深夜に
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深夜。
カタン。
ハロルドはベッドから静かに身体を起こす。
ベッドの端に寝ていたはずのオリヴィアが、いつの間にか自分の背中にピトッとくっついて寝ていたのだ。
その体温にハロルドは眠れなかった。
どうにか理性を制御して、そろりそろりとベッドを降り、廊下へと出る。
水をもらいに行こうと、厨房の方へと歩き出した。
少し歩いた所で、カイルに出くわした。
「おう、新婚さんよ。眠れないのか?お前、俺の可愛いリヴィに無理強いしたら、タダじゃおかないからな!!」
と、すれ違いざまに、赤ん坊の頃から大事にしてきたリナの娘を自身の子のように大事に扱ってきたカイルが、オリヴィアを大切にするようハロルドへ嫉みの気持ちを込めて言い聞かせた。
「お前こそ、いい加減、(リナを)諦めたらどうだ?見ていて痛々しいぞ。」
喧嘩を売られたと勘違い返し、ハロルドが言い返した。
「大きなお世話だ!」
カイルは言い当てられたことに驚きと、ショックが重なり、大声を上げてしまう。
あっと思ったカイルだが、すでに遅し、近くのドアが開く。
「あなたたち、煩いわよ。」
リナがこっちへ来なさいと合図した。
廊下での争いは良くないと考えて。部屋に招き入れたのだ。
エマがお茶を入れる。
ソファに座る三人は、淹れたての紅茶を静かに口へ運び、気持ちを落ち着かせた。
「それで、何で2人は喧嘩しているの?」
リナが聞くと、2人は黙ったままである。
「そう、言いたくないのならいいわ。他の質問、2人はあそこでいったい何をしていたの?」
リナが再び尋ねる。
「先程まで、ダニエル殿と話をさせていただいて、明朝のプランの改良点をリナへと知らせに行く所だった。ハロルドに偶然そこで会って、一言二言、言葉を交わしただけだ。喧嘩なんかじゃない。」
カイルが言い訳をした。
「…私は喉が渇いたから、水をもらいに行こうとしていただけで、偶然部屋の前を通りかかったカイルと、少し話をしただけですよ。リナが気にすることは何もない。」
ハロルドが言い訳をした。
「ふーん。」
リナはそう声を漏らし、それ以上は詮索しなかった。
カイルから計画の改善点を聞き終えると、ハロルドはふと思い出した。
オリヴィアを部屋に一人きりで残してきてしまったと、不安になる。
急いで部屋に戻ることにした。
部屋に戻ると、オリヴィアが寝返りを打ち、幸せそうに寝ている。
“可愛い!!!!”
ハロルドはこのままだと、興奮と緊張で眠れないかもしれないと考え、結局、ソファで寝ることに決めた。
翌朝、オリヴィアが目覚め、ハロルドの様子を見て、がっかりしたことは言うまでもない。
***
早朝、目を覚まし、オリヴィアは手を大きく広げ、伸びをした。
その時に、このベッドには自分以外も寝ているのであったと思い出し、手足を伸ばし過ぎたと焦り、目を一気に覚ます。
だが、周囲を見回すが、横には誰も寝ていなかった。
ベッドから立ち上げり、さらに部屋中を見回すと、ソファで寝るハロルドを見つけた。
近寄ってみる。
ほんの少し髭が生え始めている。
顎の髭に手を伸ばし、触ってみようと試みた。
触れると同時に、ハロルドが目を開け、オリヴィアの手を掴んだ。
目を見開き、ハロルドが掴んだ手の先を目で追い、オリヴィアであると確認するのに数秒かかった。
「私、寝相が悪かったですか?」
オリヴィアがそう聞いてきた。
「いいや、そうではない…私の理性が持ちそうになかったのだ。」
寝起きで、馬鹿正直に答えてしまった。
「まぁ!」
と顔を手で覆い、オリヴィアが声を恥ずかし気に上げる。
「それは気が付かず、申し訳ありません。」
頬を赤らめて、なぜか真っ赤になってオリヴィアが謝った。
その様子が可愛すぎて、ハロルドは思わずオリヴィアを抱き寄せていた。
「ハッ、私の理性。すまない、つい…君が可愛すぎて…」
とモゴモゴと言い訳を言いつつ、腕の中からオリヴィアを話すことはない。
そこに、ドアのノックする音が聞こえ、メイドが室入居可を控え目に訪ねる。
新婚さんなので、気を使っているのだろう。
オリヴィアがノック音に驚き、素早く後ずさりし、体を引き離す。
手の中からオリヴィアが居なくなったことを残念だと悲しそうにハロルドは見つめていた。
そんなことお構いなしに、オリヴィアが服を整えながら、どうぞと入室許可を出した。
顔を洗う桶を持って侍女たちが入室し、食事は朝早いので、皆さん、各自お部屋でとなっていると言い、この後すぐに運んできてよいかの確認してきた。
ハロルドが許可を出すとメイドが慌ただしく動き出す。
何も聞かされていなかったオリヴィアは、今日の計画を、朝食を食べながらハロルドから聞かされた。
どうやらすでに駅や停車する汽車にはドルトムントの手の者たちが送り込まれていて、常に目を光らせて監視している状態となっているらしい。
乗車したと同時に取り囲まれる危険があるので、汽車には乗ることが出来ない状況とのことであった。
そこで、貨物列車に目を付けたのだと言う。
クロスター領には週に一回、早朝に貨物列車が駅に長らく停車する。
他領の物品の受け入れと、自領の産物の輸送を貨物列車にて行っているのだそうだ。
これは主要な地であり、高額のお金が支払える領のみに貸し出される貨物専用の列車で、融通も効くらしい。
今回はクロスター領の為にいつもよりも車両を一両増やしてもらっており、そこにオリヴィア達が隠れて乗るよう計画された。
「貨物列車での長旅となるので窮屈な想いもして大変かと思う。君は大丈夫だろうか?」
ハロルドが、オリヴィアへ心配そうに聞く。
「大丈夫です。私、かくれんぼは得意ですから!」
爽やかに笑うオリヴィアが居た。
「う、笑顔が眩しい…天使が目の前に…」
次回からまた出国を目指します。