その先には
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室内に足を踏み入れた者たちは、それぞれ反応を示していたが、一貫していることは外見とのギャップに驚いているようであったということ。
室内は外装とは異なり、いや、ある意味同様だったのだ。
入って直ぐの玄関ホール、その天井は高く、まるで伸びているかのような錯覚を起こす。
その天井に澄んだ空が描かれ、その絵の中にいるラッパを手に持った天使たちと目線が合うと、お帰りと言われているような感覚に陥る。
所々に鮮やかで生き生きとした花が生けられ、壁にはいくつもの空の掛かれた絵画が飾られていた。
ここまではどこかの貴族の御屋敷に合っても不思議ではないだろう…だが、ホールの中心には、通常であるならば、二階へ続く階段があるだろうという位置に、一本の立派なリンゴの木が植わっていた。
青々と茂る葉をつけた枝に美味しそうな赤い果実がなっている。
大きく横へと広げた枝には、ちょろちょろとリスが忙しく行き来して遊んでいた。
木の天辺付近には、二匹の可愛らしい鳥が寄り添うように身を休ませている。
それを見て、入り口付近には似つかわしくないのに、無造作に置かれたバードバスがそこにある理由について、合点が付いた。
樹の下には簡易なベンチが置かれており、その足元は芝生である。
部屋の中なのに、綺麗に整えられた芝生が茂っていた。
その芝を美味しそうに、ヤギの親子がむしゃむしゃ食べている。
少し離れた位置に賢そうな犬がお行儀よくお客人を見つめている。
奥に二階に続く階段が見えている。
その最下段に猫が丸まって寝ていた。
「こ、これはいったい!?」
「動物がいるぞ?」
「部屋の中に?」
「あ、ここ!ホワイトの庭に似ていないか!?」
各々が感想を述べている。
「驚くわよね、私も初めて見た時は不思議でならなかったわ。寝屋の中に木があるし、動物が居るのだから。どうやら、ウェレ様は寂しがり屋であったようなの。仲良しの友人達を家の中へ呼び込むために、こうして部屋の中に木を植え、あのベンチに座り、一日を過ごしていたそうなの。」
友人達とは動物の事らしい、リナが皆の声に答える様にそう話す。
「お母様はここを訪れたことがあるのですか?」
オリヴィアが聞くと、
「ええ、能力が発現した後に練習場としてこの地へ来たことがあるわ。思いっきり力が試せる場所だからって。」
と、リナは答えた。
そうしているうちに、女王が先へ進むよう促す。
皆が驚きで玄関ホールに意識を奪われていたため、手を大きく叩き声を出して、誘導していた。
二階の階段へは向かわず、建物左側へと伸びている廊下へと向かう。
廊下は、左手には明るい光の差す窓、右手には絵画が飾られている。
絵画の横には決まって大きな扉があった。
絵を見ると、自分達の住む大陸の風景では見たことのないものも多かった。
想像で描かれたものなのだろうか?と疑問に思いながら歩みを進めていると、部屋の扉が少しだけ空いている。
扉の横に掛けられた絵を見ると、海と砂浜の美しい景色が描かれていた。
扉の隙間から、漏れ出ている音。
それは、波の音であった。
興味を惹かれて立ち止まり、ドアの隙間から、目を細めてじっと見つめてみる。
少しだけ見える風景は、キラキラ光る海と白く押し寄せる小さな波であった。
(絵と同じだ…もしかしたら、絵に描かれたような風に揺れるココヤシに白い砂浜も、この扉の中にはあるのかもしれない)
雪山の絵が飾られている扉の前を通った際、急に肌寒さを感じた。
二の腕を無意識に摩る。
大陸でいうと、ギ国が消えた後に誕生した美食の国と言われる国チャイ人民共和国の新しい様式の建物のようだ。
そのような絵が描かれた扉の横を通り過ぎる際は、美味しそうな食べ物の匂いが漂い、鼻先と胃袋を刺激してくる。
「あの、お祖母様!!もしかしてなのですが、扉横に掛けられている絵に描かれた景色の場所に、扉を開けば行くことができるのでしょうか?」
もう限界だと、気になって気になって仕方がないオリヴィアが、興奮しながら、ケイト女王へと質問を投げかける。
質問相手が、今は女王として扱う事態であるので言葉使いをきちんとしなければならないのだが、皆の前であったのにも関わらず一切気にしていないというか、答えが気になってしまい、普段と同じく女王の字などすっぽり抜け落ち、祖母として話し掛けてしまっている。
「ええそうよ。絵と扉の中は同じなの。いつでもどこへでも遊びに行けるわ。そう言えば、あなたはここへは連れてきたことがまだなかったわね。」
女王も分かっていて、いつものようにフフフっと笑って、優しく答えた。
「子供時代に来てみたかったわ。」
オリヴィアが残念がる。
「しかし、こんな部屋ばかりでは、この家では落ち着かないだろう。」
ヘンリーが真っ当な意見を述べる。
「問題ないわ。二階、三階にはきちんと穏やかに過ごせる部屋がいくつもあるから。金糸の刺繍がされているレースカーテンがそよそよと揺れ、白の大きなソファが置かれている部屋や暖色で統一された寝具の置かれた温かさを感じる寝室、大陸中のみならずこの世界には存在しないようなものが掲載されている本も置かれた書斎兼図書室に、ウェレの愛用品であるピアノや様々な楽器の置かれた部屋、清潔感の漂う食堂、ありとあらゆる貴重で兎に角珍しく手に入らないようなものがびっしりと集められているコレクションルームなどが存在するわ。」
女王が目を輝かせてそう話すと、
「それって、何となくホワイトキャッスルのようではないですか?」
ジョージ殿下が尋ねる。
「ええ、ホワイトキャッスルは、ここを参考に作られているから。あそこは、ある人に住んで貰うために建てたお城だったのよ。でも、住むことはなかったけれど。所詮、似たようなモノを作っても、限界があるから。あそこはやはり、別物になのよ。」
そう語る人物への想い、あの人とは女王のよく知る人物なのだろう。
思い出して、困った人なのだというこそばゆい表情を浮かべて話している。
「その人は誰なのですか?」
マーガレットが期待をするような声で聞く。
「もちろん、ウェレの伴侶であり、皆が知る女神、ルトゥのことよ。」
と、女王が答えると、マーガレットが嬉しそうに微笑む。
だが、何かを思い出し、冷静な顔つきに変わり、再び質問を投げつける。
「ですが、ホワイトキャッスルが建設された時は、ウェレだけではなく、女神ルトゥもお亡くなりになっていたはずです。建設は、亡くなられてから数十年も後ですよね?」
どこか残念そうだが何かを期待するように、マーガレットが再度質問をする。
「生きていたのよ。」
平然と女王が述べる。
「い、生きておられたのですか???」
驚きの声が大きな扉の前にある小さな空間へと木霊した。
廊下を歩き続けて、突き当たった位置に空間があり、その目の前に大きな扉がある。
「ここは、礼拝堂よ。」
そう言って扉へ手を伸ばし、開いた。
椅子が並べられた先の壇上にはパイプオルガン、その頭上には鮮やかな色彩を放つガラスと木で作られた模様がマッチし、ガラスの上からさらに感性を高めている見事な円形のステンドグラスが目に入る。
それを無視して、女王は歩き、礼拝堂の壇上左奥にある壁へと手をついた。
目を瞑り、言葉を発する。
「シャッツ」
次の瞬間、壁であった場所の板が、ストンと下へと落ちて、入り口が現れる。
「中に入って。」
女王が誘導する。
「先程の言葉の意味は何ですか?」
オリヴィアが横に居るハロルドへ聞くと、
「シャッツは、古代語で宝物や大切な人、愛する人を示します。」
と、ハロルドよりも先に、マーガレットが後ろから説明をしてくれた。
中へ入る。
全員が入ったその薄暗い空間には、この異空間へ来る前に見た、ストーンサークルと同じような物が存在した。
やはり、サークルが薄っすらと光っている。
ただ、室内なので、囲むような石の柱はなく、石もごつごつでいびつではなく、きちんと整えられた白い綺麗な石が並んでいる。
よく見ると、石に宝石も散りばめられている。
「これは、もしや、ここへ来るときのあれと同じものですか?」
陛下が女王へ尋ねる。
「ええ、そうです。転移の陣です。」
「ここから、どこかへ移動するのですか?次は何処へ?何処へつながっているというのですか?」
陛下が少し疲れたのか、疲労の色を浮かべながら女王へ聞く。
「陛下、我々はここからこの陣はつ使いません。ですが、この陣の行き先をお教えしましょう。この陣の行きつく先は、ルトアール自治区にあるルタール城内、開かずの間です。」
そう女王が言い終えると、皆が息を飲んだ。
ルタール城の開かずの間、それは、ルトゥが生前使っていたという部屋である。
彼女が亡くなってから部屋は閉ざされ、鍵が掛かっている訳でもないというのに誰も開けられなくなってしまったという部屋なのだ。
そんな貴重な部屋へ、この陣の上に乗れば行けるなんてとマーガレットは唾を飲み込む。
「古代史とは、現在に生きる者が、見つかった物から状況と想像を交えて作り出した産物にすぎないのです。これから、あなた方に、本当の歴史をお教えしましょう。」
女王は後ろを振り返り、1人1人の顔を確認し、不敵な笑みを浮かべ、そう、発した。
あと、すこーし…