表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/105

叛逆者

 ”あぁ……体が……動かない”


 レッドドラゴンに押し潰されたってのにまだ死んではいないようだ。

 あれだけの攻撃を食らって生きてるなんて、我ながら頑丈なものだ。


 すぐにでも起き上がりたいが、体が思ったように動かせない。

 骨の何本か折れてるな……これ。


 視線だけレッドドラゴンに向ける。

 仮面越しにレッドドラゴンがブレスを吐こうとしているのが見えた。


 陽子さんはスキルのせいで動けずに、その場でガタガタと震えて怯えている。


 ”俺は陽子さんを助けたいのに……”


 体に力を入れようとするが立ち上がることが出来ない。



 ”また……なのか……”


 両親の時も、茜の時もそうだった。

 俺の手はいつだって、大事な時に届かない。


 目の前で何も出来ない無力な自分。

 それを変えたくて探索者として強くなったつもりでいた。

 だけど、ステータスがカンストしてから、俺はそれ以上強くなることが出来なかった。


 ここが俺の限界なんだと、勝手に決めつけて。

 いつの間にか強くなる事を諦めていた。


 その結果が――これだ。


 限界を感じて諦めたその日から、俺は失うことの恐怖が、ドンドンと強くなっていった。


 誰かの期待を失うのが怖い。

 誰かからの信頼を失うのが怖い。


 必要とされないことが怖かった。


 失ってばかりの人生。

 だから何も失いたくて現状維持を選んだ。


 パーティー解散の時も何かを変えることが怖くて。

 結局会社に留まることを選んだ。


 だけど、会社を辞めさせられ、現状維持すらままならなくなった。

 会社を辞めさせられた時はもうダメだと絶望した。


 探索しない俺自身には何の価値もない。

 何もない空っぽの自分だ。

 ――そう思っていた。


 だけど、仕事をやめたからこそ気づいたんだ。

 俺はまだ全てを失ってなどいない。


 配信をきっかけに俺は色んな事に気づけた。


 俺を心配してくれる家族がいる。

 自分に声を掛けてくれる友達がいる。

 寄り添い、頼り、頼れる仲間がいる。

 俺の料理を笑いながら見てくれたリスナーがいる。


 まだ俺には残っている。

 そんな当たり前の事をみんなが気づかせてくれたんだ。


 拳を強く握りしめる。


 龍巳さん……陽子さんと出会ってから、茜の面影を追ってしまった。

 陽子さんと一緒にいると、何故か心地よくて、まるで茜と一緒にいた時に戻った気さえしたんだ。


 だけど、茜はもういない。

 陽子さんは茜じゃないのだから。

 ――頭では分かってる。

 だけど姿のせいで、茜の陰がちらついた。


 違うと強く否定できる自信は、俺にはなかったんだ。

 だから必死で自分を取り繕ろって気にしてない振りをした。

 感情は全て仮面に隠して。


 でも、隠したい俺の弱さを宇佐美は許さなかった。

 ――過去からは逃げられないと。


 そんな宇佐美に俺は前へ進めと言われた。


 茜の一番の親友だったあいつが。

 守れなかった俺を一番恨んでいるだろうあいつが、俺にそう言ったんだ。


 ――だから、もう現実から、過去から逃げないと決めた。


 過去も後悔も背負って、茜との約束を果たす。

 俺はもっと強くならなければいけないんだ。


 レッドドラゴンなんかに負けてる場合じゃない。

 こんな所で立ち止まってなんていられるか!


 限界? 不可能? 

 そんなもん、いつでも超えてきただろうが!!


 瞬間、ふっと体が軽くなる。


 さっきまで動けず、全身ボロボロだというのに立ち上がることが出来た。

 火事場の馬鹿力って奴か。


 その姿を見て陽子さんが嬉しそうにこちらを見る。


「良かった……良かったです……」


 だが、喜んでもいられない。


 状況は変わっていないのだから。

 火炎がもうすぐそこまで迫っている。


 圧倒的不利な状況なはずなんだけど、何でだろうな。


「全く負ける気がしない」


 俺は陽子さんを庇うように前に立ち、拳を構える。


 体に力が溢れて仕方ない。

 失う恐怖など微塵も感じることはない。


 生まれ変わったような清々しい気分だ。


 俺は拳を前に出す。


「終わりにしようか! レッドドラゴン!!」


 拳にオーラのようなものが収束する。


 彼は気づいてないようだが、橙矢はあるスキルを発現させていた。


 そのスキルの名は【叛逆者】

 守りを捨て、全てを力に――攻めに転じるスキル。


 罪なる者のスキルを背負い。

 それでもなお、戦うと決めた者に送られるスキルだ。


 取得条件は最初から満たしていた。

 だが、彼の心はまだ停滞していて、スキルから認められていなかったのだ。


 自分の弱さと向き合い、前に進む勇気を持ち。

 過去と向き合うと覚悟を決めたことで、ようやく今……

 スキルの発現へと至ったのだ。


 あまりにも遅すぎる覚醒。

 だが、スキルはようやく彼に答えた。

 もう、彼に恐れるものはない。


 渦巻いた火炎が眼前にまで迫る。


 前へ一歩進もうとした瞬間。

 俺の背中を誰かが優しく押した気がした。

 それはとても温かく……懐かしい感覚。


 ”きばりぃや! 橙矢!!”


 その幻聴に、思わず俺は笑みがこぼれた。

 ありがとう茜。

 俺頑張ってみるよ。


 もう俺は後ろは振り返らない。

 俺は前を向いて、火炎に拳を振るう。


「【叛逆者の矛(リベリオン)】!!!」


 拳のオーラが螺旋を渦巻き、火炎に衝突する。

 火炎とオーラが拮抗し、せめぎあう。


 その余波で周囲の岩などが吹き飛ぶ。

 立っているのもやっとなほどだ。


 俺は両手両足に力を――持てる全てを出し切る。


「貫けぇぇぇ!!!!」


 俺は拳を振り抜いた。


 オーラが段々と火炎を押しのけ、螺旋のオーラがレッドドラゴン本体へと押し寄せた。


 レッドドラゴンに螺旋が当たった瞬間。


 ドガァァァン!!!


 という轟音とともに、オーラがレッドドラゴンを貫く。 


 地面を揺らすほどの巨体が沈む。

 最後に絶叫する事もせず。

 レッドドラゴンは地面に伏したのだ。


 王者は陥落した。

 レッドドラゴン討伐戦。

 勝者は葉賀橙矢と龍巳陽子だ。


 陽子さんは感極まって泣いてしまう。


「やった……」


「よし、やっ――!」


 瞬間、スキル効果が切れて痛みが戻ってくる。

 全身の骨が軋み、体から血が溢れた。


「ごふ……が……」


 意識が朦朧とする程の痛みで、目の前が霞んで見える。

 限界……だな……


「――――!!!」


 誰か叫んでるのは分かるが、音がよく聞こえない。


 やばい、無理しすぎた……か……

 死ぬ……かも……


 俺の意識はそこで途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ