表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/105

レッドドラゴンステーキ

 ダンジョン


 それは数十年前に突如として現れた謎の遺跡。

 ダンジョンの中には、空想上でしか語られなかった生き物、見たこともない財宝が数多く眠っていた。


 一般人はダンジョンにロマンと冒険を求めて。

 企業は新たなビジネスチャンスの為にダンジョンに潜る。


 そういう者達を皆こう呼んだ。

 ダンジョンを探索する者、探索者と。


 そしてここにも探索者が一人。

 ロマンでも冒険でもなく、只々視聴数を稼ぐためだけにダンジョンの様子を配信をする者がいた。


「え~と、これで配信始まってる……のか?」


 :始まってるぞ~

 :接続数少なw

 :サムネ地味だしな……


 カメラの前で何度も首を傾げるタヌキの仮面をかぶった茶髪の男。

 機材をカチャカチャ動かしているが、どうやら配信に慣れていないらしい。


「よく分かんないけど、始まったってことにしておくか」


 :もしかして、こっちのコメ欄見えてない?

 :配信初心者過ぎるw

 :こっちみろ~w


「皆さんどうも、タヌポンチャンネルのタヌポンと言います! よろしくお願いします!」


 :そのまま続けるのか……

 :というか音割れしてない?

 :機材が中古なんじゃね?


「このチャンネルでは、モンスターを使った料理を作っていこうと思います!」


 :うげっまじか……

 :モンスターって食えるんだ。

 :ただし不味い!

 :クソ不味いってのが、探索者じゃ共通認識だぞ?

 :配信どころか、この人探索初心者なんじゃない?

 :怖いもの見たさで来てしまった……


「今回は記念すべき一回目ということで、今回は……」


 後ろでごそごそとクーラーボックスを漁るタヌポン。


 :クーラーボックスからゴブリン出てきたら笑うわ

 :初心者ならスライムじゃね?

 :でも泥沼飲んでるみたいって言ってたなぁ

 :コボルトが一番ましか?

 :固くて食えたもんじゃないけど

 :どれでも面白いことになりそうw


 正面に向き直ったタヌポンは手には、脂がよく乗った赤い塊肉を両手で持ち上げ、カメラに向かって見せる。


 :解体済みでよかったわ

 :死体見せられたらトラウマもんだしw

 :でもコボルトでもゴブリンの肉でもなくね?

 :見たことないな、マジで何の肉?

 :というか霜降りみたいでうまそうだぞ!?


「さっき倒したばっかりのレッドドラゴンの肉で料理していこうと思います♪」


 その瞬間、コメント欄が数秒間書き込みが止まった。

 ――数秒後コメント欄は一気に加速した。


 :ちょっと待てぇぇぇぇぇ!?

 :俺の空耳? 

 :今レッドドラゴンって言わなかったか?

 :本物か?

 :有識者です! これは間違いなく本物です!

 :まじで!?

 :何であるんだよ!?


 コメント欄が見えていないタヌポンは、平然と料理するためのセットの準備を始めた。

 画角外から木箱を引っ張り出し、その上にコンロやフライパンなどの料理器具を、慣れた手つきで用意する。


 :無知な俺氏に教えて、レッドドラゴンって何?

 :東京にあるドラゴンダンジョンのモンスターだよ。

 :そのモンスターは初心者でも倒せるレベル?

 :んなわけない!

 :Sクラスの探索者十人でようやく倒せるレベル

 :実質最高クラスが十人とか、やっばw

 :九十層のボスモンスターだしな

 :まじで!?

 :レッドドラゴンの肉で料理してると聞いて来た!


 まな板の上にレッドドラゴンの肉を置き。

 塩、コショウで下味をつけ。

 最後に黒い瓶に入ったスパイスも肉に揉みこむ。

 スパイスを肉になじませていく。


 :おい、最後何入れた!?

 :いや、普通に料理してて草

 :レッドドラゴンのインパクトでかすぎてw

 :料理に集中できんわ!

 :ちなみにレッドドラゴンの肉って買えるの?

 :相場見たら、家一軒建てられるくらい高かった

 :それを買えるくらいの金持ちか?

 :なわけないか、明らかに中古の機材ばっかだし

 :企業所属のダンジョン探索者?

 :でも一人しかいないよな?

 :しかも最近倒した企業の名前全然ない。

 :ソロ討伐ってこと!?

 :最強か!?

 :報告が遅れてるだけかもしれないがな。

 :どうなってんだよ!?


 フライパンに油をしいて、コンロで温めていく。

 十分に温まったのを確認したタヌポンは、肉を両手でつかむ。


「それじゃあ、焼いていくぞ!」


 ジュウ~という音が、音割れ起こし。

 視聴者の元へ届けられる


 :音割れがやべぇぇ

 :せっかくの肉焼きなのに台無しすぎる……

 :音割れ焼肉がトレンド入りしてるw

 :せっかくの高級肉がもったいな

 :でも、ドラゴンの肉って確か……

 :固すぎて歯が折れるって言われてるな

 :ニュースにもなったよな?

 :歯が全部折れた状態で病院に運ばれただったか?

 :やっばw


 肉の全面に、しっかりと焼き目を付けたら。

 火を止め、まな板の上に敷いておいたアルミホイルで丸ごとくるむ。


「中に火が通るまでしばらくお待ちください」


 :ステーキか!

 :いいね!

 :というか配信主喋らなさすぎじゃね?

 :料理してる時終始無言w

 :配信者として致命的過ぎる……

 :今配信場所特定した!

 :え!?

 :どこどこ!

 :この人九十層のセーフゾーンで料理してる!?

 :セーフゾーンか……

 :モンスター来ないし料理するのには安全な場所だな

 :リア凸チャンスか!

 :場所分かってもなぁ……

 :九十層まで行かなきゃいけないだろ?

 :誰もリア凸出来ない件について

 :それな

 :コメント欄の中にS級探索者はおりませんか!

 :いるわけないだろw


 数分待ち、アルミホイルからホクホクと湯気が上がる塊肉を取り出した。

 そこにナイフを入れるとあっさりと両断される。


 :ナイフが折れない……だと……

 :やわかくなりすぎ!?

 :めっちゃうまそう!


「皿に盛りつけて……と、完成!」


 画面には赤身と焼き目のコントラストが美しい肉が綺麗によそられる。


「レッドドラゴンステーキの出来上がりだ」


 :うまそぉぉぉ!!!

 :ドラゴンステーキとか男のロマンやな

 :皿からはみ出とるやんけw

 :ここだけ見ると誰もモンスター料理だとは思うまい

 :見た目いいけど、味はどうなの?

 :硬いうえに美味しくないと聞くけど……


 タヌポンは木箱の上に料理を置き、手を合わせる。


「それでは皆さん、料理食べていこうと、思います!」


 :さてっと

 :救護のための通報の準備しておくかw

 :いつでも押せるようにな

 :第一発見者になりたくないわw

 :そもそも九十層じゃ誰も助けに行けない件について

 :タヌポン詰んだわw


 仮面を口が出るようにずらし、肉を口に入れる。

 するとタヌポンはほおばったまま静止して動かなくなった。


 :これは……

 :誰かお医者さん!

 :メディーク、メディーク!

 :だから誰も行けなんだってば!?


「う……」


 :う?

 :苦しんでる……

 :まさか、硬すぎて、のどに詰まらせたんじゃ!


「うまぁぁぁい! 肉は分厚く、食べ応え抜群だし。今まで食べた肉の油とは違ってくどくなく、それでいて満足感がある! 味は鶏に近いが、食感は牛肉に近い! 塩胡椒のしか味付けしてない分、肉本来の甘さが際立ってマーベラス!! ご飯何倍でも食べれるぞこれは! あぁ米が食いてぇぇぇ!!!」


 :草

 :食レポうっまw

 :食べるときだけ饒舌になる男

 :心配するだけそんだわ

 :でもまじでうまそう(じゅるり)

 :モンスター料理とは思えないよな

 :何か俺も食べたくなってきたわw


 タヌポンはあまりのうまさに画面内で興奮して、手足をバタバタとさせている。

 その時、カツッという何かに当たった音がした。


「あっ……」


 :え?

 :今なんか変な音が


 カメラが傾き、ガシャン! という音を最後に、配信は終了しました。

 ――という画面に切り替わる。


 :まじかぁ

 :いいところで!

 :何やってんだタヌポン!


 おそらく配信のカメラを倒してしまったのだろう。


 この短すぎるダンジョン配信は世界中で話題になった。


 レッドドラゴンの肉は調理次第で食べられるということや、レッドドラゴンを倒した人物は一体何者なのか。

 企業によるステマだったのではとこの配信は様々な物議を呼んだ。


 そして彼のチャンネルは、わずか数日にして五十万人を達成するなど、ダンジョン配信で異例の記録をたたき出した。


 一体彼は何者だったのか?

 それを知るのはごく一部の関係者のみだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ