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神聖国家ハルク2

いつもお読みいただき有難うございます

 

 馬車の扉が開くと、大聖堂の入り口には、多くの祭服ローブを着た者達が整列しているのが目に入る。

 彼らは馬車から降りてくる者達を、目を輝かせ、見つめていた。


「手でも振った方がいいかしら??」

 リナがオリヴィアへと耳打ちする。


“あなたちょっとやってみなさいよ”と小声で言われ、おそるおそるオリヴィアが手を小さく顔の横まで上げて揺らしてみると、わっと歓声が沸く。

 それに対し、ビクッと驚き体が反応し、オリヴィアはすぐさま手を下げた。

 背後で、エマがフッと息を吐き、肩を揺らして笑う気配があった。


 グレゴに案内されて、一行は大聖堂内へと入っていく。

 高い天井の色彩の鮮やかな回廊を進んでいくのだが、装飾が兎に角美しく、立ち尽くして呆けて見たい衝動に駆られる。

 名高い芸術家が彫ったとされる様々な彫刻が壁のあちこちに組み込まれており、天窓から入り光に照らされ、躍動感が伝わってくる。

 外観で判断してはならなかった。

 内観は芸術の宝箱のようで、信者である建築家や芸術家が腕を存分に振るって造り上げたようである。


 最奥には巨大な祭壇がそびえ立つ。

 鍍金の使用された像や装飾品が玉座の周りを取り囲んでいる。


 その頭上には、遠くからも見えていたドーム屋根の部分、大天蓋が存在し、そこにも名だたる芸術家の絵が煌びやかに描かれていた。


「圧巻ね…」

 リナが思わず口に出すほどであった。

 一行の後ろを、祭服を着た者達がぞろぞろと続く。


 巨大な祭壇の椅子に座るカズラを着た男が、オリヴィアが来たことに気が付き、席からゆっくりと立ち上がり、迎えた。

 待ち構えていたのが聖座、教皇である。


「え?お母様、あの者…」

 オリヴィアが小声でリナへと耳打ちする。


「気が付いたのね。あれは神が降りる器よ。あの人、輝いて見えるのでしょう?」

 リナが答える。

「はい、体が光って見えます。」


「神が憑依すると面白いわよ。あ、噂をすれば。」

 そうリナが言った時に、教皇の眼の色が変わった。

 胸に両手をクロスし、眠るように目を瞑る教皇の魂がプクーっと紐がついた風船のように頭上へと浮き上がる。


「よくきたな、娘たちよ。我は神殿で待っている。」

 そう短く言葉にすると、教皇は膝から崩れ落ちる。

 いつものことなのか、両隣にいた大司教と枢機卿が抜群のタイミングで体を支える。


 それに司教たちが手を貸して教皇を椅子へと運んだ。


「只今、お告げがありました。皆さまは神殿へお急ぎください。」

 大司教がそう言った。


 もうすでに教皇の魂は体へと戻り、意識を取り戻している。


 大変だな~とオリヴィアはその様子を眺めながら思っていた。


 聖堂裏手の綺麗に整えられた細い石の道に案内され、それに沿って進んでいく。

 道の両脇には綺麗に整えられた低木に花壇が楽しめ、心が湧きたつ。

 季節によってさまざまな花が咲くのだと説明を受けながら進み続けると、真っ白な二段階の階段が現れた。


 見上げる先には真っ白い神殿が天に向かって伸びているかのように建っている。

 一段階階段を上がったスペースは少し空間があり、階段横に小道が伸びている。

 その先に小屋が建っていた。


「あれは?」

 カイルが案内をしてくれているグレゴに尋ねる。


 神殿は神聖な場所の為に、人が滅多に入る事は許されていないのだと言う。

 信徒が見回りや警備を行っていて、その者達が休憩や寝泊まりで使う小屋なのだと教えてくれた。


 階段の二段階目を上り終えると、巨大な神殿の一望が露わになった。


 神殿入り口の両脇にキャソックを着た者が真面目な顔をして突っ立っている。

 こちらに気が付いたようで、笑顔で駆け寄ってきた。


「司教様、どうかなさいましたか?」

「あ!?もしや、おやつの時間ですか?今日は何かな?」

「あれ?でも、いつもよりも早いですね?あ、こちらの方々は?」

「ハッ、け、見学者ですか?それでしたら、この先の案内は私達が。」

 そう軽い口調でグレゴへと話し掛けてきたのだ。


 グレゴは激怒した。

「ななななな、あなた達!!!ちょっと静かになさい!この方々をどなたと心得るのですか、神殿の主様でありますぞ!!!道を塞ぐとは何たる愚行。速やかに退きなさい。警備の持ち場に戻り、周囲の警戒を!!さあ早く!早く!!」


 それを聞いた2人は、

「尊い血!?」

 と驚きの声を上げ、声を上げたことに蓋をするように口に手を当て、慌てて神殿入り口へと戻って行く。


 そっぽを向く形で立ち、オリヴィアたち一行を目線に入れないように外を警戒しだす。


「おやつを持ってやってくるくらい、彼らの日常は和やかなのね。」

 と母がオリヴィアへコソッと話し掛けてくる。


「ええ、そのようですね。フフッ」

 オリヴィアも想像すると微笑ましくて、思わず笑いが出る。


「オホン、大変失礼いたしました。あちらの扉から神殿へと入ることができます。ですが、神事の日以外でここに自由に出入り可能なのは、尊い血を受け継ぐ者とその御身内の方のみ、それから教皇様のみとなっておりますので、私は外でお待ちいたします。」

 グレゴが神殿の扉の前で説明をする。


「司教は中へは入られないのですか…かなりの広さの様ですが大丈夫でしょうか?」

 ハロルドが心配の声を上げると、


「平気よ、分かる者が居るから。」

 そうリナが言い、サッサと神殿の扉を押して、中へと中へ行く。


 その後ろを、侍女、カイルが続き、オリヴィアとハロルドも慌てて後を追った。


 追いつくと、先頭を侍女のエマが、その後ろにカイルとリナが続き歩いている。


「お母様、分かる者と言うのはエマのことでしたのね?」

 オリヴィアが尋ねると、

「ええ、私もこの地へは母に連れられて一度来たことがあるのだけれど、あまりにも幼かったから記憶がほとんど無いのよ。その点、エマはここへよく来ていて知っているから隅々まで把握しているわ。彼女は私の母がルトアールの王女教育の為にと付けた家庭教師なの。もの凄く厳しいのよ。」

 コソコソ声でオリヴィアと話す。


「聞こえておりますよ、リナ様。」

 エマが前を向いたまま、一喝する。


 その瞬間、リナがヒュッと空気を飲む音がした。

 静まる神殿内にその小さな音はよく聞き取れる。

 それに対して、カイルがフッと息を出して笑ったのもよく分かり、リナが酷く不機嫌になった。


 そうこうしていると、

「着きました。」

 エマが淡々と伝える。


 そこは中庭であった。

 庭の花壇には花が咲き乱れ、果実のなる木もいくつか植えられている。

 季節の花や果実はだが、通常この季節には咲くことの無い花や実がなっていた。

 不思議な風景である。

 その庭の片隅に泉がある。


「祈りの泉です。」

 エマが説明する。

 この場所は、神が下界へ降りた際にこの地の植物でガーデニングを愉しんでいる場所らしく、その場所の片隅にある泉は、天界にいる神へ下界に居る者が会話を試みる時に使う通信装置のようなものなのだとか。


「あそこの泉の縁にお供え物を置いておくと、水中に文字が浮かぶとかなんとか…」

 胡散臭そうにリナが説明する。


 エマが泉の縁に先程もらってきた葡萄をお供え物として置く。


 すると、泉の中をギラついた瞳でジッと凝視し始めた。

 何かに気が付いたらしく、エマは泉へと手を入れた。

 水が弾け飛ぶ。


 その中から一気に手を抜き去った。


 エマの手の中で何かが光る。


 エマが持っていた物は、細やかな装飾の施された銀のコンパクトであった。


「それは?」

 リナがエマに聞く。


「泉の水に映し出された文字には、力を集める鏡だと記されていました。」

 エマが答える。


「力を集める…そう、では、それはエマが持っていてちょうだい。」

 リナがそう言うと、エマは頷き、懐に入れた。


 その会話を終えると、用事は済んだとそそくさとエマは来た道へと足を向ける。


「え?もう終わりなのですか?」

 オリヴィアが思わず尋ねると、エマは答える。


「ええ、この神殿での用事はこれで終わりです。これから日没までに急いでウェルトへと向かわなければいけませんので、これ以上、ここへの長居は必要ありません。さあ急ぎましょう。」


 エマの言葉に、皆が促されて、神殿から足早に立ち去る。

 神殿を出た所で待っていたグレゴにももう少し滞在を延ばしてほしいと引き留められたが、何かから逃げるように、オリヴィアたちはその場を後にした。


コンパクトを神から手に入れました。

このアイテムはいったい何なのか!?

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