きな粉スライムと黒糖スライムドリンク(4)
画面外から深いため息が聞こえる。
「何とか……なった」
「次は一言声掛けてね!?」
「かしこま☆」
キャットは元気よく答える。
「全く……えっと、どこまでいったんだっけ?」
「適度に、冷やす……まで」
「ありがとうフクロウちゃん。それじゃみんな、このスライムボールを、一口大にちぎって丸めてくれ」
「りょ☆」
「これくらいなら出来る♪」
一口大に丸められたスライムボールが、まな板の上に乗せられていく。
「ノーマルのスライムボールを皿に盛り付け、きな粉をまぶせば……」
「一品目完成♪」
「きな粉、スライム……出来、上がり」
皿をカメラの前に持っていくと、プルプルときな粉スライムが揺れる。
:うまそう!
:でもカロリー高そう
:ダイエット中なのに……
:こんなの見たら食べたくなる!
:ご愁傷様w
「「カロリー……」」
「……? どうしたの二人とも?」
キャットと画面外のフクロウがため息をつく。
コンはその様子に首を傾げる。
:うわぁ……
:コンちゃんダイエットとかしなさそう
:女子を敵に回しそうw
:いっぱい食べる君が好き
「あぁそういう事……安心してよ二人とも、この料理見た目よりカロリー自体は低いから」
「「えっ本当!?」」
キャットとカメラがタヌポンに近寄った。
タヌポンは苦笑いしつつ、ゆっくりと後ずさりする。
「ほ、本当だって……前に振舞った時、女性探索者の一人がそう言ってたんだよ。スライム自体はカロリーないみたいだし、ダイエット食品にいいわねって」
「へぇ~そうなんだ」
:このお兄様、ま~た女性の話してるよ
:何なのこの人?
:可愛い妹居て、その友達とも仲良くなって
:その上まだ他の女がいるのねw
:正直羨ましいであります(血涙)!!
:吊るすか?
:狸鍋じゃ!
「僻みがひどい!?」
「はいはい、いつものいつもの。ほら、次々♪」
タヌポンの背中から哀愁を漂わせながら、クーラーボックスの中を漁る。
そこから豆乳を取り出す。
「最後にコップに黒糖入りのスライムボールと豆乳を注いで、専用ストローをさせば……スライム餅ドリンクの完成だ!」
豆乳をコポコポと注ぐと、黒糖入りのスライムボールがキラキラと輝きを放つ。
:タピオカミルクティーみたい!
:一時期流行ったよな?
:なっつw
:もう飲まないよね?
コメント欄を見たタヌポンが驚愕する。
「えっ!? 今あれ流行ってないのか!?」
「おにふる☆」
「今ほとんど飲まないよね♪」
「そう、なんだ……」
タヌポンとフクロウの感嘆の声が聞こえてくる。
「ほらほら♪ それより配信♪」
「あっそうだったな。――んじゃ、早速食べるか!」
「食べよ食べよ☆」
タヌポン達の目の前に二品が並ぶ。
「それじゃあ――」
「「「「いただきます」」」」
きな粉スライムを全員で一口頬張る。
キャットとコンが自分の頬に手を当てた。
「「おいひぃ~」」
「モチモチ……だね」
「柔らかさの中にしっかりと弾力があり。他の餅類とも違う不思議な食感! 毒消し草と麻痺消し草を混ぜたことで、草餅のような風味が微かにする。それを優しい甘さのきな粉が包み込む! 満足感、香り、全てパ~フェクト!」
:相変わらず食べる時ハイテンションお兄様w
:ある意味伝統芸w
:コンちゃんとキャットちゃんかわいい
:美味しそうで何より
:コンビニスイーツでも買いに行こうかな?
タヌポンはクーラーボックスから黒蜜を取り出す。
「そして、ここに黒蜜を垂らすと……」
とろりと黒蜜がきな粉スライムにかかる。
それをタヌポンは遠慮なく頬張った。
「きな粉スライムが濃厚で奥深い味わいに……犯罪的な美味しさだ……」
「あっ! ずるいお兄ちゃん私にも!」
タヌポンから黒蜜をかっさらうように奪い取り。
コンはドバドバときな粉スライムにかける。
:やっばw
:超甘そう……
:こめかみ当たりがキンキンするわw
:どんな味覚してんだよw
:さすが甘党だねコンちゃん
:そうなんだw
:随分前の配信で、ココアに一対一で砂糖入れてた
:糖尿病まったなしやんけw
その様子を周りは一歩引いて見ている。
「うわぁ……」
「もう元の味分からなくなるだろ、それ」
「うちも流石にそれは無りポ☆」
「えぇ~美味しいのに」
ぱくっとコンが食べると嬉しそうに体をくねらせる。
食べ終わると黒蜜をキャットの目の前に出す。
「二人もかける?」
「いや、いい……見てる、だけで……頭、痛い」
「なしよりのなし☆」
「そっか」
コンは手を引っ込めると、さらに黒蜜をかける。
その時のタヌポンの表情は仮面越しでも分かるくらい引きつっていた。
タヌポンは一度咳払いして気を取り直す。
「じゃあ次はスライム餅ドリンク飲むか」
全員がスライム餅ドリンクをストローで吸い込む。
「甘くて、美味しい……」
「黒糖がマジよき☆」
「黒糖独特の甘みと香り! 豆乳のまろやかさとクリーミーな舌触りがマッチして、ベリーグッド! スライムがキラキラと輝き、まるで宝形のようだ! 時折モチモチとした食感もあり、味に飽きが来ない! 控えめに言って最高だ!」
:本日二度目の早口食レポ
:食、レポ?
:細かいことは気にすんなw
「美味しかったね♪」
「それな~☆」
「ごちそう、さま……でした」
「お粗末様でした」
タヌポン達は手を合わせ、食事を終える。
コンは勢いよく立ち上がった。
「それじゃあみんなから一言貰って締めに入ろうか♪」
「マジテンションぶち上げっぱなしだった☆」
「楽し……かった……」
「たまにはお菓子作りもいいもんだな」
タヌポンがコンの肩を掴む。
カメラ越しに伝わるほど、仮面の奥からプレッシャーを放つ。
「ただし、コン? お前は今日から甘い物禁止な?」
「なんで!?」
「当たり前だ! あんなのずっと食ってたら病気になるわ!?」
「そんな殺生な!?」
コンはタヌポンの服を引っ張って抗議する。
「妥当……」
「うちもこれはかばえんてぃ~☆」
「二人まで!?」
:ありゃりゃ……
:流石に病気が心配になるしね?
:いっぱい食べる君が好き
:だけど健康ではいてほしい
:コンちゃん……諦めな?
:今回ばかりはお兄様の判断が正しい
:英断
「リスナーも!? 誰一人味方がいない!?」
落ち込むコンを無視して、キャットとタヌポンが進める。
「――っていう事で☆ 今回の配信は、キャットビューティーと☆」
「本読み、フクロウ……」
「タヌポンチャンネルとコンチャンネルでお送りしました! また次回の配信でお会いしましょう!」
「ちょっと!?」
コンの悲鳴が虚しく響き、ぶつりと切れる。
画面は配信終了に切り替わる。
:お疲れさまでした!
:おつコンコン♪
:今回の配信もよかった
:またコラボみたいな~
リスナーがコメントを残して去ろうとした時。
とあるコメントが流れた。
[陽龍]:ようやく見つけましたタヌキさん
と言う謎のコメント。
:うん?
:なんか今変なコメントなかったか?
:気のせいじゃない?
その一言のみを残し、以降は陽龍というユーザーからのコメントはなかった。




