに貢ぐために働く。


「それが推し活というものだお!」


「……でも、その子確か年齢的には男子高校生なのよね? それって、あんたまさか――ショタコンに目覚めたの?」


「断じて違うんだお!?」


 私は友人の言葉を否定する。


 たまの休みに、私はファミレス内で友人と会っていたのだが、話の流れでどんな生活を聞かれたので、素直に答えただけなのにひどいんだお……。


 友人は先程の発言が冗談だと言わんばかりに笑う。


「ごめんって、萌がそんなに夢中になるの珍しくてさ? どんだけ、あたしが色んなこと勧めてもはまらなかったから意地悪したくなっちゃんだって」


 カランと友人はコップの中の氷をストローでくるくると回す。


「それにしても、どういうきっかけで推すようになったの? めっちゃ聞きたい」


「……長くなるお?」


「いいじゃん、聞かせてよ♪」


「……」


 友人は机に乗り出す勢いで私に詰め寄ってくる。


「仕方ないお、じゃあせっかくだから話すお。私が推しに出会う話お!」


 私はメガネをクイッと上げる動作をして話し始める。


 あれは……確か、私が入社してそんなに日が立っていない頃だった。

 入社したての私は、特に仕事にやりがいを感じず、ただ言われた仕事をこなす機械のような生活を送っていた。

 ただ内定が決まった大手だからという理由で、入っただけでこの仕事がやりたくて入ったわけでないし、仕事なんてこんなもんだと思ってた。


 だけど、ある日私が新人スカウトを命じられた時に、確認のため様々な配信を見ていた時に、とある配信が目に留まったのだ。


「それが、推し……タヌポンとの出会いだったわけね」


 そう、それがタヌポンさんとの出会い。

 配信を始めたての頃は、若くして働いていたのに、無職になった、ただの幸薄な少年という印象だった。


 だけど、回を重ねるごとにドンドンと明るくなり、リアルでの仕事が決まって、とても嬉しそうにしているのを見て、私まで少しだけ嬉しくなった。


 レッドドラゴン討伐回の時、彼はボロボロの状態。

 もう諦めればいいのに、どうしてそこまで頑張れるのだろうか――私はこの少年を理解出来ずにいた。

 その後、逆境にも負けず少年は偉業を成し遂げたのだ。


 次の回のパーティー会場では、私も出席していた。

 私はその時、タヌポンさんとたまたま話す機会があったので、聞いてみたのだ。


「何でそんなに仕事を頑張れるのですか? やっぱり、お金のためですか? って」


「うわぁ……初対面でそれ言われたら、あたしだったらキレてるね。特にあんたの顔きついんだから尚更さ?」


頭を抱えて私はもだえる。


「あれ言ったのは、私にとって黒歴史だお……でも」


「でも?」


 私はその時のことを思い出して、思わず笑みが漏れる。


「それを言ったおかげで、私は仕事に対する考え方が、変わるきっかけの言葉を貰うことが出来たんだお。もちちろん、謝罪も兼ねてしっかりと赤スパしたお!」


「いや、聞いてない聞いてない……それより、推しに何て言われたのさ? そっちのほうが気になる」


「……タヌポンさんはこう言ったんだお――確かにお金のためもありますよ? でも、俺は誰かに役に立てるのが、一番嬉しいんです。俺のやってきたことが誰かの役に立ってて、その上お金も貰えるなんて凄いことじゃないですか? ――って言われたんだお」


「えっ……何そのポジサイコみたいな発言。優し過ぎるというか、そこまでいくと逆に引くわ。優しさの化け物かよ、こっわ……」


「推しへの暴言はそこまでだお!」


 ムゥと頬を膨らませて、友人に抗議する。


「確かに彼の言ってることは綺麗ごとかもしれないお。でも、あの時の言葉に私は救われたんだお――今まで何となく仕事してたけど、私の仕事も誰かのためになっているんじゃないかって、意識しだしたら仕事が段々と楽しくなってきたんだお。そんなきっかけをくれた推しには感謝しかないお」


「オタクの早口怖いって……それで、担当マネージャーになったんだっけ?」


「そうだお! しかも仕事頑張ってると毎回会うたびに、推しが褒めてくれるんだお!」


「やっぱいい子なんだね。すごい純粋――ただ、あんたが欲望おされられなくて、未成年に手出したとかマジでやめてね? 友人としてインタビュー受けるの、あたしやだよ?」


「そんなことしないお!? 私のこと何だと思ってるんだお!!?」


 友人は、ジト目でこちらを見る。


 絶対にしないお?

 イエスタヌポン、ノータッチの精神でいつもいるお。

 私は壁……私は推しを見守る壁となるんだお~。


「あれ、佐藤さん?」


 声のした方へと振り向くとタヌポンさん――もとい、葉賀さんがそこに立っていた。


「葉賀さん? どうしてこんなファミレスにいるのですか?」


「妹達との買い物に付き合ってたんです。でも良かった、タイミング良く、佐藤さんと会えて」


「私に?」


「はい、渡したい物があって」


 葉賀さんは、手に持ってる袋から贈り物用にラッピングされた箱を差し出してきた。


「いつもお世話になってるいる感謝の気持ちです。良かったら受け取ってください」


「……」


「あっ……友人さんとのお話邪魔しちゃって申し訳ないです」


 葉賀さんがペコリと友人に頭を下げる。


「気にしないでよ」


 手をひらひらさせ、気にしていないと言う。


「じゃあ、せめてここは奢らせて下さい。邪魔しちゃったお詫びということで、それじゃあ佐藤さん、また仕事で」


 そう言って、葉賀さんは私達の伝票を持ってその場を立ち去ってしまう。


 友人がニヤニヤとこちらを見る。


「あれが、あんたの推し? すごくいい子ね」


「……」


「萌? どうしたの?」


「ふぁ……」


「ふぁ?」


「ファンサが過剰だおぉぉぉ!!」


 あまりにも過剰なファンサにバタリと倒れる。


「ちょっと萌!?」


 友人の声が聞こえるが、今の私は幸せな気分でいっぱいだ。


 あぁ……いい夢見れそう。


 その後、友人が呆けた状態の佐藤を自宅まで運んで、正気に戻った佐藤が怒られたのは、言うまでもないだろう。

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