004 ボクが、聖人!?
ハイダ様から『突然ですまんが、レディーウォーリアーの従仕の緊急健康診断をすることになった』といきなり言われ、午前中だけでは終わらないかも知れないと言うことで、仕事を休んで健康診断に行った。それから2日が経った。
夕食の時、ハイダ様がぼくに言った。
「セリエス、すまないが明日、朝から私に付き合ってくれないか? それとも、何か予定があるか?」
「はい、構いません」
ハイダ様の頼みなら、たとえ予定があってもすべてキャンセルするつもりのボクは、即答した。幸いにして、明日は家事と道楽以外の予定はないから、自分の都合だけでどうにでもなる。家事は、ほかの従仕に頼む必要があるけれど。
「それなら、明日は朝飯の後に出掛けよう」
「セリエスさんだけですか?」
ダリアンが、自分も一緒に行きたそうに言った。一番若いからか、少し甘えん坊なところがある。すでに18歳で、成人はしているけれど。
「明日はセリエスだけだ。悪いな。代わりというわけじゃないが、今夜は思い切り責めさせてやるぞ」
「はいっ、頑張りますっ」
ハイダ様は、怪我をして帰って来た日は順番にボクたち4人全員と性交したけれど、翌日からは1日1人だけを相手するようになった。今日はダリアンの番だ。丸3日空いたから、彼も張り切っている。
従仕の中で唯一の後輩に微笑ましい目を向けつつ、ボクは、明日の用事って何だろう?、と考えていた。
翌日、ボクはハイダ様の2人乗りヴィークルに一緒に乗って、都市の郊外に建つ家から中心部へと向かっていた。
「今日はどんな用事なんですか?」
ボクは昨夜から気になっていたことを聞いた。
「着けば解るよ。すぐだ」
ハイダ様の口調からすると、到着するまで答えてもらえそうにない。ボクは大人しく到着を待つことにした。
ヴィークルは都市の中心部を通り過ぎ、軍施設のある区画へと入った。ボクの仕事場である研究所も、この区画内にある。今日はハイダ様、休日のはずだけれど、用事というのは仕事……軍に関係することだろうか。それがボクに関係あるとは思えないけれど。
あ、あるとしたら生きた淫獣を捕らえたから、その観察をボクに頼む、とかかな。生態研究のために淫獣を飼育したいということは、研究所では漏らしているし、それを軍の人が知っていてもおかしくはない。そして、研究所にも内緒で生態観察をしたい、とか。それなら、わざわざ休日に職場に来る理由も解る。
そんなことを考えているうちに、ヴィークルは軍施設のどこかの建物の地下駐車場に停まった。ハイダ様に促されてヴィークルを降り、彼女の後について廊下を歩き、階段を上り、エレベーターに乗った。
ハイダ様はボクに合わせてゆっくり歩いてくれているけれど、ともすればボクは遅れそうになる。並の男じゃ平均的な女にも体力で劣るのに、レディーウォーリアーともなればその差はとてつもないものになる。対抗できるのはベッドの上くらいだ。
しばらく歩いて、ようやく目的地に着いたみたい。自動ではないドアを抜けた先にはもう一つドアがあり、その左右を銃で武装した兵士が固めている。
ハイダ様がその兵士に何か伝えると、ドアが開かれ、ボクはハイダ様に続いて部屋に入った。
その部屋は、広い会議室のようだった。奥に長円形のテーブルがある。
部屋の広さの割に、人は少ない。4人だけ。椅子にも座らず、テーブルのこちら側に並んで立っている。3人は軍人、それも服装からしてかなり上の地位にいる人だ。ハイダ様の上司かな。そしてもう1人は、白衣姿の医者らしき人。彼女が医者だとしたら、2日前の緊急健康診断が関係しているのだろうか。
なんてことを考えていると、4人の女はスッと床に片膝をついた。
え? 何々? ハイダ様より上の人のはずだけれど、実はハイダ様の方が上?
ボクが状況を掴めずに狼狽えている間に、ハイダ様も膝をついた軍人の横に移動し、ボクに向かって片膝をついた。え? ボクに対して膝をついているの?
混乱しているボクに、中央の女が声をかけた。
「ようこそおいでくださいました、聖人様」
……聖人?
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聖人のことは、ボクも男児学校の歴史の授業で聞いて知っている。何百年かに一度、時代の節目に現れる、女を癒す力を持った不思議な男。聖人自身が何かしたことはないけれど、人類にとって困難な時代に現れ、傷つき倒れた女たちを癒したとかなんとか。
ボクが戸惑っていると、5人の女たちは立ち上がってテーブルに移動した。ボクもハイダ様に促されるままに、椅子に座った。
そしてまずは自己紹介。軍服を着用した3人はそれぞれ、司令、副司令、参謀長と紹介された。って、ハイダ様の上官どころか、この都市、ソーセスの軍部の最高権力者じゃないか。
そして白衣の女は、軍医のトップ。指揮権はないけれど、それでも上の方の人だ。
これだけお偉いさんが集まっているということは、ボクが聖人というさっきの発言も、冗談と言うわけではなさそう。けれどそれじゃあ……いや、それを考えるのは後にしよう。
「今日、聖人様にお越しいただいたのは、今後のことについての話し合いをするためです」
司令が口を開いた。
「あの、ボクのことはセリエスと呼んでいただけませんか? そんな風に呼ばれると、何と言うか、お尻がムズムズして……それと、敬語もいらないです」
ボクのお願いに、司令はフッと微笑んだ。冷たい感じだった印象が温かみを帯びた。
「そう言ってもらえるとこちらも気が楽になる。さて、今後についてだが……」
司令の話は、ボク、聖人の今後の扱いについてだった。実のところ、歴史の授業で習ってはいたものの、女の傷を治すだけなら、聖人なんて必要ないんじゃない?と思ったし、司令を始め、ここにいる他の軍幹部たちも同じ思いだったらしい。
けれど、ハイダ様の全治1ヶ月の怪我を一晩で治療したとなると、話は違ってくる。何しろ、聖人の治癒能力は現代医療を遥かに凌いでいることになるのだから。
そして、今現在それを最も必要としているのが、ここソーセスの軍部ということになる。何しろ、この都市はセレスタ地峡の入口、つまりは淫獣の侵入を防ぐための最前線にあり、淫獣に相対しているのが軍、より具体的には乙女戦士操るエクスペルアーマーなのだから。
他の7つの都市は離れているからそうそう争いになることはない、そもそも敵対しているわけでもないから、ウェリス大陸内で戦争が起こることはまず考えられない。
しかし、聖人の能力が知られるとなると、事情が少し変わってくる。
戦争はなくても、大規模な工事や遺跡の発掘で事故が起こり、重傷を負うことはあるし、大型の野生動物に襲われて大怪我を負うこともある。そのような時に聖人がいれば、現代医療でも治せない負傷を完治できる可能性があるのだから。
さらに、聖人の癒しの力がどの程度かは不明だけれど、例えば『どんな難病も根治できる』などという憶測が事実とは無関係に広がったら、為政者も放ってはおかないだろう。
そのためには、聖人の能力の限界を可能な限り速やかに把握し、その上で公表する必要がある、と司令の話はそういうことだった。
公表しない、という選択肢もあるのでは?と思ったけれど、軍部としては淫獣との戦闘で負傷したレディーウォーリアーは速やかに治癒して現状復帰して欲しいし、それを行なっていたらいつかは情報が漏れるだろう、それなら、こちらから公表した方がいい、ということだった。
ボクとしても、負傷したレディーウォーリアーには早く治って欲しいと思う。
この話を、ハイダ様が骨折する前に聞いていたら、気の毒には思っても積極的に治療に協力したいとは思わなかったかも知れない。けれど、ギプスを着けたハイダ様を見た時、ボクの胸は深く傷んだ。ダリアンが先に世界の終わりのような声を出して涙ぐんだので、逆に落ち着きを取り戻したけれど。
ほかのレディーウォーリアーのそんな姿はなるべく見たくないし、その従仕にあんな思いをしてもらいたくもない。
だからボクは、ボクの能力の限界を調べたい、という司令の申し出に、快く頷いた。
「ありがとう。そう言ってもらえると助かる。ところで、それに当たりセリエスからの要望はあるか? 可能な限り、要望には応えるつもりだ」
そう言ってくれた司令に、ボクは少し考え、今まで通りにハイダ様やほかの従仕たちと一緒に暮らしたいこと、それにできれば、淫獣の生態研究も続けたいことを伝えた。
副司令はボクの我儘に難色を示したけれど、司令と参謀長がボクのお願いを容れてくれたおかげで、ボクは基本的には今までの生活を続けられることになった。
副司令は、軍施設内にボクの住居を用意してそこで暮らさせたかったみたい。その方が警備もしやすいし。でも、司令と参謀長は、ボクの生活の変化によって、聖人の存在に感付く者がいる可能性を懸念したみたい。
確かに、意味もなく突然生活が変わったら、その理由を調べたくなる人はいるだろう。もっとも、ボクの生活を注視している人がいるとも思えないけれど。
そして、ボクの能力を調べるための特別部隊が編成された。と言うか、編成はもう済んでいたみたい。部隊と言っても、戦闘はしない。あくまでも聖人の能力を調べる、ただそれだけを目的とした部隊。
軍医のヘルミナさんが部隊長で、ハイダ様が副長、他にハイダ様のエクスペルアーマー小隊の部下の2人、リチルさんとベルリーネさん。それと、秘書官として参謀長の次席秘書官を務めていたモレノさんがこの部隊に異動になった。医術の心得もあるからと、彼女が選ばれたのだそう。
で、休日が明けてからすぐに部隊の活動が始まったわけだけど……
1日目。
部隊の女の人たちに、めちゃくちゃ搾精された。搾精機もあるのに、それを使わず素手で。機械を媒介したくないとヘルミナさんが説明したけれど、言い訳っぽかった。
そして、レディーウォーリアーの3人が、ナイフで自分の腕を斬り付けて、そこにボクの精子をぶっかける。けれど、そんな狂気の光景とは裏腹に、1分半くらいでみんなの傷は綺麗に消えた。
2日目。
今日も搾精。搾ったもののを分割して、常温保存に冷蔵保存に冷凍保存。そして、昨日と同じく、女の戦士は腕を斬りつけての治療。昨日の精液を傷に掛けたり、今日の精液を飲んだり。
飲む意味あるの?と思ったけれど、それでも傷は綺麗に治っていた。傷に直接かけた時より時間はかかったようだけれど。
3日目。
今日も搾精。
そして、腕を傷付けたリチルさんとセックスした。何を言っているのか自分でも解らない。けれど、傷に直接かけた時や、口から服用した時に比べて、遥かに短い時間で傷は完治した。ますます訳が解らない。
ちなみに、2日前に搾精した精子は、その効果を失っていた。精液の効果は、射精したその日と、その翌日までしか効果はないらしい。
そんな風に、ボクの聖人としての能力の調査は続いていった。
==登場人物==
■セリエス
主人公。20歳。研究所で淫獣の生態研究をしているが、生きた生体サンプルがいないので、研究は遅々として進んでいない。勤務は1日4時間で週3日だけ。
聖人であることが判明し、その能力の調査のために、レディーウォーリアーたちに精液を搾られる日々を送ることになる。
■ハイダ
レディーウォーリアーであり、主人公セリエスの主姐。24歳。
ウェーブのかかったクリーム色の肩に掛かるロングヘアを持つ、巨乳の美女。
エクスペルアーマー部隊の1小隊の小隊長。セリエスの聖人としての能力を調べる特別部隊の副長を務めることになった。
■ヘルミナ
軍の医療センターに勤務する女医(軍医)。ハイダの主治医。
聖人の能力を調べるために組織された特別部隊の部隊長を務める。
■リチル
ハイダが小隊長を務めるエクスペルアーマー小隊の隊員。聖人能力調査特別部隊に赴任。
■ベルリーネ
ハイダが小隊長を務めるエクスペルアーマー小隊の隊員。聖人能力調査特別部隊に赴任。
■モレノ
軍参謀長の次席秘書官を務める才女。看護士の資格も持つ。
聖人能力調査特別部隊の秘書官として、参謀長秘書室から異動。
※ハイダの従仕たちの名前に命名規則があるように、女の名前にも命名規則があります。でも、それを明かすと物語の先が少し読めてしまうので秘密……
==用語解説==
■聖人
時代の節目に現れるという、女の傷を癒す能力を持った男。絶倫で、性交することで女の傷を癒すと伝えられている。
その精液は、女の負傷を短時間で治癒する。患部に直接かけても、セックスで中出ししても効果を発揮するし、全治1ヶ月の負傷も即座に治癒する、現代医療を遥かに凌ぐ治癒力を持つ。
■ソーセス
セリエスたちの住む都市の名前。ウェリス大陸にある8つの都市のうちの1つ。大陸の南東に位置し、8つの巨大都市の中でセレスタ地峡に最も近い。
※大陸の南東にあるので、
SouthEast → ソーセス
です。