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正しさの証明

 長い長い話を終えた後、しばらく静寂に包まれる。


 ダンジョン発生の経緯。


 異世界で起きたパンデミック。


 差別による戦争。


 あまりにも話が壮大過ぎて一同は押し黙ってしまう。


 俺はそんな中でも思考を続けていた。


 ベルフェゴールが語った異世界の歴史と、フォレストダンジョンでオズの連中から聞かされた歴史がどうも双方とも食い違っているように感じる。


 オズから聞いた話は魔族は最初から魔族で人類にあだなす敵であると。


 ベルフェゴールからは魔族達は元は人間だった……いや、まだ人間であり、今は質の悪い病気にかかってしまっているだけなのだという。


 それに聞いた話だと、魔族は魔力があれば不老不死に近い状態にもなれるのだとか。


 もし、ベルフェゴールが話した魔族が生まれた経緯が、何百年も前の話だとすると、人も戦争をしていた本当の理由も忘れ、ただ遺恨だけが残ったとも考えられる。


 もしくは、ベルフェゴールが話したのは全部嘘って可能性も捨てきれない。


 ……俺には、どちらが正しいのかは分からない。


 だが少なくとも、戦争をしていたのだとするのなら、双方の言い分が違うのは仕方ないことだ。


 だって、俺達の世界でもそれぞれの国が自分達は正しかったのだと教科書にも載ってくらいなのだから。


 真実は分からないが、茜は魔族達が正しいと信じている。

 ――茜にとってはそれが真実なのだろう。


 茜は自分の胸に手を置く。


「うちは魔族達を救いたいねん。せやからうちに力を……」


 ぐぅ~とシリアスな空気を弾き飛ばす音が響いた。

 全員が音のする方へ振り向き、音の張本人は、あははと気恥ずかしそうに笑っている。


「すまん、うちお腹減ったわ!」


 全員がズコッと態勢を崩した。


 相変わらずというか、タイミングがいいというか。

 重い雰囲気をいつもあっさりと吹っ飛ばすな茜は。

 それが茜のいい所なんだけどさ。


「腹減ったって……魔族になって食事は必要なくなったって言ってなかったか?」


 よろよろと俺はズッコケた体を起こす。

 茜はう~んと首を傾げた。


「橙矢の作ったハンバーガー食べてから、どう~も変なんや~まるで魔族なる前に戻ったみたいな、そんな感じや」


「俺の?」


 そういや、あの時オークバーガー勝手に盗ってたよな。

 しかも勝手に食べたのかよ……。


 いや、それよりもだ。


「別に変な物は入れてはないはずなんだが……」


「うむ、それについては我の長年の研究成果から一つの仮説が立てられる」


 ベルフェゴールが、やけに真剣な表情で顎に手を当てながら訳知り顔でうなづく。


「だが、しかし!」


 瞬間、ベルフェゴールは目をかっ開きビシッと指をこちらに向ける。


「今は二代目ちゃんが腹を空かせてるのだ! 我も何百年ぶりに腹が減っている気がするぞ! 食事を所望する! ほら、さっさと食事を我々に献上し――」


「人を指さす、なっ!」


「ふぎゃ!?」


 反射的にベルフェゴールの指をグイ~と曲げる。


「指が!? 指がぁぁぁ!?」


 ジタバタと地面に転がりまわる涙目のベルフェゴールを無視して歩く。


 こいつは本当に俺の癪に障ることしか言わない。

 普段あまり俺は人に怒らないはずなんだがな。


 まぁいいか、それよりも料理を作ろう。


「さて、下の階層にちょっくら……」


「あっ、ちょい待ち」


 転移ポータルまで行こうとした俺を茜が呼び止めたので踵を返した。



「何だ? モンスター狩るなとか?」


「いやそれはかまへんよ」


 茜はいやいやと手を振る。


「元々うちの魔力使ってダンジョンが作ったものやし、ただ魔力に戻すだけやさかい、それはかまへんよ――それよりも」


 茜は椅子からぴょいと飛び降り、シュタッと地面に着地する。


「せっかくなんやしその様子配信しよや♪ うちと一緒に♪」


「「……はぁ?」」


 茜の無茶な要求にみんなあんぐりと口を開ける。

 俺と宇佐美はいつものことで呆れを通り越して、またかよと思った。


 とりあえず、無駄だろうが指摘しておくか。


「いや、その姿じゃ無理だろ」


 俺は茜の頭を指さしてそういうが……。


「大丈夫大丈夫♪ そこの変態にうちが元のように見えるように擬態かけさせるさかい♪」


 茜はのたうち回るベルフェゴールを指さして笑う。

 胸を張って言ってるが、結局人任せである。


「……っていうか、それが出来るのならさっさと会いに来いよ。少なくとも俺達には説明するくらいしても良かっただ――おい、何ニヤニヤしてんだ?」


「いや~? 橙矢は相変わらず心配性やなと思って? そんなにうちに会いたかったんか?」


 俺の言葉を聞いて、茜はこちらを小馬鹿にするように笑う。


 ここで俺が違うと返すとまた茜は調子に乗るからなぁ。

 なら、意趣返しも込めて俺が言うべき言葉は……。


 俺は顔を茜に近づけて、頭にポンと手をのせる。


「当たり前だろ。ずっとお前に会いたかった」


「…………ふぇ?」


 茜はいつもの笑顔のまま硬直する。

 あまりにも意外な返答で面食らったらしい。


 瑠璃が前に、藍ちゃんにこれやったら絶対驚くからやってってアドバイスさたのを話半分に聞いてたが、意外と役に立つもんだな。


 どうやら茜にもこの効果は抜群らしい


「ど、ど、ど、どうしたん? そ、そ、そそんな真剣な表情で? か、か、顔が、ち、ち、近いやんけけけけけ」


 異様に慌てすぎて言葉が乱れに乱れる茜を見てほくそ笑む。


 ようやくこいつにやり返せたと確信を持った。


「プッ……アハハ! 引っかかったな茜! 俺だって昔みたいにからかわれるだけじゃねぇぞ――いって!?」


 言葉の途中でふくらはぎに痛みが走る。

 俺は後方を睨む。


「何すんだ宇佐美!」


「茜に近すぎですわ、セクハラで訴えますわよ?」


「おいおい、ちょっとからかっただけで……」


「あっ、もしもし警察ですか? ここにいたいけな少女に近づこうとする変態が――」


 宇佐美が本気で通報しようとする。


「まじでやめろ!? それは洒落にならねぇ!? 今回のは俺が一方的に悪かったから、それだけはまじやめろ!?」


 スマホで通報しようとしてる宇佐美を俺は必死に追いかける。


 一方後方では……。


「やれやれやっと治った……」


 フラフラと立ち上がるベルフェゴールがふと茜を見やる。


「それで? 大丈夫か二代目ちゃん?」


「な、何なんや……前までからかわれるだけの男が……ちょっと見ないうちにあんな……あんな……」


 ベルフェゴールの声かけにも気付かず、ボソボソと呟きながら顔を真っ赤にする茜の姿がそこにはあった。


「……重症だな。全く、我と違って天然の女たらしとは、実にたちが悪いな少年」


「あれで本人は自覚無しだからねぇ~」


 呆れたようにベルフェゴールが呟き、先輩はやれやれと首を横に振る。


 そして……。


「いいなぁ……」


 羨ましそうに見つめていた陽子さんの姿があった。

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