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勇者として召喚されたけど社畜として生きていく  作者: ナナダイク


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第22話

 6


 唐突なレッチェの登場は、来訪者の到着を告げるものだった。


 だが、星喰(ツヅハミ)は限界まで精気を搾り取られ、半ばミイラと化している。

 とても自力で歩けそうにない。


 野上とレッチェに介添えされ、どうにか鉱山の入り口へと向かった三人の前に思わぬ人物が現れた。


「ヤァヤァヤァ、ご無沙汰しています。星喰さん」

 (うつろ)かつ(もや)のかかった視界。薄闇の中に浮かぶ二つの影。

 陽気な挨拶を発するのは、クノプ人の衣装を纏った小柄な男であった。

 その声には聞き覚えがある。


「もしかして⋯⋯ワタセさんですか?」

「イヤだなぁ。もしかしなくてもボクですよ」

 ケラケラと笑う。

 生まれてこのかた悩んだことなんて一度もありません、という印象の能天気で明朗快活な笑い声だ。


 ——でもなんでワタセさんが?

 声に出して問うより先に返事が返ってきた。

「そりゃ課長代理ですから。課長がいない今、二課を仕切れるのはこのボクだけですし!」

 ——だとしたら、やってくるのがいささか遅いのでは?


「え? あの人はいったい誰と話してるんですか?」

 ワタセの能力を知らない二人が顔を見合わせた。

 構わずワタセは明るい口調で話を続ける。


「こっちもまぁ色々ありまして⋯⋯と言ったところで察してもらえないでしょうからぶっちゃけますと、課長は瀕死になるし、ツーリストの存在は報告されるし、なんで社員でもない人間を異世界に連れ出したのかってのが上層部にバレちゃったりとかで、責任を押し付けられるのもイヤなんで、あれこれ理由をつけて、こっちに逃げてきたということです。そんなわけでしばらくご厄介になります」


 ぺこりと頭を下げるワタセ。


 つられて野上も頭を下げる。


「えっと、つまり、今のは誰と何の話がまとまったんです?」

 きょとんとする野上に星喰よりも早くワタセが動いた。


「どうも初めまして。わたくしワタセと申しまして、星喰さんをこちらの世界に連れてきた者の代理となります。事態を早急に解決すべく日本から参りました」

 懐から名刺を取り出し、野上に差し出す。

 一連の動作に澱みがなく、やり慣れてる感が強い。


「⋯⋯つまり、星喰さんの上司にあたる方ですか?」

「そう捉えて頂いて構いません」

 ワタセが人懐こい笑顔をのぞかせる。


「あなたが野上さんですね。よろしければ詳しい話をお聞かせ願えますか?」

 言葉だけ聞くと取調室に同行を促す刑事のそれだが、柔らかい物腰と丸みを感じさせる口調によって、すぐさま野上から警戒心のオーラが消えた。


 まるで十年来の親友であるかのような打ち解けた雰囲気を醸し出しながら、野上とワタセが談笑を交えながら鉱山の奥へと歩み去る。


 残されたのはレッチェと星喰、そして守衛を担当する獣人の三人。


 なんだかキツネにつままれたように、ぽかんと二人の背中を見つめていた三人だったが、やがて正気に戻った守衛が気まずそうに持ち場へと戻っていく。


 レッチェが口端を吊り上げ、苦笑いを作る。


「なんとも不思議な人物だね」


 レッチェが呆れたような吐息まじりでワタセを評す。

「あんな頼りないのが、おまえの上司なんだって? 大丈夫かよ」

 ポンと軽く星喰の肩を叩いた。

 すると、星喰の身体は音もなくその場に崩れ落ちてしまった。


 一瞬、砂塵と化したかのように見えたが、それはレッチェの錯覚だったらしい。

 

 星喰の身体は床でだらしなく短いトグロを巻いていた。


「⋯⋯まったく、しょうがない」


 レッチェはそう独言ると、昆虫の死骸を摘み上げるように二本の指先だけで星喰を持ち上げる。

 そして、小脇に抱え直すと、お気に入りのぬいぐるみを抱えた子供の足取りで夜のしじまに消えていった。


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