レッドドラゴン討伐配信(2)
階層ポータル前に着くと、何やら騒がしい。
遠くから見ると、そこには集団でポータルを占拠している者達がいるようだ。
周りの探索者に圧をかけ、近寄らないようにしている。
十中八九、スダモの社員だろ。
龍巳さんはその光景を見て、俺に耳打ちする。
「ここは見張られてます。諦めて階層内部から進みましょう」
「そうですね。余計な戦闘は避けた方がいいですから」
俺達がその場を去ろうとした瞬間だった。
「タヌポン! いるのは分かってんだよ! さっさと出てこいや!」
集団のリーダーのような奴が俺を呼ぶ。
幸い位置はバレてないようで、キョロキョロと周囲を見ながら、ただ叫んでいるだけのようだ。
途中で俺はタヌキの仮面を外してるし。
龍巳さんは逆に龍の面をつけてるのでバレていない。
多少は目立ってはいるだろうが、タヌポンと龍巳さんとは誰も思わないだろう。
集団に背を向けて、ダンジョンの階段を登ろうとした時。
後ろからリーダー男が叫ぶ。
「福田の社員がどうなってもいいのか!」
俺の足をピタリと止めさせた。
振り返って集団の中を見ると、確かに見覚えのある男性社員がいる。
「僕の事は気にしないで行ってください!」
「黙ってろ!!」
鈍い音が響き、男性社員が吹っ飛ぶ。
俺が戻ろうとした時に龍巳さんに手を掴まれる。
「今行ったら相手の思うつぼです。――辛いとは思いますがここはどうか……こらえてください」
震える手で龍巳さんに懇願された。
――龍巳さんだって悔しいんだ。
自分の手を強く握りしめる。
「分かって……ます……」
俺は階段を一歩一歩、足取り重く上る。
「は~い、出てこないのなら。こいつ脱がしま~す♪ ――おい、そいつ押さえとけ」
「うっす」
「やだ……いやだ!」
悲痛の叫びに思わず振り返ってしまう。
男性社員は逃げようとするが集団に抑え込まれる。
周りは助けようとする者もいるが、集団で阻止されて近づけない。
このままでは元同僚がひどい目に合ってしまう。
状況を変えられるとしたら、それはこの場にタヌポンが出るしかないだろう。
俺はタヌキの仮面を被る。
「ごめん、龍巳さん……でも、見捨てては行けない」
「はい……あなたならそう言うと思いました」
龍巳さんは嬉しそうな声音でそう言った。
俺は階段の上から飛び降り、集団のど真ん中に着地する。
「来たな! タヌポン!」
「ごめん、なさい……」
泣きながら脱がされかけの男性社員は謝る。
俺は首を振る。
「あなたは悪くありませんよ」
リーダー格の男を俺は仮面越しに睨む。
「来てやったぞ。さっさとその人を解放しろ」
「ば~か! 素直に渡すとでも思ってんのか?」
リーダー格の男が男性社員を起き上がらせ盾にする。
こいつ、躊躇もなく人を盾にするあたり、こういう事したのは一度や二度じゃないな。
「随分と大胆な犯行だな? スダモの社員がこんな事していいのか?」
「スダモ? さて何のことだ? 俺は福田所属の社員だぜ!」
舌を出して、こちらをバカにする。
俺は元社員だから分かるが、こんな社員を知らないし、見たこともない。
――あぁ、そう言う事か。
「スダモから福田に移籍させたんだな。全ての責任を福田に押し付けて、会社が倒産したらスダモに再雇用って流れか……」
「何言ってるか分からねぇな?」
リーダー格の男はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。
吉田社長、思いっきり妻に見捨てられてるじゃん。
天罰が下ったと喜ぶべきところなんだろうけど。
スダモ社長が罰をまだ受けていないから、まだ素直に喜べないな。
リーダー格の男が顎で指示し。
集団の一人が剣を持ってゆっくりと歩いて来る。
「知ってんだぜ? お前今ステータス下がってんだろ? あのバカな副社長もよくやったぜ。そんな事したって、クビは変わらねぇのにな?」
「……なんだと」
もしかして、さっき頭上から降ってきたのはステータスを低下させるポーションだったのか。
どうりで体が重いと思った。
いや、今はそれはどうでもいい。
問題はクビがどうという話だ。
リーダー格の男は笑いながら話し続ける。
「クビも何も会社自体無くなるから意味ないっての! スダモに雇ってもらえるとでも思ったのかよ。本当に最後の最後でいいはたら――」
「――少し黙れ」
俺は怒気を強めて言葉を発する。
あの人は俺がクビになる時も何度も何度も謝ってくれた。
力になれなくて申し訳ないと泣きながら。
こんな一社員に副社長が、だ。
なのにこいつは!
リーダー格の男がバカにしたようにこちらを見る。
「はぁ? 何いきってんの?」
「笑うな。会社を守ろうとした副社長の覚悟を――お前なんかが笑うな!!」
「うるせんだよ! おい、もうやっちまえ!」
剣が振り下ろされ、俺の頭に刃が迫る。
「脳みそぶちまけろ!!」
「遅すぎる」
俺は剣を振るってきた手を掴む。
「あ?」
掴んだ反対側の手で俺は男に掌底を打つ。
「がっ!?」
顎に当て脳が揺れた男は、力なく地面に突っ伏した。
その光景を見たリーダー格の男は、何とも間抜けな表情だ。
「……は?」
「まず一人っと」
「おい! ステータス下がってるんじゃなかったのかよ!!」
「下がってるよ。久しぶりだよこんなに体重いの」
あのポーションの効果はよく知っている。
――というか何度も食らってるせいで、誰が作ったダウンポーションなのか分かった。
宇佐美印のダウンポーション。
浴びた相手のステータスを一段階下げる効果があり、市販の物より何倍も強力な物だ。
それにデメリットのデバフ二倍の効果で、俺はステータスダウンポーションの効果は二倍になる。
つまり二段階ステータス値が下がるというわけだな。
でもある意味このポーションでよかったよ。
何度も食らってるおかげか、体が重くても感覚的にどう動けばいいかが分かる。
怪我の功名ってやつだな。
リーダー格の男が冷汗をかきはじめた。
「お前のステータスはオールBになってる。なのに今の動きはそんなもんじゃ……」
動揺が見て取れるほど焦っているのがリーダー格の男から伝わってくる。
流石に俺のステータス情報は福田から奪われてるか。
だけど、こいつ……、
「あんた……もしかして俺のスキルの効果勘違いしてないか?」
「はぁ?」
リーダー格の男は、困惑した表情を見せた。
「ステータスを二段階引き上げるだろ? だったら元々のステータスに戻ってBになるだろうが!」
「やっぱ間違ってるよ」
あぁ、そうか。
こいつステータスが上がってSだと思ってたのか。
俺はリーダー格の男を鼻で笑う。
「スキル無しのステータスが今表示されてる数値だよ。つまりスキルありの時は――」
「まさか……SSS!? そんなもん、レッドドラゴンのステータスとほぼ変わらねぇじゃねか!?」
リーダー格の男は、こちらを化物でも見るような目で見る。
Sが人間の限界地点。
それ以上超えるとボスモンスターとそう変わらないステータスだ。
二つ名持ちとは、そんな人間の限界を、武器やスキルで上回る者達ばかり。
俺はこのスキルで人間の限界を上回ったからこそ。
そんな化物の二つ名持ち達と同じような動きが出来ている。
親方や風音さんと肩を並べて戦っていたのは、伊達じゃないってことさ。
リーダー格の男は引きつった笑みで俺を指さす。
「だ、だが……お前、俺達に手を出したな! 周りの連中も見たろ! タヌポンが暴力を――」
「周りって誰の事かな?」
俺が笑ってそう言うとリーダー格の男が辺りを見渡す。
周りに先程までいた探索者はおらず。
俺とポータル占拠集団しかいない。
「ど、どこ行ったんだ!」
「周りに逃げるように言ってもらったのさ。俺に注目しすぎたな?」
「龍巳陽子ぉぉぉ!!!」
リーダー格の男が吠える。
昨日の作戦会議でよく話し合ってよかった。
こんなもしもの時も、すぐに動いてもらえるからな。
「さ~てと♪」
指の節をパキパキと鳴らす。
「これで思う存分暴れられる。先に手出したのはそっちだ、正当防衛だよな?」
リーダー格の男は男性社員を掴む。
「う、動くな! こいつがどうなって――」
俺は転がってた男をリーダー格の男に蹴り飛ばす。
「な!? ちょ、ま!?」
慌てて男性社員を突き飛ばして回避しようとするが、間に合わず。
リーダー格の男はそのまま押しつぶされる。
その間に男性社員を俺は横からかっさらう。
「歩けますか? 歩けるのなら、入口まで逃げてください」
「は、はい! ありがとうございます!」
おぼつかない足取りで男性社員は入口まで走る。
あっちに行けば回復魔術か回復ポーション持ってる人がいるはずだ。
後の事はその人たちに任せよう。
だから俺は……
俺は集団に振り返る。
びくついた目でこちらを見つめ返す集団。
「さぁ、今度は俺の――」
「あら? 鈍亀ま~だこんな所にいましたのね♪ 流石のろまの亀ですこと♪」
「この声……まさか……」
後ろから耳障りの音が聞こえると同時に複数の銃声音が響く。
「やっば!? 【スキル:鉄壁】発動!!」
俺がスキル発動が完了すると同時に、水の弾丸が無差別に襲い掛かってくる。
「ぎゃああ!!?」
俺も含め集団は水の弾丸に襲われ、バタバタと倒れていく。
銃声が鳴りやみ、立っていたのは俺だけだった。
奥からコツコツと身長誤魔化すためのヒールを鳴らし。
ゴスロリを身に纏った、俺の天敵にして宿敵が現れる。
「クソ兎、何でここにいやがんだよ」
「先輩に対して、口の利き方なってませんわね?」
そう言って、宇佐美菜月はニヒルに笑う。




