作戦会議
いつもお読みいただきましてありがとうございます
陛下が話し始める。
「さて、ついにドルーが動き出した。長年、我々はこの事態に備えてきた。その一つが、グランドル王の支配する西大陸に対抗できるように東大陸内で手を結び設立したアルトニア連合(AU)だ。ここにいる皆は、そのことを良く知っている事であろう。何せ設立の際の功労者たちだからな。」
軽く王の問いに皆が頷く。
アルトニア連合(AU)とは、条約に基づく、通貨同盟、外交・安全安保保障など幅広い分野での協力を進める共同体の名称である。
「あ、お互いの国が危機に陥った際に、助け合う目的で結ばれているっていう組織だったかしら。あれの事ね!近代史で習ったわ。」
オリヴィアがハロルドに聞く。
「はい、そうでう。表向きはそうなのですが、裏では組織に所属する国同士間で個々の特殊な盟約を密かに結んでいたりします。その一つに、ウェルトに滞在するルトゥの子孫が危機に直面した時の救済もあるのです。」
ハロルドが優しく教えてくれる。
「ふふ、ハロルドは物知りね、本当に素敵だわ。」
と、話がそれてふたりでいちゃつき始めると、カイルが真後ろに立ち、大きく咳ばらいをする。
“おまえら、いい加減にしろ”
と、圧を掛けられる。
「おほん、私からよろしいでしょうか。聞いてください!!AUに所属する南の島国ハヴィがやってくれました!多くの船を動かし、現在、西大陸から押し寄せている戦艦と対戦しております。そして、そいつらを翻弄しておられるのです。さすが島国、海人です。船首の舵取りや船の扱いが非常に上手く、また、寵妃による改革でハヴィ国民の肉体改造が行われたため、海兵たちは強固な肉体を持つ者が急増し、さらに体の重さが減り身軽になったことでスピード感が増し、戦力がけた違いに上がりました。いつの間にか、最強の海上部隊、ハヴィ海軍が出来上がっていたというのです。その彼らが現在、海上でグランドル海軍と対峙し、しばらく睨み合いが続いておりましたが、動き出したハヴィの最強部隊を誰も止められるものはいなく、彼らが優勢で戦闘が進み、上陸されることなく足止めに成功しているとのことです。あと数日もすれば敵側の食料が底を着くとの情報もあり、自国へ引き返すと予想されます。」
容姿から南国の血が混じっていると思われる数多いる陛下の側近の内の1人が、そう興奮気味に説明した。
「まあ、ハヴィの意識改革がこんなことに役に立ったようね!」
王妃が嬉しそうに声を上げる。
「私からもご報告が。シュタルク帝国のガイム、あ、いや、中将殿が周辺国に睨みを利かせくれていますので、北部は問題ありませんとのことです…正確には、中将の奥方殿、フランチェスカ大将殿の優れた手腕により、北の諸国のいざこざを鎮めることに成功しております。」
ガイムと騎士団時代に親しくしていらしい騎士家系の貴族が、発する。
「シバ国内の反乱分子の排除に白の女神が手を貸しているとの事です…きっと奥方様は聖女なのですよ…そうに違いありません。」
その後ろに立つ、シュタルク帝国にルーツをもつ側近が憧憬の念を抱き、ポロリと呟く。
「流石、フランチェスカね、きちんと珍獣を飼いならして手綱を握っているみたい。」
リナが感心だと声を漏らす。
彼女達に近い者たちはよく知っている。
リナがフォード公爵にプロポ―ズをされたお茶会以来、ハヴィ国へ嫁ぎ寵妃となった王女からウェルト王妃は頼られ、信頼されており、頻繁に文を交わし、陛下ではなく王妃にアドバイスをもらいに遠方からやって来る仲へと発展していることを。
それと、フランチェスカがウェルトを訪れ、夫となるガイムと出会った際に、リナと王妃と親交を深め、色々とアドバイスをもらっているということを。
例えば、数年前に、ハヴィ国の王を見た目で愛せないという増段を受けた王妃が提案した肉体改造計画も、寵妃すぐに実施している。
この肉体改革は、同席していたフランチェスカが教えてくれた兵を鍛えるための訓練に、たまたまお茶会に参加していたハートフィル侯爵夫人の元へ訪れたアルムがたまたま提案した南国の人達は音楽が好きだからと、軽快な太鼓のリズムに合わせて繰り出すリズムに訓練を掛け合わせ、作られたものらしく、ハヴィ国で大流行となったというのだ。
これにより、南国は肥満が減り、寿命が延びたと聞いた医者家系のフォールズ辺境伯家は試しにと教わってムキムキになったそうだ。
それから、フランチェスカも度々、ウェルトを訪れては夫の相談とテンペストの対決をリナと繰り広げては、機嫌よく帰っていき、その後、凄まじい活躍を夫と共に見せるのだという。
影響力が凄まじい妻たちである。
「では、私からもアドラシオン王国についての報告を。」
フォード公爵が2人の会話を横目に話し始める。
オリヴィアが城を抜け出した後のアドラシオンの様子を語った。
押し寄せていた反乱軍はあのあとあっさり国軍が捉えられたそうだ。
事前に何らかの情報を得て、不穏な空気を察知し動いていたクロスター公爵家とケント公爵家を含む四大公爵家、事情を把握していたフォールズ辺境伯家、ラックランド伯爵家は王都近辺に私兵をあらかじめ待機させていた。
それにより、城が包囲されてすぐに応援に駆けつけることが出来、形勢はすぐに逆転。
アドラシオンが大事に至る事は無かった。
王家曰く、王国の騎士だけでも奴らをコテンパンに出来たとのことであったが、増援はとても心強く、喜ばしかったと大層喜んだのだという。
意外にも、フォールズ辺境伯家の私兵たちが活躍を見せたとか、今までは医療班としてしか思われていなかった私兵団であったが、皆が日焼けし筋肉隆々、ついでになぜか武術も強くなっていたとかで、敵兵を軽々と投げ飛ばしていたらしい。
「…アドラシオン国が無事でなによりです…」
オリヴィアが小さく呟くと、ハロルドが彼女の肩に腕を回し、首を自分の肩へと傾けて、ポンポンと頭に手をやった。
いつの間にか、2人の椅子の間にあった隙間は消え、ぴったりと横づけされている。
「えー、では、私から、ペネジル国の報告を。」
二人を完全無視して、チャールズ王子が発言する。
少し前に起きたオリヴィア誘拐事件を報告する。
「誘拐されたのはリナではなく、オリヴィアだったとは!?なんて不手際だ!」
現ハートフィル侯爵が冷たい目を、ハロルドとカイル、そしてお王子達へと向ける。
あの冷酷な目は身心に強く突き刺さり、深手を負う。
(王様はこの視線をよく浴びているが、全く動じないとのこと。さすが王様)
「お兄様、まるで私は何されてもいいみたいな言い方ですね。遺憾の意ですわ。」
リナがアルムに訴えるも、鼻で笑われる。
「現在、ルタール女王がこの国の為にほとんどの力を割いているのだから、実質、お前がこの国で一番強いじゃないか。能力のない姪が攫われたのだぞ、心配して当然だろう。」
何を言うかと、鼻で笑いながら言うので、
「ハッ、私よりも膨大な力を秘め覚醒した、才能の溢れる娘ならば、そこに居るわ。訓練すれば能力持ちの中で一番になると思う。」
と、リナが凄いでしょうと自慢げな顔をして兄へ言い返す。
それを聞いた皆が、オリヴィアへと視線を向けるが、ハロルドと見つめ合いラブラブしているので、すぐに皆は視線を逸らした。
「えーと、他に報告はあるかな?」
陛下はバカップルを残念に思いながら、話を進めて行く。
「私から、ドルトムントについての情報を。」
現ルタール女王であるケイトが、口を開く。
「彼はすでに入国しているわ。」
その驚きの一言に、一同へと緊張が走る。
「えっ、今、どの辺りに?」
陛下が聞くが、その答えは望んだものではない。
「私の領域内に入った事は確認できているけれど、具体的にどの辺りに居ると言うのは分からないわ。娘たちよりも早く一瞬早く入国しているみたいだから、先回りしようとしたのでしょう。」
「でも、叶わなかった。すでに私達はここに居るもの。」
リナがケイトの話に相槌を打つ。
「ふふ、あなた達の方が上手だったって事ね。ドルーは王都内に入れば私に勘づかれるのも分かっているはず。今は時を待っているのでしょう。」
ケイトが真剣な眼差しで、そう話す。
「他に報告は?なければ、この先の役目を割り振りたい。」
陛下が深い皺を眉間に寄せ、そう発した。
***
「………君達はそれで頼む。周辺諸国の反勢力は東大陸同盟によりあちら側の勢力を抑えることに成功している。あとは大鼠だけだ。皆の者、先程の指令に直ちに取り掛かってくれ!」
陛下が臣下の貴族にそう告げると、命を受けた貴族が次々に席を立ち、動き出す。
部屋を皆が出ていったのを確認すると、残されたルタール女王の親族に、陛下が嬉しそうな顔をして話し始めた。
「さあ、ではここからが本題だね。」
そう笑いながら話す彼は、テンペストの盤上を動かしている時と同じ表情であり、この状況を心から楽しんでいるように見えた。
投稿できるストックがなくなりました。
次の投稿は出来ないかもしれません。
頑張ります…