夫婦の部屋(クロスター公爵邸3)
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オリヴィアが、母との会話や夫婦の部屋という事実を思い浮かべている間に彼女たちの話が変わり、王城での出来事についての話がなされていた。
「ねえ、あれって本当?グランドル国の次期国王は人の意識を操れるって話。確か名はドルトムントっていったわね、王宮に侵入していたのでしょう?兄が操られてしまったと酷く落ち込んでいたわ。それにより立場的に面倒な事になっているって事を聞いたのよ。」
マーガレットがオリヴィアへ小さな声で尋ねる。
「あー、ドルトムントはドルーの生まれ変わりだから、そう言った能力が使えるらしいわ…あっ、しまった…」
オリヴィアが深く頷きながらそう言うと、マーガレットから悲鳴のような声が上がった。
「ドドドドドドドドド、ドル、ドルゥゥゥゥウウ!?!?ドルーって、あのドルゥゥー???」
今までにないマーガレットの取り乱しように、目を見張る。
「なんで、そこにドルーが出てくるの??ねえ、なんでなの!?生まれ変わり???」
オリヴィアの肩を儂掴み、前後に揺さぶってくる。
「あわわわわ。」
としか声の出せないオリヴィアと揺さぶるマーガレットの間に腕を入れて、
「メグ、落ち着いて。」
と、キャサリンが止めに入ってくれた。
視界がグワングワンと揺れている。
「落ち着いた?」
キャサリンが問うと。
「少しだけ…」
マーガレットがぎらついた眼をオリヴィアへ向けたまま、そう言った。
深く息を吸って吐いた後、オリヴィアはマーガレットへと向き合った。
「えーと、ですね…」
オリヴィアはどこまでばらしてよいのか分からなかった。
アドラシオン国の王家には知らされているとはいえ、フォールズ辺境伯や母、ニコルも秘密厳守で未だに通している案件だ。
だが、2人は心から自分を心配してくれる友人である。
話したい気持ちでいっぱいであった。
それでも我が家の秘密を簡単に暴露して家族を危険に晒すことになったら、もしくは聞いてしまった彼女たちにも危険が及ぶかもしれないと考えに考え抜いて言葉を返した。
「ごめん、口を滑らせてしまったけど、この話も秘密事項なの。だからこれ以上は話せない。知りたいだろうけれど、今はごめんなさい。迂闊でした。2人には隠し事をしたくない…でも、今は、ダメなの。隠し事をしたくないけれど、話したいのだけれど…いつか話せる時がきたら…」
悔しさの滲む表情で、オリヴィアは訴える。
「あなたの気持ち、痛いほど伝わっているわ。落ち込まないで、私達は話さないからって嫌ったりしないわよ。」
「ええ、当り前よ。それに、今は話せないのでしょう。いつかは話してもらうわよ!」
明るく、二人は受け止めてくれた。
その優しさにオリヴィアの気持ちは満たされる。
「うん、了解が取れたら真っ先に話に来る。」
絶対に守ろうと心に留める。
ドルトムントはドルーの生まれ変わりであり、自分はルトゥの子孫だということ。
ドルーは子孫に執着していて、自分を手に入れるために婚姻を結ぼうとしていること。
アドラシオン国の貴族の意識を操り、婚約破棄がなされたこと。
危険を回避するために、即座にオリヴィアは結婚をしたことを、許可を得て、危険が無くなったら、2人にきちんと話そうと、心に誓った。
***
それからしばらく話し続け、夕食の時間となり、食堂へ向かう。
食堂で、ディナーを食べ終えて、女性たちはそのまま残り、サロンに男性が移動していった。
そこで、しばらくは流行りものや近況報告やらを話していたのだが、月も高くなる頃に、キャサリンが突然このあとどうするのかと訪ねてきた。
一日しか滞在できないオリヴィアと、もっと話したいというマーガレットに対し、キャサリンがソワソワしながら切り出す。
「メグ、オリヴィアは新婚さんなのよ…少しは気を使いなさいよ。」
と耳打ちする。
「ああ、旦那様が待っているのね、私ったらうっかりしていたわ。」
と、マーガレットが普通音量の声で答える。
オリヴィアはもちろん聞こえており、首元の空いたドレスから見えている肌が、真っ赤に染まっていった。
押し出されるようにサロンを追い出され、オリヴィアは今夜泊まる自分たちの部屋へと向かった。
扉をノックしてみるが、応答はない。
開けて入ってみると、ハロルドは居なかった。
広い部屋に二人掛けソファにテーブル、鏡台、そして大きなベッドがドーンと一つ。
それを見た瞬間、オリヴィアは向き直り部屋を逃げ出していた。
母親の部屋の扉を強くノックする。
扉が開かれて、顔を出したのは、侍女のエマであった。
「お願い、ここに居させて。」
オリヴィアはそう願うと、エマは微笑んで、部屋に招き入れた。
「リナ様はまだ返ってきていらっしゃいませんが、どうぞ中でお待ちください。」
そう言うと、テーブルセット腰かけるよう促し、紅茶を淹れ始めた。
それを飲んだオリヴィアは、落ち着きを取り戻していく。
暫くして、リナが部屋に戻ってきた。
カイルらと明日からの予定を話し合っていた様だ。
リナの支度を専属メイドのエマが手伝っていたので、オリヴィアも手を借りて支度を済ます。
「リヴィ、ハロルドと結婚したのだから、これからはこういう事が当たり前になるわよ。慣れて行かなければいけないわ。」
ソファに腰かけて、リナが宥める様に娘に話す。
「はい…分かっています、分かっているのですが…急遽結婚して、今夜、ど…ど…同衾と言うのは、い、いかがなものかとですね。その、まだ、心の準備が。心の準備がですね…」
かなりオリヴィアは動揺しているようだ。
顔どころか、白い肌が背中まで真っ赤である。
「ふぅ、そうよね、突然の婚約破棄と結婚。それ、昨日の出来事なのよね…あなたは若いし、色々とまだ早かったわよね。それに、昔のハロルドは手がはや………はぁ、そうね、同室だと万が一って場合もあるかもしれないし、明日に支障がでるのはよくないし、別の部屋を用意してもらいましょうか?ああ嫌だ、ここは彼を信じるべきなのか?娘を過保護に守るべきか。でも夫婦だし、そう言うのに親が口出すべき?」
リナが首を捻っている時に、ドアの控えめなノック音が聞こえる。
「ハロルドです。オリヴィアはこちらに来ていますか?」
緊張気味のハロルドであった。
「ええ、来ているわ。入って。」
リナはオリヴィアが居ないと言ってよと視線を送っていたにもかかわらず、サラッと招き入れた。
オリヴィアは母親を苦々しく睨み付ける。
ガチャとドアの開く音がして、ハロルドが入ってきた。
室内にいるオリヴィアを一目散に確認し、ホッとした表情を浮かべる。
オリヴィアはその表情に胸を打たれた。
自分は、何から逃げていたのだろうか。
彼は心から私を大切に想ってくれている。
何も恐れるものはないと心が澄渡っていく。
「母さま、私、部屋へ戻ります。」
オリヴィアは瞬時にそう口にしていた。
ハロルドから目が離せず、無言で見つめて。
「うん、その方がよいわね。」
オリヴィアを見て、リナは優しく笑いながら目を伏せ、数回軽く頷いた。
ハロルドにエスコートされ廊下を歩き、オリヴィアは2人で使う部屋へと導かれていく。
その際、今までの緊張が嘘みたいに、心が安らいでいた。
ふたりきり、ドキドキ。