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すみません、短いです。
ナビルとのデートの約束をした当日。出かけることをヴィザールに告げに行くと、彼は絵麻の側までやってきて、彼女の頭上に手をやると、何かを絵麻の髪に挿した。
「何?」
絵麻は視線を上にやるも自分の頭が見えず、何が付けられたか見えない。ヴィザールの部屋には鏡がない。何を付けたかも教えてもらえず、絵麻がそれを取ろうとするとヴィザールが口を開いた。
「遅刻するぞ」
そう言われてハッとする。城から出るだけでもそれなりに時間がかかるのだ、絵麻は後で確認すればいいことだと悟り、慌ててヴィザールに背を向けた。
待ち合わせの場所までいくと、すでにナビルは来ておりいつものように笑顔で手を振られる。お店での雰囲気とあまり違わない気がしてなんとなくホッとする。
「こんにちは、遅くなってすみません」
「いやいや、俺が楽しみすぎて早く着いただけだから」
そう言われてにこにこと笑顔を向けられると、絵麻もつられて笑い返す。
「じゃあ、行こうか」
そう言われて絵麻はナビルの隣を歩き始めた。
よく考えると男性の横を歩くのはいつぶりだろうという疑問が起こる。ヴィザールと歩くときは、割と少し後ろを追いかけていることが多い。正直歩くのが早くてついていくのが精一杯だ。
ナビルは絵麻の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれているせいか、隣を歩くことができる。
この世界に来る前に恋人はいなかった。社会人になってから特に縁がなかったというか、あまり恋愛を頑張ってこなかったというのが正確かもしれない。
なんか、仕事の方が楽しくなっちゃったんだよね。
「お腹空いている?」
丁度お昼前のため、頷くとナビルが笑顔になる。体格の良い男性だが、笑うと幼く感じる。
ヴィザールも背が高いけど、たまに白い子犬になってるもんね。なんというか、いつも寂しそうだけど。
ついヴィザールのことを考えてしまい、首を横に振る。
「あそこのお店魚が美味しいんだ」
この辺りで魚はオアシスか、遠く離れた海に行くしかない。魚を食べるとなるとかなりお金がかかる。絵麻が遠慮した表情をしたせいか、ナビルが笑う。
「大丈夫、奢るから!」
いや、それはそれで困る!
そう思ってなんとか断れないだろうかと思案したが、ナビルが強引に行こうと勧めるため、絵麻は仕方なく店に入ることにした。お給料入ったばっかりだし、自分でちゃんと払えばいいかと諦めて席につく。
実際出てきた料理は、貝やトマトなどと共に煮込まれた、魚が丸ごと使われたスープだった。魚の出汁が出てとても美味しく、思わず笑顔になる。
「美味しい」
「だろ?」
絵麻の笑顔に、前に座るナビルも嬉しそうに笑う。他愛ない会話をしながら、食事が進んでく。
あぁ、なんかこれ普通のデートっぽい。
そんなことを思いながら、美味しい食事は絵麻の心を暖かくした。
支払いはナビルが譲らず、結局奢られることになってしまった。次お店で会う時に気まずいなぁと思ったが、あまりに引かないのもよくないかもしれないと思い絵麻は折れた。あまりにナビルが嬉しそうに笑うのが申し訳なくなる。
でも、ここで生きていくって決めたから、そういうことも考えなきゃなのかな。
この国の結婚観などがわからないが、ずっとここに住むのであればそういうこともあるかもしれない。今はどちらかというと生きていくための術をようやく見つけたかどうかぐらいの段階で、全然そんなことは考えられないのだが。
ナビルのようなこの国の人と結婚をすることもここで生きていればあるのかもしれない。
ふとヴィザールの顔が浮かんだが、いやいやと首を横に振る。
全然私に興味なしよね。
まぁ、私の方が年上だって知ってるし。いや、そもそも私はどう思ってるの?
自分がヴィザールのことをどう思っているかなど考えたことがなく、改めて考えてしまう。
ヴィザールって何だかんだ優しいのよね。
引き受けると決めてからのヴィザールは、なんだかんだと世話を焼いてくれた。絵麻がここで生きることを決めると、それに協力してくれた。仕事を始めたときも心配そうについて来てくれたり。思い出すと自分の方が子供のようで笑えて来る。
あと、たまに笑う笑顔が……。
そこまで考えたところで、ナビルの声にハッとする。
「このお店、いろんなアクセサリーが売ってるんだ」
自分の考えに戸惑いつつ、笑顔を向けてくるナビルに耐えられなくなり、絵麻は立ち止まった。
「ナビルさん、私やっぱり」
そう言うとナビルが困ったように微笑んだ。
「やっぱり、迷惑だった?」
「……、ごめんなさい」
絵麻は頭を下げて謝った。他にできることがない。笑顔を向けてくれるのに、心を向けてくれるのに、それに全く応えられそうになかった。頭の中では他の事ばかり考えている。
「じゃあ、最後にこの店だけ行かせて。きっと気に入るものがあると思うんだ」
そう言われて、絵麻は迷った挙句頷いた。
「ありがとう」
ナビルの笑顔に申し訳なく思いながら、そのお店に足を踏み入れた。
彼の言う通り、そこはおしゃれなアクセサリーがたくさん並んでいた。銀や金の細工に、色ガラスが嵌め込まれたものだった。思わず絵麻も引き込まれて、並べられたアクセサリーを見る。
「今付けてる髪飾りも似合ってるけど、こっちのとかも似合うんじゃないかな?」
「え?」
ナビルの言葉に絵麻は目を瞬かせる。
「その青い石の髪飾り」
そう言ったナビルが絵麻の髪を指差した。自分ではつけた覚えがないため、首を傾げたがハッとする。店の中はアクセサリーの店なだけあって、鏡が置かれており、絵麻は鏡を覗き込んだ。
そこには、控えめな銀細工の髪飾りが挿さっていた。青い雫型の石がいくつも嵌め込まれたそれは、控え目でとても上品な綺麗な細工だった。
いく前にヴィザールが挿したものはこれだったのかと思い至る。絵麻は居ても立っても居られなくなり、ナビルを見た。
「ごめんなさい!私、全然分かってなかったみたいです!」
絵麻の必死の顔にナビルは、少しため息をついてから笑顔を見せる。
「いや、ここまで付き合ってくれてありがとう」
「本当にごめんなさい!!」
絵麻は深く頭を下げて踵を返した。
「あーあ、やっぱりダメだったか」
ナビルの悲しげな声が店に静かに残った。




