教授にパワハラされたんだが…②
「ピッピッピピッピピッピピピー」
いつものように目覚まし時計の電子音で目覚める。
なぜこんなに不快な音なのだろう。
寝る直前に抜いたからなのか身体が重い。
まだ寝たい。
しかしそうはいかない。
今日は大学に行かなければならないのだ。
憂鬱な気分で朝の支度をして大学に向かう。
大学へは、自転車で5分の近さだ。この近さ故、講義はいつも滑り込みセーフだった。
こんだけ近いと逆に怠けてしまうのは、人間の性かね?
自転車を駐輪場に置き、研究室まで歩く。
「おーい!ワタルー!」
俺の後ろから誰かが俺の名前を呼んだ。
振り返ってみるとそこには、茶髪のパーマ男子がいた。
「なんだよ〜!びっくりしたよ。遥」
そうこいつは大川遥。俺の大学で一番仲のいい友達だ。
美形で、身長が高く、バスケ部のエースだ。性格も良く、誰にでも優しい。もちろん彼女もいる。
俺と真逆の人間だ。
どういうわけか一年の語学のクラスで同じになってからずっと仲がいい。
ん?俺が勝手に友達だと思ってるだけじゃないかって?
そんなことはない。
なぜなら、彼女を差し置いて二人で、一緒に旅行にも行ったことがあるんだからな。
遥は、ニカッと笑いながら
「ごめん!ごめん!脅かすつもりはなかったのよ。でもなんか久しぶりだったからさ。つい嬉しくてね。」
と言った。
そして少し真面目な表情でこんなことを言った。
「そういや渡、就活やらなんやらで、全然ゼミに顔出さねーから高山先生ブチギレてるぜ。」
遥とは同じゼミだ。というか、俺がゼミを選ぶ時に遥のいるゼミを選んだ。
ちなみに高山先生というのは、あのメールを送ってきたゼミの教授だ。
「やっぱりかー。実は今日、高山に呼び出されてるんだよ。マジでやべえよなぁ?」
「ギャハハハハ!やばいじゃん!渡、終わったなぁ!」
遥は吹き出したように笑いやがった。
まったく…下品な笑い方だ。せっかくのイケメンが台無しだよ。
「遥〜頼むよ。俺の代わりに怒られてくれ!」
「ぜってーやだ!」
そういうと遥は俺の頭を見て
「てかむっちゃ髪の毛切ったよね。そっちのがぜってーいいよ。前はなんか売れないホストみたいだったもん。」
と言った。
「おいおい!それはちょっとひどくないかぁ?」
「冗談だよ。ワタルがホストだったら売れてるぜ。」
「確かに、そうかもな!」
俺がそう言うと
俺と遥は同時に吹き出した。
「やべぇ、もうそろそろ講義始まっちゃう。俺、講義アシスタントなんだ。じゃあまた!」
そういうと俺に手を振りながら走り去っていった。
プライドだけは高い俺だが、遥にイジられても全然嫌な気はしない。
なぜだろうかね?
遥といると、いつも気分が明るくなる。まるで心の闇を照らす光のようだ。
それは言い過ぎか…
そんなことを考えながら、研究室に到着した。
高山と書かれた扉をノックする。
「はーい。どうぞー。」
「失礼します。」
入室すると高山はパソコンで何かの作業をしていた。作業をしながら俺の方をチラ見すると喋り出した。
「あなたですか。よく来ましたね。しかし、来るなら何時に来ますとかアポ取っていただかないと困ります。
今はたまたま手が空いているので対応できますが、そうじゃなかったら、時間の無駄ですよ?」
「すみません。次から気をつけます。」
先にアポ無しで呼び出したのはそっちの方だろ。
高山はパソコンの画面を見ながら、こう言った。
「渡くん、卒論のことなのですが、あなたまだ何も進んでいませんよね?」
「すみません。就活が忙しくて、卒論どころではなかったんです。」
高山は大きなため息をつく。
「あのですね、大学は就職予備校ではないのですよ?
大学は学問も学ぶところなのです。確かに就職活動も大事ですが、大学生の本分は学問なのです。就職活動よりも学問を優先すべきです。」
確かにそうだ。ぐうの音も出ない。高山はいつも正論しか言わないのだ。だから俺はこいつが苦手だ。
すると高山は続け様にこう言った。相変わらずパソコンで作業をしながら。
「他のゼミ生はみんな、就職活動と卒論を両立していますよ。特に大川くんなんてもうデータも集まって後はまとめるだけです。
それに比べてあなたはまだテーマすら決まっていないじゃないですか?」
「いや…テーマはこないだ決めたはずですが…」
俺がそういうと高山のキーボードを打つ手が止まった。そして椅子を回転させ、俺の方に体を向けた。
「あなた、バカですか?この間言っていたテーマは、私の専門外で指導ができないので、他のテーマにしてくださいと言ったはずです。
別にこの間のテーマで書いても良いですが、指導はできないので一人で書いてくださいね。」
「分かりました。テーマを変えてきます。」
高山はパソコンに向き直し、また作業を始めた。
「では来週のゼミの時間までに新しいテーマを考えてきてください。
私の専門の範囲内ならなんでもいいですよ。」
「分かりました…」
「それでは、今日伝えたかったことは伝え終わりましたのでもう帰っていいですよ。お疲れ様です。」
「失礼します。」
そういうと研究室を出た。
はぁ…しんどかった。ものの10分くらいだったと思うが、俺には1時間に感じた。
高山は正論しか言わない。
会話はキャッチボールに例えられることがある。
遥との会話は、俺が取りやすいように緩やかなボールを投げてくれる。
しかし、高山は140キロ以上の豪速球を胸のど真ん中に投げてくる。
筋力も技術もないへっぽこキャッチャーの俺では受け止めることができない。
あぁ…叱られたらなんか腹が減ったなぁ。ラーメンでも食おう。
俺は重い足取りで、学食へと向かった。
遥と渡のBL展開はありません。
しかし、大川遥はこの物語のキーマンになるかもしれません。