来客3
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
書いては投稿のギリギリ作業、今日は間に合った。
「どなた?」
「ア、アドラシオン王国、王太子殿下でございます…」
扉の前の騎士も緊張しているらしく、声が少しばかり震えている。
オリヴィアの婚約破棄の情報をこの騎士は知らされているのかもしれない。
「今は忙しいと…」
「入ってもらって。」
止めようとするフォード公爵をすかさず制止して、リナが入室の許可を出す。
気持ちは十分に解るが、今は自分達が囮であることを思い出せと、妻は小声で夫を注意する。
室内に入ってきたのは、外見は紛れもなく、ヘンリー殿下であった。
ハロルドがすかさずオリヴィアの隣をキープし、オリヴィアの斜め前にフォード公爵が立つ。
二人に挟まれたオリヴィアは戸惑っている。
その様子を目にしたヘンリーは苦笑を浮かべた。
だが、すぐさま、表情を整え、挨拶をフォード公爵へ述べた。
「フォード公爵、ご無沙汰しております。皆さま、またお会いできましたね。お元気そうで何よりです。この度のことは、多大にご迷惑をお掛けし、我の能力不足により、御子女をお守りできなかったこと、大変申し訳ございませんでした。こうして詫びにまいりました。」
深々と、頭を下げた。
「殿下、こんな所に来ていてよいのですか?自国で反乱が起きたばかりだというのに…」
リナが心配そうに声を掛ける。
リナは彼がドルトムントに操られていた事や、ツインレイが現れ、オリヴィアの心がハロルドへと奪われたことに、彼が長年、オリヴィアを大事にしていてくれたことを知っている身からして、かなり同情的ではあったからだ。
だが、それと同時に、ドルトムントなのではという疑いもあり、奥では鋭く目を光らせて観察する。
「はい…我が国で反乱が起きたのは事実です。ですが…王に言われてしまいました。お前が居ても邪魔にしかならないと、そう言われてしまいましてね、ハハハッ。東大陸同盟国間条約の16条その一、同盟国が危機に陥っている場合、無条件で援助を行う。コレをしてこいと王から命じられました。我は先に進まなければならない、その為にもこの場が必要だからと。現実を受け止める為にも、行動を共にさせて欲しい。」
力強く答えた。
「ですが殿下、見たところおひとりですよね?腕っぷしの強く頭脳明晰の家臣や全世界に名を轟かす近衛騎士団を引き連れてきている訳でもないようですし…そのぉ、精神的な安定のためにも殿下は同行しない方がよろしいのではと思うのですが…」
ヘンリーの気迫に押されタジタジになりながら、フォード公爵が返答をした。
ラブラブで所かまわずイチャつく娘夫婦を、破局した元婚約者には見せたくないと言うのが、本音であるとは、新婚夫婦は思っても居ないだろう。
「大丈夫です。心配はありません。実は、ラックランド伯爵令嬢とクロスター公爵子息と共にアドラシオンからは参りました。彼女たちは王城へ向かい、私は別れた足で、こちらへと向かったのです。ラックランド嬢は今頃、王城でルタールの例の秘話を聞いて、それからこちらへと向かうこととなっています。今夜遅くにこちらへ到着するでしょう。彼女の役目は遺跡の案内人。ダルシエ博士が請け負う予定でしたが持病の腰痛が再発しまして動けないようで、その弟子のバクレー博士は…王族の集まるような得体のしれない場所には参加したくないと、その助手のマーガレットに役割を押し付け…高位貴族のお相手に慣れているラックランド嬢にお任せしたとのことでした。ですので、彼らを見守る役も担い、国を代表し、私がお供させていただきます。」
そうではない、君に、この夫婦のイチャつく様を直接見せたくないのだと、周りの者達は考えている。
「いいでしょう!!」
リナが返事をする。
「ちょっ、いいのですか??ジョージの二の舞になりますよ!大変なんですよ。」
カイルがリナの服の裾を引っ張り、小声で質問する。
「でも、こやつが大鼠である可能性もあるからな。連れて行かないわけにいかないのよ。」
コソコソと話す距離の近い2人を、フォード公爵が割って入り離す。
「リナが連れて行くって言うんだから、連れて行くよ!」
フォード公爵がカイルに向かってキッパリと言った。
「ありがとう。」
喜びの声を上げて、ヘンリーは部屋を後にした。
「どう思う?」
同じ質問を繰り返す。
「非常に怪しいです!!!」
ハロルドが力を込めて言う。
「でも、彼は責任感がとても強い御方よ。あれは本人の様な気がするわ。」
オリヴィアがそう言うので、2人の間に少しだけ変な空気が抜ける。
「まあ、今のところ誰がドルトムントなのか、分からないわね。誘導しなければならないから、行きたいって言う奴を連れて行かないと…もっと、情報があれば、見破ることができるのだけれど、はあ~。」
リナが大きく溜息をつく。
「私も今の段階では分かりません。ぶっちゃけ、この部屋にいる私のツインレイのハロルド以外は本人であるのか見分けがつきませんもの。」
オリヴィアがそう言うと。
「え?リヴィも私が本物だって分かるの?私もリヴィが本人で近くに居るって分かるよ。相思相愛だね。」
嬉しそうにハロルドが発言する。
「つまりは、ツインレイ同士は確認出来るのか…ではこの部屋では俺とエマさんしか疑われないのか。」
カイルが言う。
「エマは本人よ。ドルトムントは女性には返信できないから。変身しているならば、男性のはず。この場で怪しいのはカイルだけ。カイル!私の背中の黒子の数はいくつ?」
「左わき腹付近に3つ!!」
「正解!カイルは本物だわ。」
リナとカイルの会話に複雑そうな表情を浮かべるフォード公爵であった。
***
その夜、確かに遅くにラックランド伯爵令嬢は宿を訪れた。
オリヴィアとあの話で興奮気味に話していたのだが、リナにスパッと止められたので、大人しくなる。
その傍らには当然といった様子で、クロスター公爵子息のウィリアムが背筋をピーンと伸ばして立っていた。
距離が近く、ずっとマーガレットを眺めているので、通常運転だから彼は本人だなとオリヴィアは心から思った。
その様子を見て、バカップルが増えたと、カイルは内心舌打ちした。
そして部屋に居た者達へ、翌日、ホワイトキャッスルの近くのボート乗り場で落ち合う事を約束し、彼女達は別の宿へと帰っていったのである。
いったい誰がドルトムントなのでしょうか??