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新婚夫婦のベッド

読んでくださり、ありがとうございます。


部屋に入るとソファへと導かれ、座るようオリヴィアは促された。

直ぐにローテーブルを挟んだ反対側の一人掛けソファにハロルドも腰を下ろす。


 眉間に皺を寄せ、人差し指を口に当てながら何かを考えている。

 数秒だろうか沈黙したのち、オリヴィアの方へと視線を向けてきて、ハロルドと目がかち合った。


 そのハロルドの姿がなまめかしい姿に見惚れてしまっていたと気づいたオリヴィアは咄嗟に顔を背けた。


 ハロルドの方から小さな溜息が聞こえる。

 そのすぐ後にこう切り出された。


「オリヴィア、私は君と結婚はしたが、今夜、君をどうこうするつもりはない。」


 そうハロルドにキッパリと言われてしまい、オリヴィアはショックを受ける。


 やはり、自分を子供としか考えていないハロルドは、自分を女として抱く事が出来ないのだろうと、酷く打ちのめされたのであった。

 青ざめた顔をしたオリヴィアを見て、ハロルドが慌ててフォローをする。


「あ、誤解しないでくれ。君の事を拒んでいるわけではないから!!君と私は、突然夫婦となったわけで。それに、君は長年ヘンリー殿下と想いを通じ合っていた仲だったようだし、そんな人と婚約破棄した直後だ…君には気持ちを整理する時間が必要だろうと、そう考えての発言であってね…」


 その言葉を聞いてオリヴィアは案著する。

 それと同時に彼にどう思われているのかと戸惑う気持ちも芽生えた。


「ああ、やはり、伝えなければならないことは、声に出して言わなければいけないね……まずは……」


 ハロルドは椅子から勢いよく立ち上がり、オリヴィアの座る椅子の横まで来ると膝と就いた。

 そして、顔を上げて、オリヴィアを強く見つめた。


「君は本当に可愛い、綺麗で、眩くて、すでに私は、君の虜さ。私は君のことが好きだ。好きなんだ。」

 ハッキリと告げられた。


「えっ!?」

 思いがけない告白に、オリヴィアは声がつまり、すぐに答えられない。


「正直に言うと、君に一目会った瞬間から恋に落ちていた。だが、私はこの通り君の父親よりも年上でおじさんだ。それに君には婚約者がいた。だから、精一杯自分を抑えるために、君の事を年若い女性と連呼して言い聞かせ、ワザと君に近づき過ぎぬように振舞い、気持ちを押し鎮めた。だが、それは逆効果で、日に日にその気持ちに蓋をしておけなくなっていき、溢れ出てしまう寸前となっていた。君との結婚の話を持ち掛けられた時、私の心が歓喜に湧いたのを君は知らないだろう。宰相補佐時代に4日徹夜し、食事を抜いてまで仕事をし続けていた際に引き出しの隅からマカロンが見つかった時、あれ以来の幸運が舞い込んだと感じた。天からの究極のギフトと言うべきか。ヘンリー殿下には悪いが、私は君と結婚できたことが人生最大の幸せだ。それをあなたには知っていてほしかった。私はあなたを大切にし、幸せにしたい。」

 オリヴィアの右手をそっと両手で挟み、請うように真剣な眼差しで伝える。


 少しの沈黙の後、オリヴィアが答える。

「フフッ、幸せにしたいではなく、一緒になりましょうよ。私はその方が良いです。」


 告白に対して、おじさんなのに気持ち悪いと言われるかもしれないと考えていたハロルドは、オリヴィアの答えに戸惑った。

 だが、言葉の理解と共に、体に安息が駆け巡り、力が抜ける。

 両膝をつき、へなへなと床に崩れ落ちた。


「ハロルド様、大丈夫ですか?こちらへお座りください。」

 そんなハロルドへ駆け寄り、オリヴィアは声を掛け、自身の座るソファの横へとハロルドを座らせる。

 座らせると、自分も着席した。


 ハロルドが落ち着いたのを見計らい、オリヴィアは話を始める。


「実は、私も貴方に魅かれております。出会ったばかりであるし、私は今日の昼間まで他の人と婚約していたと言うのに、こんなことをと好色だと思われれしまうかもしれませんが、そのような事はなく、ですが、魅かれていることは紛れもない事実です。あなたに好意を抱いています。だから、共に、幸せになりたいのです。」

 ハロルドが目を見開き、信じられないと言った表情を向ける。

 そんな彼に、オリヴィアは微笑みかけた。


「私も、言いたいことは伝えておきます。私は今回の婚約破棄で学んだ事があります。それは、一方的な約束はするべきでないという事です。裏切られたときに、それは片方だけが権限を持ち、片方だけが苦労しているという事を知りました。だから、約束事は、お互いで交わせるものでなければと、一方的は良くないと学んだのです。ですから、私と一緒に幸せになってください。」

 ハロルドの両手を握り、オリヴィアは笑顔で想いを伝えた。



「はい。」

 と、ハロルドは答える。

 すると、涙がポロッと流れ落ちる。


「あれ…??」

 頬が濡れ、自身が泣いていることにハロルドは驚いた。


 オリヴィアはハロルドの顔を両手で挟み、涙を親指でそっと拭う。

 2人の目が合う。

 オリヴィアの目にも涙が溜まっていた。


 目を瞬かせると流れ落ちる。


 そんな様子がなんだか不思議でおかしくて、2人は笑い、そしてポロポロと泣いていた。


 ハロルドは思い掛けず泣いてしまった事に段々と恥ずかしくなる。

 照れたハロルドは、オリヴィアに腕を回し、自身の胸へと包み込み抱き寄せた。

 泣き顔をこれ以上見せないようにしたのだが、オリヴィアはそんなこととは知らない。


 オリヴィアは、ハロルドの行動が自分を妻と認め愛情表現をしていると勘違いしていた。

 そして、その想いに答えようと、ハロルドの胸に頬を寄せ、体を寄せる。


 思わぬオリヴィアの反応に、ハロルドは口角が上がる。


 ソファで心臓をドキドキさせながら、2人は無言で抱きあった。


 暫くしたのちに、0時を知らせる時計の音が鳴る。


「あ、ああ、それじゃあ…寝ようか。」

 そうハロルドが言うと、オリヴィアを体から剥がし体制を整える。


「私がソ――」

 自分がソファで寝ると言おうとした時に、オリヴィアが口を挟む。


「あの、私達はすでに夫婦ですし…一緒のベッドで寝ませんか?」

 顔を真っ赤にしながら、オリヴィアが誘う。


「あ…」

 多くの感情が入り交じりすぎて、ハロルドは咄嗟にそれしか返事が出来なかった。


 大きなベッドではあるが、1つのベッドだ。

 男女の大人二人が一つのベッドに共に寝るということに、真正の従僕な者でない限り、過る想いは発生するのだ。


 ベッドの両端に縮こまるように横になる2人だが、ほのかに纏う空気が桃色である。


「あ、あの…」

 寝そべったまま身体の向きをハロルドの方へ向け、オリヴィアが話し掛ける。


 ハロルドも、体の向きを変えて、オリヴィアの方へ向き、答える。

「どうかしましたか?寝付けませんか?喉が渇いたならば、お水をお持ちしましょうか?」


「あ、そうじゃなくて…その…」

 言いにくそうにオリヴィアはモジモジする。


「ん?」

 急かすことなく、オリヴィアが話すのをハロルドは待つ。


 意を決した瞳で、オリヴィアが伝える。

「私、これまで殿方との触れ合いが全く無かったのです。それで、ハロルド様と近づいて2人きりで話をするというだけで、酷く心の鼓動が激しく打つのです。私達はすでに夫婦となりましたし、このままではよくないと思いまして…ですので、スキンシップを増やして、あなたに近づくことに慣れていきたいのです。ダメでしょうか?」


 思いもよらない可愛い訴えに、ハロルドは顔がほころぶ。

 ニヤケル口元を見せまいと掌で覆う。

 その仕草に、破廉恥なことを言いだしたと、痴女と思われたと勘違いしたオリヴィアは、恥ずかしさに、掛け布団を顔にガバッと覆い、こう言った。


「こんな破廉恥なことを女な私の口から…申し訳ございません!」


 その言葉に、ハロルドはまた勘違いをさせてしまったと慌てて否定する。


「いや、違います!その逆で、嬉しくて、つい!や、やりましょう。私はスキンシップ大歓迎です。あなたに触れられるなんて、断るはずがない!!」

 なかなかの大きな声である。


 掛け布団からひょっこりと顔を出した目の潤んだオリヴィアは、ハそう言ったロルドを見て微笑んだ。


「では――」

 では、抱きしめて寝てもいいか?と聞こうとしたハロルドの前に、オリヴィアが言葉を挟む。


「手を繋いで寝ても良いでしょうか?」


 上目遣いで祈るような手のポーズでオリヴィアに告げられてしまったハロルドは、“はい”としか答えられなかった。


 そうして、2人は仲良く手を繋ぎ、並んでベッドで寝るのでした。


「……」


 ハロルドの不満げな気持ちは表情に出て居たが、疲れていたのか、すぐさま寝に入った天使の寝顔のオリヴィアに、想いは届かなかった。




新婚夫婦、じっくり時間をかけて仲良くなっていくようです。


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