同級生にアルハラされたんだが…①
学食へ到着すると、隅っこの席に荷物を置いて券売機に向かった。
今はちょうど昼休みの時間なので、券売機には長蛇の列ができている。
俺は、列の後ろに並び、何を食べようか考えていた。
「あっ!ワタルくんだー!」
列の横から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺の鼓動は物凄いスピードで速くなった。今日は最高の1日かもしれない。
振り向くと、そこには美女がいた。
星宮葵
一年の頃、同じ語学のクラスだった女の子だ。
「ワタルくん、今日授業あったの?」
星宮は、大きくぱっちりとした目で見つめてくる。
「いや…授業っていうか…卒論のことで教授に呼ばれてたんだ。」
俺は足元を見ながらそういった。
「そうなんだ!卒論頑張ってね!またね!」
そういうと星宮はニコッと笑い、どこかへ行ってしまった。
まともに目すら合わせられなかった。
星宮はとても綺麗な目をしている。まるで透き通る茶色の泉のようだ。
そんな目を見つめていると吸い込まれそうになる。
好きという泉の深淵に…
そうこうしているうちに、券売機にたどり着き、ラーメンを注文して、席に戻る。
学食のラーメンって意外と美味いんだ。麺は安いやつなんだろうけどスープが思ったより美味い。
「あれ?ワタルじゃね?」
後ろの方から俺を呼ぶ声がした。
俺の鼓動は速くなった。
星宮の時とは違う意味で…
振り返るとそこには大男がいた。
陣野翔也
俺と同じ高山ゼミで、俺の天敵だ。
「やっぱりワタルじゃねーか。お前いつもぼっちだな!」
陣野がそういうと、取り巻きの男女が笑う。
陣野はアメフト部だ。
分厚い胸板に、脂肪の乗った腹。まるでプロレスラーのような体型だ。
身長は190センチ、体重は110キロのフィジカルモンスター。
体もでかいが、顔もでかい。
サイドとバックを高く刈り上げて、トップに残した長めの髪をジェルでオールバックにした髪型が、余計に顔のデカさを強調する。
「お前、就職決まったんか?」
陣野は口を曲げてにやけながら聞いてきた。
「あぁ、決まったよ」
そういうと陣野達はなぜか笑い出した。
「なんだよ!内定もらったんかよ!」
陣野はゲラゲラ笑いながら言う。
「これでうちのゼミもみんな内定決まったから、今週の土曜にお祝いしようぜ!」
取り巻き達は大爆笑の嵐だ。
「ワタルは強制だとして、舞香!お前もちゃんとこいよ!」
「えー!やだー!」
舞香とは、俺と同じゼミで、陣野の取り巻きの一人だ。
こいつはなかなかのナイスバディで、陣野のセフレだと言う噂もある。
俺のことは心底見下してるらしい。
「おい!ワタル!あのドモリ野郎も連れてこいよ!」
「ドモリ野郎?」
俺は誰かわからなかった。
「は?大川のことだよ!」
陣野は少し苛ついた様子で言った。
「遥のことね。そう言う呼び方は良くないよ。」
「なんだテメェ?別に良いじゃねえかよ?」
陣野は少しキレ気味で俺の胸ぐらを掴んだ。
取り巻き達は「やめなよー」とか「ヤベェー!」とか言いながら盛り上がっていた。
「ごめん…」
「お前ら絶対来いよ!来なかったらぶっ殺してやるからな!」
そう言うと俺の胸ぐらから手を離して、取り巻き達と消えていった。
くそぉ…最悪だ…
今日は最悪の1日だ…
俺はこのどうしようもないイラつきをラーメンにぶつけ、ものすごい勢いでスープを飲み干した。
土曜日行きたくないなぁ…
陣野達がいるから行きたくないのはもちろんなのだが、何か大変なことになるような気がしてならなかった。
まぁ、思い過ごしか。ちょっと我慢すれば良いだけだもんね。
俺は自分にそう言い聞かせた。
この時、その不安が現実になるとは思いもよらなかった。