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010 遺跡への同行

 ハイダ様がアルクスとの子をその身に宿してからおよそ2ヶ月。ボクたちの住む都市ソーセスの政府は、聖人の出現とその能力を公表した。聖人のことを調べていたのは軍部だったけれど、2週間ほど前に政府にも聖人のことを明かし、市民と他の都市への公表は政府が行なった形だ。


 それなので、ボクもこの2週間ばかりは軍施設だけでなく、行政府にも顔を出していた。そこで、リチルさんやベルリーネさんを相手に治癒の実演……要はセックスをした。首相やら、なんちゃら大臣やらの並んでいる目の前で。

 搾り取って保管してある精液の経口摂取や、シリンジでの膣内注入でいいんじゃないかと思ったのだけれど、膣内射精(なかだし)が効果もそれが現れる早さも一番だから、と押し切られた。女に強く言われたら、男は従うしかない。


 実際、同じ膣内注入でもシリンジを使った場合とセックスで膣内射精(なかだし)した場合とでは、後者の方が傷が治る時間が早いだけでなく、治癒効果も高い。聖人の能力を調べ始めたばかりの頃は、かすり傷程度での実験だったから、効果の違いはなかったけれど、より大きな怪我ではその差が明確に現れた。

 だから実演もセックスで、というのは解らなくはない、解らなくはないんだけど……報道番組でしか見ないようなお偉方を前にヤるのは、すごく負担だった。心に。疲弊した心は家に帰ってから、お腹の大きくなって来たハイダ様のヨシヨシで癒してもらった。


 そんな紆余曲折の後に発表された聖人の出現だけれど、それが誰かということは秘匿された。それを明かして、ボクに報道陣やら何やらに群がられたら大騒ぎになるからだろう。ボクとしても、生活が変わったとしてもなるべく静かに過ごしたいから、それは願ったり叶ったりだ。




 そして聖人発表から1週間が経って、ボクは都市から150kmほど離れた遺跡に、調査団に混じってやって来ていた。数ヶ月前に発見されたばかりの遺跡なのだけれど、大陸環状鉄道のチューブからほど近い。工事の時に、よく見つからなかったものだ。

 調査団は、ボクを入れて14人。発掘調査員が8人、考古学者が2人、それに医師としてモレノさん、護衛としてリチルさんとベルリーネさん。モレノさんが看護士だけでなく、医師の資格も持っていることを、ボクはこの任務で初めて知った。

 ボクの役割は、発掘中に万一大怪我を負った人が出た場合の治癒だ。せっかくの聖人なのだから有効活用しなければ、ということで、重傷者の出る可能性の高い、新しい遺跡の調査団に入れられた、というわけ。淫獣の駆除での負傷者の発生確率の方が高ければ、都市に留め置かれただろう。


 もう1つ、調査団の女たちが性欲を持て余した時の発散用に、という目的もある。

 ハイダ様は、遠地に長期赴任した時には我慢していると言っていたけれど、大抵の女は現地で男を見繕っているのだそう。今回調査する遺跡は最近見つかったばかりで、遺跡街も満足にできていないので男が住んでいない。今までも何度か調査団は派遣されたけれど、我慢できない時は女同士で慰め合っていたのだとか。

 遺跡街はできていなくても、簡素な小屋やテントに20人ほどの女が常駐していて、合計で30人近くの女に身体を求められることになる、らしい。治癒よりもそっちがメインになる気がする。ボクの心は、ハイダ様一筋なのに。


 医師と護衛が、すでに解散された聖人能力調査特別部隊のメンバーなのは、聖人の正体を知っているからかな。聖人が“誰か”は公表されていないから、すでに知っている人の中から選んだのだろう。

 ボクのことは、調査団には明かされたけれど、現地に常駐している人たちには、性欲発散のために連れて来られた、としか伝えられなかった。重傷者がでなければ、秘されたままになるだろう。


 そうそう、特別部隊は解散したけれど、軍の医療センターに聖人能力調査室ができた。ヘルミナさんとモレノさんは特別部隊から引き続き所属し、他には新たに配置された人たちで構成されている。そして、ボクは相変わらず毎日、搾精されている。




 10日の予定の発掘調査は、順調に進んでいるようだった。危険だからとボクは遺跡には入らせてもらえないので、調査員や考古学者の話から察することしかできなかったけれど。

 夜は毎日、数人の女を相手に寝所を共にした。みんなも都市に帰れば従仕(じゅうし)がいるだろうに、お盛んなんだから。考古学者の2人は性欲発散に来なかったけれど、学者だから欲情よりも発見したものに夢中なのかな。なんだか、凄いものが見つかったと喜んでいたし。


 遺跡から得られるものは、主に2つ。情報と資源。そうは言っても、遺跡はどれもこれも、100万年も前のもの。みんな朽ちていて貴重な情報などそうそう見つかることはない。だから、稀に保存状態のいい物件があると、考古学者は目の色を変える。らしい。考古学者と近しくなったのなんて今回が初めてだから、良く判らないけれど。

 この遺跡は、考古学者にとっては“当たり”の遺跡らしく、2人ともとても興奮している。

 資源の方は、どこの遺跡でもそこそこ採れる。過去の建材なわけだけれど。それを掘り出して加工し直して使うことになる。もっとも今回の調査では、遺跡の規模と状態を確認するだけなので、資源の発掘まではしないらしい。


 ただ、大半が地下に埋まっている遺跡の発掘調査だから、当然事故も多い。だからこそ、淫獣と戦うレディーウォーリアーよりも負傷率は高く、聖人を派遣すべき現場の1つとして挙げられたわけで……


 ……などと考えながら、遺跡からあまり離れ過ぎないように周辺を探索していたら、遺跡の方が騒がしくなった。どこからともなく、リチルさんが現れてボクの斜め後ろに立って警戒する。ボクはリチルさんと共に、遺跡の方へと足を向けた。

 ボクたちの向かう先から、ベルリーネさんが駆けて来て、ボクの前で立ち止まり、敬礼した。

「遺跡の中で落盤事故があったようです。状況は確認中ですが、負傷者も出た模様。セリエスには診療所で待機して欲しい、とモレノから伝言です」

「落盤って……大丈夫なんですか?」

「まだ判りません。場合によってはセリエスの力が必要になる、とモレノは考えて待機をお願いしたのでしょう」

「解り、ました」

 緊急時に余計なことを訊いたりして、ボクも動揺しているのかも知れない。『事故が起きた』と聞いただけなのに。


 ボクはベルリーネさんと別れると、急ぎ足で診療所──といっても簡素な木造の小屋──に向かい、入口でリチルさんとも別れ、1人で診療所に入った。

 診療所はあるけれど、常駐している医師はいない。だからモレノさんが調査団に入っているわけだけれど。

 無人の診療所でそわそわしながら待っていると、騒めきが近付いて来た。扉が開き、モレノさんの後ろから担架に乗せられた女が運ばれて来た。左脚に太腿から足首まで副え木が当てられ、固定されている。


「そこ空けてっ」

 モレノさんの声で、ボクは慌てて部屋の隅に退いた。怪我人がベッドに寝かされ、モレノさんが副え木を取ってズボンを鋏で切り裂いていく。

(うっ……)

 ボクは何とか声を呑み込んだ。患者の左脚は落盤に潰されたのか、ぐちゃぐちゃだった。

「セリエス、突っ立ってないで下脱いで。リチル、ベルリーネ、セリエスから精液を採ってシリンジに入れて」

 モレノさんが指示を出す。担架を運んで来た女たちが、治療とは思えない行為を指示するモレノさんに文句を言ったけれど、モレノさんは一喝して黙らせた。大人しい人だと思っていたけれど、こういう面もあるんだ。


 それより、ボクは精液を提供しなくちゃ。そのためにいるんだから。

 ボクは手早く下半身を裸にして、モレノさんたちと一緒に診療所に入って来たリチルさんとベルリーネさんの手で、精液を搾り取られた。




 少なくとも20回は搾られたかな。これまでの搾精と比べても多い方。これまでは搾精した後、リチルさんとベルリーネさんに何度も膣内射精をしていたけれど。

「セリエス、次の搾精が終わったら下を出したままこちらへ来てください」

 モレノさんがボクを呼んだ。

「は、はいっ」

 指示された通り、実施中の搾精が済んでから、ボクはモレノさんの傍に行った。

「モレノさん、終わりました」

「少し待っていて」

 モレノさんはベルリーネさんからシリンジを受け取って、怪我人の剥き出しの股間に突き刺すと、ピストンを押して精液を注入する。それを終えると、ボクを振り返った。


「彼女の傷も多少は癒えたわ。後はあなたが精液を直接注入して癒すのよ」

「え……脚を怪我しているのに、大丈夫ですか?」

「多少の痛みはあるでしょうけれど、耐え難いほどではないわ。リチル、ベルリーネ、彼女の体勢を変えるから手伝って」

 確かに脚の状態は、運び込まれた時の見るに耐えない症状ではなくなっているけれど、それでも痛々しい。他人が簡単に『耐え難いほどではない』と断言するのはどうだろう。医師であっても。

 ボクがそんなことを思っている間も、モレノさんは護衛の2人の手も借りて、患者の身体をボクと交わりやすい体勢にする。患者が痛みに(うめ)くけれど、確かに、我慢できないほどではなさそう。


「セリエス、さあ」

 モレノさんに促されて、ボクはベッドに乗り、怪我をしている女に性器を近付けた。

「ゆっくりヤって」

「はい」

 モレノさんの指示通りに、ボクは女の身体に振動を与えないように、そっと行為を始めた。




 モレノさんの指示に従い、7回の射精を行なったところで、ボクは動きを止めて、モレノさんを振り返った。

「正確にはきちんと診察する必要があるけれど、もう大丈夫よ」

 担架を持って来て、最初にモレノさんに叱咤されてからずっと壁際で置物になっていた2人の女が、安堵の溜息を吐いた。

 ボクも一安心。良かった、この人の脚を切断することにならなくて。


 ボクの力なんて使う状況にならないのが一番いいけれど、そういう状況が発生した時には、惜しみなくボクの力を使っていきたいな。それが、女の人にとっても、そしてその従仕(じゅうし)にとっても、最善なのだから。



==登場人物==


■モレノ

 軍参謀長の次席秘書官を務める才女。医師と看護士の資格も持つ。銀色のショートヘア。身長約170cm。

 聖人能力調査特別部隊の秘書官として、参謀長秘書室から異動。特別部隊が解散した後、新たに創設された聖人能力調査室に所属する。



==用語解説==


■遺跡

 ウェリス大陸のあちこちにある、かつての都市の痕跡。どの遺跡も100万年以上は経っている。遺跡には過去の情報が残っていることもあり、また、遺跡を構成する構造材は資源として使えるため、遺跡は積極的に発掘される。


■遺跡街

 発掘のため、遺跡の周辺に造られた街。遺跡は都市からは離れていることが多い(というより、都市周辺の遺跡はほとんど掘り尽くされている)ので、発掘を効率的に行うための街が、遺跡の周囲に形成される。


■大陸環状鉄道

 ウェリス大陸の8つの都市を円形に繋いでいる高速鉄道(リニアモーター鉄道)。

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