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「まず、始めに…兄の悪政を…皆さんの幸せを奪った事…謝罪させて下さい。申し訳…在りませんでした」
深々と頭を下げる姿に、少女は驚きを隠せなかった。謝罪とは非を認める行為。大貴族として生まれ貴族の父、そして勿論と言っていいだろう貴族の母を持った少女にとって、頭を下げるという行為を、王族という位にある人間がする事に、畏怖さえ感じてしまう。
だが、少女はその考えを思い直す。全く嘘偽りを感じないその、言葉達に。心からの言葉である事は明白であり、それ故に少女はここに赴く気になった疑問の解消を感じた。
最近閉じ籠りがちになって居た、少女の元に届いた戴冠式の知らせ。少女はその知らせの内容に疑問を感じたのだ。
民による反乱故の国家の転覆。そうだと云うのに、次に王になる者はその血筋の者だと云うのだから。王政の廃止とは成らないにせよ、尽力した民が王になるものと思っていた。もう、それに文句を云う者も居ないであろうし。
だが、リフェリアの姿を見て判った。確かに、彼は支えたくなる。王子の身で、これから王になるという、その身で貴族でもない民に心からの謝罪を送れる人間。
少女とて、心動かされる。世界は幸せへ向かっていくのだろう。と少女は久方ぶりになる笑顔をその姿に向けた。
そして、思う。第一王子バリスフェナス=ルーウェスの事を。
第一王子という位に在りながら、王位を奪われそれを憎み王をわざわざ、戴冠式という場所で殺しその地位を奪った男。
2年という時の中で彼がした悪政によって彼に着いた通り名は悪鬼、冷血殺戮者、国殺し、破滅の使者…色々と少女が知るだけでも沢山と在った。
だが、少女にとってそれはどれもしっくり来るものでは無く、だからと言って何と名付けるかと言われれば少女は悩むのだが。敢えて、ちゃんと事実に基づいてつけるのであれば、それは明快、親殺しだ。
少女はその時の、何も伺う事の出来ない痛い程の無を何よりも忘れる事が出来ないだろうと考える。目の前でつまらない命乞いをし、赤く染まった父。それを見て醜いとても貴族らしいお似合いな言い分で逃げようとし、失敗して赤く染まった母。
少女はそれをただ、眺めた。思ったのは1つ。母と父が死んだ。その事実だけだった。
足音に、近付く気配を感じる。少女はルーウェスを見た。
『お前は私が嫌いか』
『嫌いです』
それが自分の口から出た言葉であると気が付いた瞬間、死を覚悟した。何故そんな言葉が口から出たのか。今は判る。貴族らしく醜い両親と同じ様に媚びへつらう事が、死よりも、その時の自分にとって、無意識下に置いてすらなお嫌悪したのだろうと。自分は両親を心底嫌っていたらしいという事を。
結論として、ルーウェスは少女の前から、何も言わずに消えた。あの問いの答えは、ルーウェスにとって、正解だったから殺されなかったのだろう。と少女は考える。
ならば、それはと少女はその時に感じたのだ。バリスフェナス=ルーウェスという男は、この平和を誰よりも望んで居たんじゃないだろうか。そんな事を。少女は、空想する。
「皆さんに支えられこの王冠を賜った事…恩返しが出来るよう、王の名に恥じぬよう精進して参ります!」
幸せの音が鳴る。