来客2
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入室許可が出され、扉から顔を出したのは、初老の男性グリフ男爵であった。
グリフ男爵は前フォールズ辺境伯の次男、オリヴィアの母方の曾祖父にあたる人物である。
そう母親のリナが部屋にいる者に紹介する。
「どうも、こんにちは。エーベルト・グリフです。医者をしております。アドラシオンでは功績を称えられ、男爵位もいただきました。」
そう、物腰柔らかに挨拶をした。
どう見たって、曾祖父というよりは祖父くらいの年齢に見える外見である。
リナがエーベルトに嬉しそうに声を掛ける。
「エーベルト、会いに来てくれたのですね!」
「ええ、あなたが無事に戻ったと聞いて、急いで駆け付けたのです。本当に良かった。」
瞳を潤ませながらそうエーベルトが発する。
そんな風に急激に感情的になるところは高齢であるのだなと思わせる部分だ。
「ええ、無事に娘と共に帰ってこられました…」
リナも彼の表情にグッときている。
「あのぉ、オリヴィアの曾祖父さま、私はハロルド・アーハイムと申します。この度、オリヴィアの婚姻し、彼女の夫となりました…」
ハロルドが挨拶をするが、あまりにも見た目が若いので聞いてよいかと次の言葉に詰まる。
外見をジロジロと見られていることにエーベルトは気が付き、優しくハロルドに微笑み、こう返す。
「そうかい、君がオリヴィアと結婚したツインレイ…いやあ、おめでとう。相手が見付かっただなんて、めでたいね。フフッ、そんな言葉よりも君は私の外見が気になるようだね?」
そうハロルドは見ていた事がバレていたのだと分かり、少し頬を赤くして答える。
「ええ、曾祖父というわりには、随分と外見がお若いので…不思議でした。すみません、不躾な態度でした。」
「いいよ、よく言われるから。この場ならば、建前でない説明が出来るしね。それはね、マリー様のお力のお陰なのですよ。」
そう言い、エーベルトは自身の外見について語った。
エーベルトはオリヴィアの曽祖父、つまりは曾祖母の旦那さんである。
今の外見は本来ならば、よぼよぼのお爺さんのはずなのだ。
だが、そうでないのは、マリー様が関係しているのだと言う。
曾祖母はマリー様、自治国ルトアールから逃げてきた王女の娘で、アドラシオンで生まれ、女王の血を引いていたのだが、曾祖父は彼女のツインレイではなかったのだ。
フォールズ辺境伯家でお世話になっていた曾祖母に曽祖父は恋心を抱き、結婚したのである。
その為、曾祖母は能力の覚醒をしていない。
ツインレイにも生涯会うことがなかったそうだ。
結婚する際に、女王の血を引く曾祖母を心配し、マリー様が結婚相手であるエーベルトに力を使った。
彼女と同じくらいに生きられるようにしてくれたのだ。
だが、その配慮も空しく、曾祖母は治療方法が確立されていない未知の病にかかり、若くして亡くなってしまった。
マリー様は、元の寿命に戻すかとエーベルトに尋ねたが、彼はそれを拒否した。
「自分の命が尽きるまで、未知の病を治す研究をし続ける。」
と、そう言い切ったそうだ。
その為にも、時間はあるだけ良いのだと。
今でもエーベルトの外見は実年齢よりも随分と若く、体も動き、脳もよく働く。
彼は曾祖母の病の治療方法を彼女が亡くなった2年後には見つけ出し、さらに治療法のない他の病の研究に多く尽力し、功績を残している。
そういった経緯から、外見が若いのだと、エーベルトは苦笑いを浮かべて、話し終えた。
「そうですか、マリー様が…あの、奥様がツインレイに出会うのではという不安は無かったのですか?実際、私も彼女に初めて会った時に、大きく感情が動かされましたから、大変気になります…」
ハロルドが不安そうに質問する。
「少し酷な質問だね。不安だらけだったよ。ああ、ツインレイは恐怖の対象でしかない…実は、妻のツインレイは存在したのさ。その相手は、あの当時のアドラシオンの王太子であった。すでに彼は妃を多く娶っており、私の兄の友でもあった人物でね。彼は、私の妻をとある舞踏会で見掛けて一瞬で強烈に魅かれたそうだが、周りの者達が必死で止めてくれたのだ。そして、その後、2人は会うことが無かった。凄いだろう…私の幸せは、皆のお陰で保たれたのさ。だから、ずっと巡り巡ってと、恩返しをしている。」
そう言い、優しく微笑む。
その笑顔の奥は、少し苦しさを感じた。
彼は、色々と乗り越え生きてきて、ようやくこの言葉をはけるのであろう。
自らに言い聞かせるように…呪縛を掛けている。
「そうですか…質問に答えていただき、ありがとうございます。」
ハロルドは何処か苦しい表情を滲ませ、しっかりとお礼を述べた。
「リナたちは、明日、例の場所へ行くのだろう?私もケイトと共に参加するからね。2人とも、くれぐれも用心するように。また明日ね。」
最後まで優しい笑顔を浮かべて、そう言い残し、エーベルトは退室していった。
「どう思う?」
カイルがリナの横に来て聞く。
「彼は本物よ。あの話は我が家の極秘事項。継承者とその伴侶しか知らないもの。おそらく、疑っていることを察知して、話したのよ。お祖父様は察する能力が非常に高く、心配りが優れた人、とても優秀な人なの。疑う余地はないわ。」
と、リナは力強く言い張った。
その時、ドアのノック音がする。
更なる来客の様だ。
次なる来訪者は、皆が驚きの表情を浮かべる人物であった。
誰が大鼠??