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勇者として召喚されたけど社畜として生きていく  作者: ナナダイク


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21/40

第21話

< 大事なお知らせ >


この回には性的描写が含まれています。

苦手な方は読まないことをオススメします。

読み飛ばしても、物語の進行に支障はないでしょう。

たぶん・・・

 5


 『妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります』


 日本で販売されている酒類の容器には大抵こういった文言が記されている。

 

 これは人間に限ったことではないらしい。


 ベロペロの死因は、おそらく急性アルコール中毒。

 卵を胎内で孵化させ子を産むベロペロにとって、あれは絶対に捕食してはならないものだった。

 飲み込んだ高濃度のアルコールは瞬く間に全身を巡り、そのまま卵にも注がれたに違いない。


 人物コマの胴体の末端から垂れ下がっていた、卵嚢のような袋の中には卵がぎっしり入っていた。

 もう孵化することはないだろう。

 だが、ベロペロに同情する者は、この場に一人もいなかった。


「すっごく芳しい香りですぅ〜⋯⋯もうずっと、この匂いに包まれていたいなぁ」

 と、頬を紅潮させ、とろけんばかりに恍惚の表情を浮かべる若い女性の獣人。

「た、たまんねぇニオイだぜ⋯⋯こ、これ聖都庁のお偉いさんも食ったことないんだろ? は、早く食わせて⋯⋯な、なんでもするから」

 と、目を血走らせてヨダレを垂らしまくるオス。

 

 鉱山の炊事場は溢れ出る香りに引き寄せられた獣人らによって、かつてない人口密度を記録していた。


「ヤバイね」

「ヤバイっすね」

「こんな光景を前にも見たよ。ここからずっと南のカルサティアって街の娼館で。あんときの媚薬の匂いに似てる気がする」

「へー」


「あんたはなんともないのかい?」

 レッチェは隣に立つ男に視線を送る。

「なんともないですね」

 ケロリとした顔で星喰(ツヅハミ)が応じた。


「しかしまぁ、えらい大物を獲ってきたね。大したもんだよ」

「運が良かっただけですよ。ある意味レッチェさんのおかげです」

「私の?」


 不思議そうな表情を浮かべるレッチェに星喰はビンを差し出した。

「これを渡そうと思って持ち出してたんです」

「なんだい?」


「ニッポンで手に入る世界最高度数の酒ですよ。これをベロペロにも飲ませてやりまして」

「これでヤツはああなっちまったのかい?」

「ええ」


 レッチェが星喰からビンを受け取る。

「⋯⋯なるほどね。匂いの元はこれか。で、この酒は美味いのかい?」


「いやあ⋯⋯どうなんでしょ。昔、学生の時にストレートで飲んだ覚えがあるんですけど、美味いというか、なんか熱い溶岩のようなカタマリが喉を下りていったという感触しか記憶になくて」

 へへへ、と小さく笑う。


「⋯⋯そりゃあ、ヤバイね」

「ヤバイっす。マジヤバです」

「なんだかここもヤバくなってきたよ」


 二人は獣人でごった返す炊事場から距離をとった場所に並んで立っていた。

 それでも匂いに惹かれ、次から次へとやってくる獣人たちによって瞬く間に坑道が塞がれていく。

 冷静な観察者たちは我を失った連中から邪魔者扱いされ、退避を余儀なくされた。


 二人は炊事場の斜向かいにある大型パントリーに逃げ込んだ。食材や調理器具、食器を収納する扉付きの部屋だ。

 内部が二階建て構造になっており、群衆を見下ろすのにちょうどいい小窓もついている。

 普段は盗み食い防止のために鍵が掛かっているのだが、なぜかこの日は開いていた。

 酒漬け卵の香りに気を取られ、うっかり掛け忘れたのかもしれない。


 レッチェは星喰をパントリー内に引き入れると扉を閉め、鍵の代わりに料理を取り分ける巨大スプーンを(かんぬき)とした。

 暗い室内。二階の小窓から坑道の灯りがわずかに差し込むが、星喰の目には暗室と変わりない。


 だが、獣人は違うようだ。


 暗闇に黄色く光る双眸。


 そして、闇間に脈打つ深く荒い息。


 ——もしかして、これってかなりヤバい状況なんじゃ⋯⋯ない?


 ゾワっとした悪寒が全身を逆撫でるが早いか、星喰の三半規管が転倒を感知した。

 床に背中を打ちつけ、痛みが走る。一瞬止まった呼吸。空気を求めて開いた口に生暖かい肉が押し込まれる。


 舌だった。

 人間の何倍も肉厚で長い舌が星喰の顔を舐め回しているのだ。

 

 ”犬の愛情表現”と言えば聞こえはいいが、相手は獣人。体力も筋力も星喰の数倍はあるモンスターなのだ。

 相手は戯れているつもりでもこっちは致命傷を負いかねないという事実が、星喰を心胆寒からしめた。


 ——もしかして、レッチェも例の卵の匂いで理性がぶっ飛んじゃってる?


 星喰の体は完全に組み敷かれていた。

 腕も体も圧倒的パワーで押さえつけられ微動だにできない。

 助けを呼ぼうにも、部屋の外は『大交尾祭り』が絶賛開催中なのである。

 興奮した獣人たちの叫び声と腰の動きが熱い空気のうねりとなって、扉をガタガタ振動させるくらい皆が皆ハッスルしまくっているのだ。


 叫んだところで無駄な足掻きでしかないのは明白。

 むしろ「さっきはお楽しみでしたね」と意味ありげな薄ら笑いを見せつけられる可能性だってあり得る話だ。


 そんな空想で気を紛らわしている間にも、完全にタガが外れたレッチェは星喰の装甲を剥ぎ取っていた。

 乱暴にむしり取るのではなく、肌を傷つけないよう細心の注意を払う優しい所作だった。


 その行いはまるで、天然真鴨の羽毛を抜き取る一流シェフ⋯⋯いや、赤子を着替えさせる母親の手つきのようだ、と星喰は思った。

 もはや、されるがまま。無抵抗の境地に彼の意識はあった。


 ひんやりとした冷たいパントリーの空気が素肌に触れる。

 

 ——見ず知らずの場所で見知った相手に一糸纏わぬ姿を曝け出すというのは、なんかちょっと興奮する⋯⋯


 よからぬ感想がチラッと思い浮かぶと同時に、下腹部に血流が注ぎ込まれるのを感じた。

 トクントクンと脈打ち傲然屹立(ごうぜんきつりつ)するそれは、すぐさま熱い何かに優しく包み込まれる。


 動物園に踏み込んだ時に感じる強烈なケモ臭。

 それを限界まで濃縮したような匂いが嗅覚に充ちる。

 悪臭と唾棄すべきニオイの塊に顔が押し付けられた。

 

 酷い目に遭っているにもかかわらず、なぜかイチモツは喜び勇んで屹立を続けている。

 星喰の感情が正しく反映されていないようだった。


 『下半身は別人格』という言葉が脳裏に文字として浮かぶ。

 呼吸が阻害されているせいか、その文字は薄く掠れて見えた。


 上手いことを言ったもんだと濡れそぼつ口元を歪め、こっそり嗤う。


 溺死寸前で鼻口が解放された。

 嗅覚がおかしくなったのか、もう嫌な刺激臭は感じなくなっていた。


「ふふ」

 レッチェの微笑が聞こえる。

 どうやら目も慣れてきたようだ。輝く二つのシトリンと同調して、腹の上で上下にゆらめく輪郭が見える。


 絶頂はすぐにやってきた。

 背中が弓なりにのけぞり、脳の奥が甘く痺れる。


 ——やってもうた⋯⋯ナマやんか


 気づいたのが存分に放出した後であった。

 なんとも間抜けな話である。


「XXX、XXXXXX⋯⋯XXXX」

 熱い息を吐きながら、レッチェが何か言った。

 星喰を見下ろすその顔に、とても妖艶な笑みが見えた気がした。


 その後もレッチェの性欲は止まることはなく、獣の本能の赴くまま星喰の体は弄ばれ続けた。

 百戦錬磨の手練手管に本人の知らない扉がいくつも開かれ、快楽地獄に身を灼かれまくる。

 別人格と思われていた下半身と上半身が見事にシンクロし、おぞましい痴態を繰り広げてみせたのだ。


 やがて、理性も本能も感情も肢体も全部レッチェに飲み込まれた星喰は意識を失った。


 あれから、いったいどれだけの時が流れただろうか。

 

 鉱山の中だ。目覚めを促す眩しく明るい光が差し込むことはない。

 

「⋯⋯生きてますか?」


 遠慮がちに尋ねる男の声がした。野上の声だった。

 スマホの振動音よりも小さな物音であったにもかかわらず、覚醒には十分な刺激が得られた。


 のそりと緩慢な動きで上体を起こす星喰。

 体を覆っていた外套が床に落ちる。

 野上は親切心から手にある手提げランプを星喰のそばに差し出す。

 痩せ細った不健康な白い肌には幾筋もの引っ掻き傷が赤く浮き上がっていた。

 

「また派手にヤラれちゃいましたね」

 同情とも哀れみともつかない野上の笑いを含んだ声に、星喰が憔悴のあまり表情の消えた顔を上げる。

 ランプの光は野上の顔をも照らしていた。

 目の下にくっきりとしたクマが見てとれた。


「ははは⋯⋯僕もひどい顔だって言いたいんでしょ? 大丈夫です。わかってますから」

 ランプを近くのテーブルに置くと、野上自身もその上に腰掛ける。

「まずは服を着ましょうか」

 星喰に行動を促した。

 

 冬眠明けのクマといった感じで、のっそりと動き出す星喰。

 だが、ランプの灯りが薄すぎるのか、よく見えていないようだ。

 野上が気を利かせてランプの位置をテーブルから床に移動させる。


「部屋の外もひどいことになってます。精魂枯れ果てた男たちが床に転がりまくって、まさに死屍累々。足の踏み場もないくらいです」

 野上は話を続ける。

「ただ⋯⋯女性たちがですね、ものすごく明るく元気で、例の卵を手にキャッキャしてまして」

 ピクリと星喰の手が止まった。


「察していただけましたか⋯⋯」

 野上の口から大きな吐息が漏れる。

「体力のある獣人たちは毎日でも平気かもしれませんが、我々人間は⋯⋯身が持ちませんよ」

 体育系ガチマッチョである野上が弱音を吐いた。

 煌びやかなネオン管で縁取られたコントラスト強めの『死』という文字が、不健康な痩身体である星喰の脳裏に閃く。


 意図せず互いの視線が交錯し、ひとつの結論を導き出す。


「あの卵は危険です。アレを持ってここから離れましょう!」

 二人が力強く頷く。


「話は聞かせてもらったよ!」

 ふいに扉が開き、坑道からの光が侵入者の姿を濃く長い影で描き出した。

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