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早くも危機に陥る

 明日投稿できないので、今しちゃいます。

 いつも読んでくださり、ありがとうございます。


 この誕生会に招待されているのは、第一王子の婚約者候補と側近候補なので厳しい審査を受けている。


 王子妃に相応しい貴族の令嬢が30人程度と、第一王子側近候補として将来有能な子息(一部を除く)が20人程である。

 それと、親族枠と言いますか、オリヴィア姉弟のような第一王子の世話係が片手の指の数程度、呼ばれていた。


「やあ、はじめまして。本日は王宮へ来てくれてありがとう。とても可愛い小鳥ちゃんたちの楽しそうなさえずりが、遠くにいた私の耳にも聞こえてきたよ。フフッ、とても可愛らしく愉快な君達のおしゃべりに、私も加わりたいのだが、会話に混ぜてもらえないだろうか?」


 優しいハスキーボイスで、周りを取り囲む多くの令嬢達へ、オリヴィアは目を配らせをして声を掛けた。

 その瞬間、彼女達の脳内では花びらが噴き荒れた。


 隣や後方を歩いていたチャールズと弟たちがオリヴィアの言動に、この人はいったい誰なのでしょうか???と、記憶にバグを起こし固まっていた。


 そうだろう、普段のオリヴィアはこんなナンパ師のような振舞いは一切しない。

 むしろこんなようなことをする男を見たら、恥ずかしがってその場を逃げ出すほど初心である。

 普段は根が真面目で外面をかなり気にする…気にしすぎるのだ。

 内面はネガティブであるがこんな振舞いとは無縁なコミュ障気味な令嬢である。


 ではいったい、何故こうなっているのかと言うというと、そう彼女は復讐の為に精一杯の演技をしているのだ。

 ここにいるのは自分ではない別人であると強烈に暗示を掛け、なんとか役に成りきっている。


 いつもはネガティブに考えがちだか、やると決めたらやり遂げる!ちょっと頑固なオリヴィアはそう言う女だった。


 彼女が参考にしたのは、先日、オペラ座の舞台で見た美しい貴族令嬢に恋をしてしまった王子の物語に出てくるヒーロー。

 ライバルを蹴落とし、周りの反対には屈せず、周囲を巻きこんで愛を実らせた物語に出てくる乙女の憧れの精悍な王子、エドという名のキャラクターである。

 確か題名は、【一途な王子の初恋物語】だった。


 オリヴィアの挨拶にキャァアと短い黄色い声を上げ、令嬢達が頬を染める。

 そして、瞬く間にオリヴィアとの距離を縮めだす。

 我先に話そうと押し寄せてくる。


 こ、この勢いは、かなり凄いな!!

 鼻血出ている子がいるこれど、あれは大丈夫なのか?


「少し落ち着こうか、小鳥ちゃんたち。そうだ、向こうの大きなテーブルの方へ行こうよ。あそこで、可愛い小鳥ちゃんたちとゆっくり座って会話を楽しみたいな。ね、どうだろうか?」

 首を軽く傾け、おねだりアピールをする。

 予想以上の反響に、オリヴィアの背中には冷汗が流れる。


 すると、令嬢達から

「「「「「はい、喜んで~!!」」」」」

 と、綺麗にハモった返事がきた。


 心をつかめたと確信するとよっしゃ、キタ!!と、心の中で両手の拳を高らかに上げた。

 オリヴィアが大群を引き連れ移動し始める。


 オリヴィアは令嬢たちと会話しながら考え、歩く。

 この穴だらけの計画を埋めるべく設定を早急に導き出さなければならないと。


 彼女達が嬉しそうに所かしこから挨拶をしようと声を掛けてくる。

 その一人ひとりに笑顔を返す。

 オリヴィアも別のことを考えながらだが、彼女達の言葉に頷きながら、最終目標地を目掛けて歩みを進めていく。


 その時、オリヴィアのすぐ横を歩いていた令嬢が、他の令嬢に妬まれてか、スカートの裾を踏まれ、つんのめってしまった。

 前屈みで倒れそうになった所を、オリヴィアが咄嗟に手出し、腕を掴んだ。

 クルッと抱え込むような姿勢になり、令嬢は寸前で転ばずに済んだ。


「おっと、怪我はないかい?小鳥ちゃん。」

「は、はいぃぃぃ!!」


 頬を真っ赤にしながら近い距離のオリヴィアに大興奮する令嬢。

 その令嬢がパニックを起こし、挨拶以外を話し掛けるチャンスと唐突に質問した。


「ああああありがとうございますぅぅ、でん、あの、あの、貴方様は、ジョージ殿下で、おおおおられまするか?」


 そのまさかの質問に目を少し見開き、驚く表情のオリヴィア。

 時が止まり、皆が、オリヴィアの回答を、固唾をのんで待った。


 長いようでほんの数秒の音の途切れた時間が過ぎ、オリヴィアが動く。


 オリヴィアは、声を()さなかった。

 いや、声が()なかった。


 考えが思いつかなかったのだ。

 先程、いくつかパターンを考えていたが、まだ浅い…これでは綻びが生じてしまう。


 ジョージから承った抜け目だらけのノープラン作戦は、たった今、唐突にピンチに陥った。


 考えろ、考えろ…念仏のように唱えても、最適な対策が思い浮かばなかった。


 なので、オリヴィアは半場やけくそになった。

 なるようになれと開き直ってみたのだ。


 とりあえず、ただ単にゆっくりと優雅に微笑んでみせた。


 ただ、それだけであった。


 それだけであったのに、あ~ら不思議。

 まるで、“そうだよ。私が第一王子”と彼がはにかんで返事をしたかのようなホワホワした空気に一帯が包まれた。


 その雰囲気に便乗して、周りに居た令嬢の一人がこう囁いた。

「やっぱり、あの御方がジョージ殿下なのね。」


 その一言からオリヴィアがジョージ殿下だと囁かれていく。

 なぜか、勘違いさせることに成功した。


 それにより、周りの令嬢達がさらにヒートアップし、我さきへと甘い声を放ち始める。

 その謎の群衆は飴に群がる蟻…いや、死骸に群がるハイエナのようであった…。


 セーーーーフ!!!

 速攻でネタバレするところだったよ。


 抜け目がありすぎるのは承知で引き受けた作戦、ある程度、自力で対処しなければいけない部分が多発すると覚悟して気合を入れ挑んでいたはずだったが、甘かった。

 今のはかなりの不意打ち。


 奥のテーブルに着いてから、令嬢達と会話している際に聞かれるだろうとは予想していたので、まだ余裕があると考えていたのだ。

 ジョージが見るまでに令嬢達を奥のテーブルへ誘導済みであるならば、王子ではないとバレてしまっても構わないだろうと考えていた。

 奥のテーブルに多くの令嬢を座らせることが私の任務であり、私の復讐だから!


 だから、こんな早く本人か聞かれるなんて、予想外だったのだ。

 やばかった、本当に、今のやりとりで流されてくれたのは、奇跡としか言いようがない。


 でも、なんとか危機を乗り切ったぜー!ヤッターイェイイェイ。


 これでちゃんと、皆に第一王子って勘違いさせられたんじゃないの!?

 兎にも角にも、最初の難所、突破ー!!


 “いやいや、お前だけの成果ではないだろう。

 あの時、私の事を第一王子だって呟いて皆の意識を誘導してくれた者がいたじゃろう。

 その人に感謝しなきゃならんぞ。”


 心の中の仙人様がそうおっしゃった。


 そうです。その通りです。

 居たのよ。そのように誘導してくれたご令嬢が…。

 ほら私から、かなり後方だけれど、弟たちの居る左後ろ辺りに。


 令嬢達の後方で私を見ては終始口を手で覆い、笑いを必死に堪えている私より二つ年上の友人、ライズ伯爵令嬢メアリーのことですよ。

 弟たちから話を聞いたのかな?


 相変わらず、若草色のドレスばかりを着ているわね。

 若草っていうか、あれは彼女の大好きな毒草の色よ。

 彼女は極度の毒草オタク。

 まあ、彼女もそんな趣味持ちだから社交界では変な噂を流されていて、浮いた者同士で私と友人をやっているわけなのだけど。

 数少ない私の友人の1人。


 ということで、今回は彼女のおかげで助かった!

 ありがとう〜ありがとう〜ありがとう〜


 彼女へとウィンクをして合図を送ると、メアリーは腹を抱えて生垣の隅へ逃げて行き、声を出して笑っている。

 笑い終えると、真顔で後方へ戻ってくる。



 この殿下のフリをした私が多くの令嬢を引き連れて歩く様子は、第一王子を知っている者からしたら本日の主役ではないのに、主役のような振舞いをしている謎の美少年と言う摩訶不思議な光景となっている。


 オリヴィアだと判っている者たちの脳内は、いったい彼女に何が起こっているのか、いいやあれはオリヴィアなのか?と、ジェット気流へ気球が突っ込んだ如く脳内へ混乱を招いていた。


 そして、あまりにも不自然な振舞いをしているオリヴィアを心配し、混乱していた1人の令嬢がついに立ち上がり行動に出た。


 大群の後方にこっそりついてきているオリヴィアの兄弟と輪からつま弾きにあった第二王子のもとへと大股歩きでやってきたのだ。



次回も、危機連発。


【登場人物memo】

ライズ伯爵令嬢メアリー:毒草の研究をしている変わり者令嬢、オリヴィアの友人 ライズ伯爵家は前王妃の実家


 一途な王子の初恋物語は、オリヴィアの父と母の話を元ネタに創作された公演です。


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