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「その…兄上はどうしてる?」
「魔法拘束具を使用し、奥牢にて監禁していますが。貴方もご存知でしょう」
「そ、そういう意味では無くて…」
兵士は余りにも場違いなその言葉に、護衛の為、向けていた視線を思わずとその対象者に移してしまう。何も、その言葉をかけるにしても、その男にかける事もないだろうに。その純真さが平和をもたらした事は判ってはいるのだが。兵士は1つ溜め息を漏らした。
「この方の話し相手は貴方の役目でしょう。私は失礼します」
「あっ、ちょっと!まさかこのまま行く気じゃっ」
「無駄ですよ。あの方は、ああいう方ですから」
ドアの閉まる音が鳴る。恐らく二度と会わないであろう男。別れの言葉など、言う種類の人間ではない事など、判りきっている。淡々と仕事を遂行し、必要の無い言葉は口にしない。国に尽力していた故に放置されていたその有能さが、国から放たれればどうなるのか。だが、止められる者も、また居ない。兵士はもう1つ溜め息を着いた。
「…この国を導いたのは、彼なのに。私は彼の策でここまで来ただけに過ぎないのに…汚い仕事を彼が全て一人で行っていたのは…最後に去るつもりで、遺恨を残さない為だったのだろう?…私は、そんな事実にも気付く事も出来ない無能だ」
「…貴方という人は………」
兵士は、どこまでも尽きる事の無い新たな驚きを前に心の高揚を隠し切れなかった。
リフェリア=バリスフェナス。
目の前に居る、その人間はどこまでも優しく、そして、強い人間だ。
2年前のその日に誓った思いが兵士の心を刺激する。目の前で愛する父を愛する兄が殺したその日。血飛沫に顔を染めリフェリアは確かに言った。『何故』と。王位継承権に揺れる城内の声をものともせずに、リフェリアは心の底から、兄が父を殺した事実に驚き、そして嘆いたのだ。それはこの世界に置いて、人が捨てやすいモノ。リフェリアは「信じる事」が出来る人間なのだ。
兵士はその姿を前に溢れる、護りたいという思いを抑えきる事が出来なかった。兵士が兵士となり、近衛隊長まで登りつめた原動力はそこにあった。
「…貴方は、自分の能力が判っていない。そして、それがどういう物なのか…その強さを、貴方は一生理解しないんだろうな」
「………シュレバスには、判るのか。それが」
「判っているから、貴方に着いてきました。沢山の者が、貴方に。そして、貴方は王になる。貴方は…この国の王の歴史になる。貴方にはその力がある」
「…シュレバスが言うのであれば、そうなんだろうな。信じるお前が言うのであれば、私も信じれるというものだ」
無邪気に笑うその顔が、気軽に発せられたその言葉が、人を動かす事をリフェリアは知らない。兵士は未来を想像し、またその意思を強くする。護りたい。と。
「…そろそろ時間です。参りましょう」
「あぁ」
幸せの音が鳴る。