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勇者として召喚されたけど社畜として生きていく  作者: ナナダイク


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33/40

第33話

 5



「それで、この神殿の秘密って?」


 恋バナに区切りがついたところでミミィが尋ねた。

 

 センカはなにやら探し物でもしているのか、いつも持ち歩いているバッグの中で手を動かしている。


「あ、ただのダイソン球でした」


 そっけない一言に思わず「ふーん」とスルーしそうになったが、言葉の意味を脳が理解するが早いか、ミミィはマッハの速度で二度見する。


「この星が!?」


「はい」


 返事をしながら、センカはバッグの中からカップと水筒、そして標本用のガラス瓶を取り出す。


 遮光瓶のため中身は見えないが、センカの狂気じみた笑顔から、筆舌に尽くし難い悪寒がミミィの背筋を貫いた。


「年代測定できないので推測ですが、かなり古い遺物のようです。使われている文字も翻訳できませんでしたし。ただ、水を吸って生き返ったモニター画面によれば、宇宙船らしいんですよね」


「ダイソン球の宇宙船?」


 ニコニコと愛想の良い笑顔で、テキパキと謎の準備を進めるセンカ。


 ミミィの顔に冷たい大粒の汗が浮かぶ。


 それでも、気づかないふりをして話をしているのは好奇心に拠るところだろう。


「ええ。宇宙船としての機能はとっくに失われてるようですけど。全体がタコのような形をしていて、タコの足が惑星コアを抱えて航行する、みたいな。んで、そのコアの重力をエネルギーに変換したり、ベクトル反転させて斥力に変えたりしてるっぽいです」


「移民船、とかかな?」


「可能性はあると思います。タコの頭の部分が欠けている理由も、もしかしたらそこが大勢の人を乗せた居住区で、条件の良い惑星を見つけたので、その部分だけ切り離して、足だけ残ったなんてことも考えられます」


「ふぃーむ⋯⋯で、それは?」


 我慢できなくなったのか、ミミィが台座の上に展開されていく謎の儀式に触れた。


「これですか? せっかくなのでお茶でも、と思いまして」


「お茶?」


「はい。飲用と思しき水の湧き出る泉を神殿の奥で見つけまして。そこの近くに植物も生えていたんですよ。この薄くて半透明な葉っぱがそれなんですが」


 茶色の遮光瓶から一枚取り出して見せた。


 中央の主脈と葉縁だけが紺色の線形の葉。


 葉縁(ようえん)の内側は白く半透明で、裏側から葉を支えるセンカの指がぼんやり透けて見える。


「⋯⋯そんな、わけのわからんものをあっしに飲めと?」


「まぁまぁ、意外とお口に合うかもしれませんよ。ほら、こうして水で満たしたカップに浮かべると」


 手にした葉をカップに落とすと、すぐに青い色素が水に広がる。


 葉はさらに透明度を増し、輪郭だけが水に浮かんでいるようだ。


「ほら見てください。キレイじゃないですか。きっと飲んでも美味しいですよ」


「きっと!? おまえ飲んでないんかい!!」


「いやぁ⋯⋯だって、ねぇ。見つけたばかりのアヤシイ植物を自分が食べて試すとか科学者にあるまじきというか、なんというか」


「だからって他人を許可なく実験に使うのはやめろ! このマッド・サイエンティストめ!!」


 センカから差し出されたカップをミミィは手の甲で払い除けた。

 

 一瞬で音速まで加速したのか、衝撃波が二人の髪を高く舞上げる。


 カップは一瞬で螺旋状の槍先へと変形し、壁に深く突き刺さった。


「⋯⋯すまん」


 ミミィが謝罪を口にする。


 例の防御に徹した万能民族衣装でなければセンカの半身は消失していたかもしれない。


 それに対する謝罪だった。


「いえ、私の方こそ⋯⋯」

 

 センカも反省の言葉を述べる。


 やりすぎたと本人も気づいているらしい。


 ただ、一度調子に乗ると、そこから降りることが難しくなるのが人間という生物の(さが)である。


 その性質はどうやら地球人を模倣する彼女たちにも当てはまるようだった。


 しばしの沈黙が重い鉛となって二人の肩にのしかかる。


 これを打破するためには、何が必要か。


 二人は懸命に考えた。


 すでに緩やかなコミュニケーションごときで和解は不可能と思わせる時間が経過している。


 その時だ。


 妙案が閃いたのか、二人の表情が同時に明るく煌めいた。


 ——あいつだ!


 ——今こそ、あいつの出番!


 二人は期せずして同じ人物を思い浮かべ、他力本願な救いを求める。


 すると、偶然にも通路に繋がる出入り口の方向から、ちゃぶ台をひっくり返したような音が聞こえた。


 この不器用な登場の仕方はおそらく、絶対に、どうしようもなく彼だろう。


 硬化した空気を払拭してくれる救世主の出現に、二人の少女は胸の高鳴りを自覚する。


 入り口に指が掛かった。


 顔も身体もまだ見えない。


 もったいぶった登場にミミィの表情が期待から苛立ちに豹変する。


「さっさと出て来い!」


 イライラが限界に達したのか、ミミィが叫んだ。


 その声に反応して、見えていた指がピクリと跳ねる。


 そして、おそるおそるといった(てい)で黒いモジャモジャ頭が現れた。


「⋯⋯すまん。お取り込み中だったか」


 バツが悪そうな表情を浮かべて現れたのは二十代後半と思しき長身の男だった。


 墨色のセットアップスーツに艶のある紫色のワイシャツ。ノーネクタイで首元は大きく開いている。


 小さな頭に長い手足は一見するとモデルのような好スタイルに見えるが、すぐに珍妙な違和感に気づくだろう。


 そう、手足が細く長すぎるのだ。ギクシャクと動く姿はどこかタカアシガニを思わせた。


黒宮 六六六(くろみや みろく)!?」


 名前を呼んだのはセンカである。


 ミミィは目と口をOの字に開いたまま固まっていた。


「⋯⋯相変わらず無礼なクソガキだな。オレはおまえの先輩だぞ。呼び捨てはないだろうよ。雪山で遭難しかかってるところを助けてやった恩を忘れたか」


 反論は馬耳東風。センカの耳を避けて通り過ぎたようである。


「あったく⋯⋯歩きづらいな。床に散らばってるこれはなんなんだ」


 床を埋める銅管を蹴散らし、鬱憤を晴らすべく八つ当たりする黒宮。


 なにか、と尋ねられたら応えずにはいられない性分の科学者が、よせばいいのに懇切丁寧な解説を始めた。


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