ウェレの遺跡
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翌朝。
早い時間にも関わらず、オリヴィアがボート乗り場の周辺に到着した際には、すでに多くの人が到着していた。
誰が乗ってきたのか湖畔の木に馬が括り付けられ、水を飲んでおり、他の場所でも下僕が主人の馬の手綱を持ち、馬を撫で待機している。
湖畔の馬車道には、様々な馬車が路肩にズラリと並ぶ様子が見られた。
既に集まった者達は、時間を持て余している様子だ。
湖畔を散策したり、木陰に腰かけくつろいだり、到着する者の様子を伺いながら周辺を警戒したりなど、それぞれが思うままに行動している。
そして、最後にホワイトキャッスルの方から、ひと際大きく煌びやかな馬車がやってきて速度を落とし停車した。
その中からハートフィル前侯爵夫妻と、ウェルト国王が堂々と降りてくる。
これで全員が揃ったようだ。
オリヴィアのすぐ近くにいる友人のマーガレットから唾を飲み込む音がした。
いつも冷静沈着の案内役のマーガレットが、表情をこわばらせている。
この面子を前に酷く緊張しているようだ。
ここに集まった者達は、創生神ルトゥと強い縁のある関係の者たちだ。
まずは、女神ルトゥの子孫とそのツインレイ。
ハートフィル前侯爵夫妻、ハートフィル侯爵令嬢リコ、フォード公爵夫妻、オリヴィアにハロルドである。
それから、女王の力ほどでは無いが、ドルーの力を見破れるくらいの力を持っているラックランド伯爵夫人ニコルが呼ばれており、その付き添いで夫の侯爵が無理やりついてきている。
現女王の母親の夫、彼はツインレイではないのだが、エーベルト男爵も参加している。
さらには、ルトゥの伴侶ウェレの子孫であるウェルト国王、ウェルト王子二人も強い参加を申し出てここにいる。
その他には、案内役として学者助手のマーガレット、その護衛のクロスター公爵子息ウィリアムに、お目付け役のアドラシオン王太子ヘンリー。
そして、彼らの付き添い人や護衛に侍女、侍従も幾人か連れてきている者もいる。
国王が一歩前に出て話し始める。
「やあ諸君、おはよう!晴れ晴れとした素晴らしい朝だね。絶好の探索日和だ。さっそくだが、本日の視察地を案内してくれる者を紹介しよう。古代史学者バクレー博士の助手をしているラックランド嬢だ。さあ、皆に挨拶を。」
「皆さん、おはようございます。バグレー博士の元で、助手をしております、マーガレット・ラックランドと申します。あいにく、先生は都合がつかず、未熟でありますが助手の私が本日の案内人を務めさせていただくことになりました。ですが心配にはおよびません。私は誰よりも先生の近くで学び、知識を豊富に備えておりますので。何か気になることがありましたら、遠慮なくお聞きください。本日はよろしくお願いします。」
マーガレットが緊張に打ち勝ち挨拶を終えると、では出発しますと、先陣を切って動き出した。
皆がその後について行く。
今日はマーガレットにより、御婦人方もズボンを着用するよう指示が出ており、皆が動きやすい服装となっているので、問題なく追い掛ける。
ボート乗り場から湖畔に沿って暫く歩いて行くと、大きく立派な松の木が湖に向かって枝を伸ばし、一本だけ生えている。
周囲に生えている白樺の木とは異なる形状により目を引く。
そこまで来ると、マーガレットが松へと近付き、松の周辺を探るような動きをした。
何かを見つけ、こう言った。
「ここから先は一列でお進みください。」
オリヴィアがマーガレットの横へと移動し、松の裏を確認する。
松の裏手には背の高い草が生えていたが、それをマーガレットがかき分けている。
そこにと現れたのは、砂利が丁寧に敷き詰められた細い小道であった。
「こんな所に道??」
疑問が声に出ていたようだ。
「ええ、私も驚いたわ。この木が目印となっていて、ここを通る人の為に、きちんと道が整えられているの。この湖畔で犬を放し飼いにしていたとある貴族がいつまで経っても帰ってこない愛犬を探しに来て、この松の裏から鳴き声が聞こえると行ってみると、草に絡まった愛犬をみつけたそうで。草を犬から引き離した際に、この砂利の道を見つけ、面白そうだと進んでいくと、アレが見付かったの。」
前を歩くマーガレットが饒舌に説明をしてくれる。
この会話で、少しばかりマーガレットの緊張が解けたようだ。
チラホラと、遺跡周辺についての知識を披露し始める。
そしている間に、アレに辿り着いた。
そこには、大きな古い井戸があった。
「何でこんな所に?」
オリヴィアがまたもや疑問を口にすると、
「そう、まさしく、最初に発見した貴族も同じ気持ちになったのよ。相当好奇心の強い貴族だったのね、思わず古井戸の蓋を開けて、中を覗き込んだの。ウィル、蓋開けて頂戴。」
マーガレットが頼むと、任せて!と嬉しそうにウィリアムが意気揚々と蓋を持ち上げる。
口を開いた井戸の周りに皆が続々と到着し、マーガレットが説明する。
「この井戸、実は張りぼてなのです。覗き込んだら分かるのですが、私の背丈ほどの深さしかありません。では、中がどのようになっているのかを説明しますね。井戸の壁には、人工的な凹みがあり、それを使ってここを上り下りしていたようです。ですが、今日は、安全性を考慮して、こちらで用意した縄梯子を使い、下へ降りてください。下に下りましたら、膝より少し高いほどのトンネルの入り口を見つけてください。そこが横道となっておりますので、天井が低いですが腰を屈めて、そこへお進みください。まあ、進むというよりも、アーチを潜ると言った感じです。すぐに立てるような空間に出ますので、安心してください。それからは道沿いに進んでいきます。それでは、皆さま、また一列で私の後ろをついてきてください。」
説明が終わるとマーガレットを先頭に井戸の底へと降りていく。
オリヴィアもハロルドの手を借りて、底に下りて、前を歩くマーガレットの後ろから見える壁に目を凝らすと、膝より少し高いくらいのトンネルの様な入り口を見つけた。
言われた通りにそこを潜ると、確かに立てるくらいの天井の高さのある通路へと出たのだ。
感心しながら、マーガレットの後を追う。
途中、二股に分かれる道があったが、右側は酷く狭い道であり、マーガレットは左側の道へと迷いなく進んでいく。
その後をひたすら追った。
暫くすると、広い空間へと出る。
辺りを見回すと、祠のような場所で、広々としており、目を凝らして見て見ると、奥の地面が薄っすらと光っている。
その地の中央に古びた大きな石板がポツンと立っているのが見えた。
マーガレットがその石板へと駆け寄る。
「ヒカリゴケです。まるで暗闇に浮かび上がるようで、幻想的なのです。なんとこの石板に掛かれている古代文字。これを解析したところ、この地にルトゥの最愛の伴侶ウェレが眠ると書かれていることが分かりました。」
ここがウェレの墓??
それにしては少しさっ風景ではなかろうかと、オリヴィアは感じてしまう。
皆もそうであったようだ。
世紀の大発見として銘打った遺跡という話であったので、かなり残念な空気が漂ってしまっている。
だが、近づきよく見てみると、石板を囲むように置かれた小さな石の彫刻は、巧妙な造りをしている。
その後ろの壁には何かの絵のようなものが前面に描かれていた。
まだ修復がほとんど進んでいない為、野原のようなもの、遠くに湖、白い神殿のようなものが部分的に薄っすら描かれているのはが判別できる程度、はっきりとどんな絵であるのかは確認することが出来ない状態である。
本来ならば。色鮮やかで美しいのかもしれない。
だが、長年の放置により、塵や泥、苔にまみれ、少し崩れた箇所もあり、どのような壁画かは、よく分からない。
期待外れとなってしまった。
皆の空気が何とも言えないものとなっていた時、ケイト女王がマーガレットの方へスッと移動し歩み寄ってきた。
マーガレットの後ろの壁を見つめた後、石板へと近づく。
皆がその様子をスローモーションのように覚え、凝視していた。
女王が石板に手を触れてから、何かを感じたのか、陛下の方へ顔を向けると、彼を呼んだ。
「陛下、ここへ。この石板に御手を触れてみてください。」
そう言った。
言われた通りに、陛下は石板に近づき、石板に手を置く。
「そうじゃなくて、石板を上から下になぞる様に掌で触れてください。」
じれったく感じ、女王は方法を述べて陛下を急かす。
「ああ、分かった。」
陛下はちょっぴり怖い女王の声に応じて、石板に手を置き、上から下へとなぞる。
すると、ゴゴゴゴゴゴゴと地響きが鳴り出した。
皆が驚き、身を縮こまらせる。
カップルは抱きあい、男は女を庇い、身を挺する。
音が鳴り病み、オリヴィアが目を開けると、ハロルドの腕の中に居ることが分かった。
ハロルドの服が目の前に見えたからだ。
だが、そんなことより、眩しさに気を取られる。
なんだろうと、目を向け、服の隙間から見えた光景に目を見張った。
そこには、壁画に描かれているであろう風景が広がっていたのだ。
今回は前日まで作業する時間が無かったので、間に合わないかと思いました。よかった。