同級生にアルハラされたんが…②
土曜日が来た。ゼミでの飲み会だ。
大学の最寄駅に17時に集合だ。
飲み会の場所は、駅にある旧時代とかいう大衆居酒屋だ。
安くてそこそこうまいので、大学生にはとても人気だ。
「あっ!ワタルーこっちこっち!」
遥が俺に気づいて手を振る。俺も手を振り返し、遥の方へ駆け寄る。
「ごめんよ遥。急に誘ってしまって。」
「いや全然大丈夫だよ。それにゼミでの飲み会なんて、初めてだからなんか楽しみだよ。」
「それなら良かったよ。」
「ワタル!遥!」
後ろから呼ぶ声がする。
「玲也くんも来てくれたのか!」
田中玲也、ゼミの友達だ。
「陣野くんから連絡があってね、なんか強制みたいな雰囲気だったからさ、でも僕は弟たちの面倒を見ないといけないから19時には家に帰らないといけないんだよね…」
玲也くんは申し訳なさそうに言った。
あまり詳しく聞いたことはないが、玲也くんの家は複雑らしい。
「陣野くんのことだから早く帰してくれるか不安だなぁ…」
すると遥は玲也くんの肩に手を当ててこう言った。
「大丈夫だよ。なんか言われたら俺が言い返してやるよ。」
「ありがとう。頼もしいよ。」
陣野みたいな奴らの生態はよく分からない。いつもは大して仲良くしないくせにこういう時だけ、無理にでも人数を集めたがる。まるで群れの数で、虚勢を張る猿山の大将のようだ。
駅の出口の方から騒がしい笑い声が聞こえる。
陣野とその他諸々の取り巻き達だ。
これで全員揃ったらしい。
店に入ると席に案内された。人数が多いので座敷テーブル二つを使うことになった。
俺と遥と玲也くんは陣野達とは別の席に座った。
「カンパーイ!」
陣野の取り巻きが乾杯の音頭をとり飲み会がスタートした。
陣野達の席は相当盛り上がっているみたいだ。
俺たちもたわいの無い話をしながら盛り上がった。
学校の話だったり、恋愛の話だったり。
二次面接での話をしようと思ったがやめた。あんなん信じてもらえるわけがないからね。でも本当にあったことだ。胸の中にしまっておこう。
俺はふと遥の進路が気になった。
「遥。教員採用試験はどうだった?」
「結果はまだ来月だよ。手応えはあったからいけると思うけどど、倍率高いからわかんねぇ。」
遥はそういうと、旧時代の看板メニュー天串にかぶりつく。
天串を食べる横顔。
まつ毛がすげぇ長いんだな。
「そうなのか。落ちてたらどうすんの?」
「おいおい!縁起でもないこと言うなよ。」
遥はびっくりしたらしく笑いながらそう言った。
「ごめん」
俺がそういうとすぐ真面目な表情になりこう言った。
「確かに落ちる可能性も十分にある。その場合は私立か非常勤で教師をやるつもりだよ。それでまた教員採用試験を受けるつもりだ。」
「大変そうだなぁ。俺なら絶対無理だ。遥はどんな先生になりたいんだ?やっぱり理想の教師像とか夢とかあるだろ?」
遥は下を向いて、少し頬が赤くなった。
「あるけど恥ずいて。気が向いたら教えてやるよ。」
「別にいいじゃねーかよー教えてよー」
「いやだ!」
このやりとりを見て玲也くんもわらっている。
よかった。少しは楽しんでくれているみたいだ。
こんな時間が一生続けば良いのにと思った。
しかし、楽しい時間は一瞬だ。
俺はこの飲み会で、その言葉を身をもって実感した。
時刻は18時30分
飲み会がスタートしてから約1時間半経ったころだ。
「ごめん俺もう帰らないと…」
玲也くんがそう言って席を立ち、お金を置いて帰ろうとした。
「おい、待てよ。」
隣の席からこんな言葉が聞こえた。
声の主はあいつしかいない。
正真正銘のフィジカルモンスター
猿山のボス
陣野翔也だ。