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勇者として召喚されたけど社畜として生きていく  作者: ナナダイク


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第25話

 3


 作戦は失敗に終わった。


 頼みの綱である協力者はやって来ず、代わりに血の臭いを誇らしげに撒き散らす強者どもがやってきた。


 ウルリカの父親救出を考えている場合ではない。今はこの状況からの脱出が最優先事項なのだ。


 成功の可能性は限りなく低いように思えた。


 希望を打ち砕かれ、なすすべもなく立ちすくむ六人⋯⋯に見えたことだろう。


 オオカミ顔の獣人たちは苛虐心に満ちた目で星喰(ツヅハミ)たちを見下ろし、舌なめずりをする。

 それほどまで美味しそうに見えたのだろうか。クノプ人に変装した人間を珍妙な食材と認識したのかもしれない。

 

 兎にも角にも、生命の危機なのである。


「どうだ、レッチェ。今の気分はよォ!」

 

 軍団の中にあって、頭ひとつ抜きん出た巨躯から下卑た声が発せられた。

 列の最後尾にも関わらず、土塁の下からでも勝ち誇った表情が見て取れる。

 つまり、平均的な体躯の上に大きすぎる頭が乗っているのだ。

 

 八頭身の群れにコミカルで低頭身のマスコットキャラクターが紛れ込んでいる違和感。

 兜をかぶっていないのも合うサイズがなかったせいだろう。


「おまえが流してくれた情報のおかげで、オレも今や泣く子も黙るタリスタニア聖皇(せいおう)騎士団の一員よォ! おまえのようなご立派な学師サマにもう奉仕できないと思うと、うれし涙が出てくらァ! ゲハハハ」


 品位の欠片もない放言を咎める声が、騎士団から出ないことも不思議であった。

 野獣の群れをここまできっちりと統率しているのだ。

 騎士団長のリーダーシップの高さたるや想像に難くない。


 ——なにか裏がありそうだ


 ワタセは深慮を巡らせた。

 もし、このゲスゆるウルフを使って謀るならば、この時点でその片鱗が(うかが)い知れるはず、と考えたのだ。


 その間にもゲスゆるウルフは垂れた目尻をさらに下げて不快な文言を放ち続ける。


 警戒モードで視界全体に気を配る。

 武器を持ち替える筋肉の動き、獣人兵の視線の方向、騎士団が纏う緊張の揺らぎさえ見落とすまいと意識を尖らせる。


 しかし、労力に見合うだけの動きは今のところ感じられなかった。


 ワタセが安堵の息を吐く。


 ——なるほど。つまり相手に不快な言葉を浴びせかけ、怒り心頭にさせて冷静な判断力を奪おうとしてるだけか

 

 そうと分かれば、罵声を真面目に聞くのも馬鹿らしいというものだ。

 連中に背を向け、星喰たちに指示を与えた。


「とりあえず、この場はボクに預けて、みなさんは脱出してください」


 不安に顔を曇らせる一行を安心させるためか、ワタセの表情はいつにも増して明るい。口調も朗らかだ。


「陸路での移動は無理そうなので、あの箱舟をもう一度使いましょう。孟島(モウシマ)さん、準備をお願いします」

「了解です」

「それと例の危険物をここへ持ってきてください。あと、無理言って作ってもらったアレですが、無用になりそうです。すみません」

「大丈夫です。お気になさらず」


 センカはキビキビした態度で応じると、即座に行動を開始する。

 その二人の態度や声色に、今まで星喰の眼前で繰り広げられていたほんわかコントの雰囲気はない。

 会社の本質が見えた気がした一瞬だった。

 

「私も残るよ」

 頭を掻きながらレッチェが言う。


「こうなったのも私が迂闊だったせいだ。まさか、あのバカが裏切るなんて思いもしなかった。窮屈ながらも楽しい生活に馴染んで知らぬ間に腑抜けていたらしい」


 前に出ようとするレッチェをワタセの左腕が制する。


「お気持ちだけありがたく頂戴しますよ。あなたには救出&脱出作戦の陣頭指揮を執ってもらわなくちゃ」

 ワタセが振り向いてニコッと笑う。


 屈託のない、といえば聞こえはいいが、有無を言わさぬ圧が笑顔には含まれていた。

 一瞬たじろいだレッチェだったが、歩みを止め、ワタセの後ろに控える。


「⋯⋯わかった。無理すんじゃないよ」

「もちろん。こういった異世界人とのふれあいも旅の醍醐味ってもんです」

「何を言ってるのかよくわからないが、私たちは水中神殿に向かう。神殿からなら侵入も叶うやもしれん」


「わかりました。では、そこで落ち合いましょう」

「水の中だぞ。大丈夫なのか?」

「なんとかします」


 レッチェはワタセの肩をポンと軽く叩き、思いを委ねた。


 遠ざかるレッチェや星喰の気配を背中に感じながら、不敵な微笑みを見せるワタセ。


「さて、みなさん。ここで一つ取り引きしませんか? もしボクを見逃してくれるのなら、聖都で高く売ろうと思ってたコレを無償で差し上げます。めったに手に入らない珍味中の珍味『ベロペロの卵の劫火酒(こうかしゅ)漬け』です」


 ワタセが背後から持ち出したのは、高さが腰ほどまである深青色の遮光瓶だった。

 留め具付き密閉蓋により厳重に封じられた瓶に興味をそそられたのか、騎士団にざわめきとうねりが生じる。


「希少なベロペロの卵をこれまた滅多に入手できない伝説の劫火酒に漬け込んだ逸品。おそらく大聖皇様も召し上がったことはないでしょう。いかがです? 食べてみたくはないですか?」


 悪徳商人さながらの口ぶりで語りかけるワタセ。


 ついに騎士団から応答があった。


 群れから少し離れた場所に位置し、紫色の甲冑を纏う小柄な獣人。

 一人だけミカヅキツノゼミに似た形の乗り物に跨り、ワイルドな棍棒も手にしていない。

 そんな騎士から返事があったのだ。


「面白い話だが、おまえを殺めて奪えば済むだけの事。取り引きの必要はなかろう」


 驚いたことに女性の声色であった。


「我々はおまえを捕らえ、珍味もいただく。逃げることは叶わんぞ。残念だったな」


 高らかに(あざけ)る。

 空と耳に心地よく響く良い声だ。


 ——まいったな。思ったより頭がいい


 ワタセは少しだけ後悔した。

 それは、相手の能力をみくびっていた事への反省だった。


 そして、同時にこれから起きるであろう惨劇を心の中で小さく詫びる。


 ——オスばかりなら心も痛まなかったが⋯⋯そうか、君はメスなのか。この蓋を開けると君は、今までに経験はもちろん想像すらしたことのない、おぞましい陵辱にまみれるんだな⋯⋯


 ワタセは片手で密閉蓋の留め具をカチリと外した。


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