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レスター伯爵邸

いつもお読みくださりありがとうございます!

今年最後です。



その日、馬車に乗り続け、辿り着いた先はフォールズ辺境伯の妻の実家であるレスター伯爵邸であった。


門を潜り、並木道を進むと、薔薇が壁を覆う大きな屋敷へと到着した。

歩幅の狭い階段を上ると扉があり、その前に初老手前の男がソワソワとしながら待ち構えていた。

「お待ちしておりました。フォード公爵夫人に、えっとそれから…」

オリヴィアの後ろに立つ2人を見やったあと、リナを見る。


「えっ、あ、お久しぶりでございます、レスター…今は伯爵でしたね。お元気そうで何よりです。こちらは娘のオリヴィア。それから、娘の夫のアーハイム公爵に、そちらは護衛をしてくださっているモーリス卿です。」

 顔見知りであるリナがニコニコと頗る笑顔で皆を紹介する。


「娘のオリヴィアです。」

「初めまして、オリヴィアの夫のハロルド・アーハイムです。」

「…カイル・モーリスです。」


「どうも、アルフレッド・レスターです。話しは義兄から伺っています。さあ、皆さん、長旅お疲れでしょう。中にお入りください。」


 終始にこやかな気の良いおじさま紳士が両手を広げて歓迎してくれた。


「父は貴女が公爵夫人となられてから数年して伯爵位を私に譲り、今はラグラン卿と名乗っています。王宮へ赴くにはそれなりな爵位が必要ですからね。まだ中央に席はおいているのです。ですが、今は腰を痛めておりますのでここから少し離れた我が領の療養地でゆっくりと過ごしているのですよ。あちらの部屋でお待ちです。久しぶりですので、喜ばれると思いますよ。」

 と言いながら、前レスター伯爵の待つ応接間へと案内してくれた。


 扉を開けると、老人が背を曲げて一人掛けのソファに座っていた。

 背を丸めている所為か、小柄に見える。

 老人はオリヴィア達が部屋に入ると目線を向ける。

 瞬時にスッと腰を上げが立ち上がると、優しい声で挨拶をした。


「久しぶりじゃのう、姫。30年ぶりか。」

「フッ、ご冗談を。そこまで長期間ではいないでしょう、お師匠様。お元気そうでなによりです。」

 リナと老人が挨拶を交わす。

 老人はリナの侍女エマにも久しぶりだと声を掛け、挨拶を交わしていた。


 どうやら、リナはこの老人とはかなり親しい間柄のようだ。

 彼はテンペストの元記録保持者だ。

 リナの父親がリーグ参戦する前までは世界チャンピオンだったらしい。


 リナがこの人物tと会った当時、すでにリナの父親が世界チャンピオンであった。

 その為、兄には劣ると自信の無かったリナは兄の師匠である父から教わる事を避けた。

 比べられるのが嫌であったのだ。


 だが、密かに腕を上げ、どうしても兄に勝ちたいと考えていたリナは指南役を探した結果、母の知り合いで腕の良い師匠から教わることになったのだとか。

 結局、兄に勝つことはなかったが、王子妃時代に大いに役立ったのだとリナは師匠に感謝した。


「マリー様が亡くなって、もう二年が経ちましたね。師匠はお変わりありませんか?」

「ああ、あの人が居なくなって凄く寂しい想いをしたが、ほら、今はこんなに元気じゃ。よし、まずは一試合やろうかのぉ。」


 そう老人が言い終えないうちに、レスター伯爵が声を掛けた。

「父さん、皆を立たせたままだよ。まずは座りましょう。どうぞ、お茶を用意いたしますので、好きなお席にお座りください。用意している部屋の様子も見てきますので、準備が出来次第、ご案内します。」


「すみません、急なお願いでしたのに、受け入れくださりありがとうございました。」

 リナがお礼を言い終えると、

「フォード公爵夫人ならば大歓迎です。遠慮などいりませんよ。」

 レスター伯爵はと言い残し、いそいそと部屋を後にした。


 リナの目は扉が閉まるまでジッと彼を見つめ、閉まると同時に鋭い眼光へと変わった。


 ***


 暫くして、部屋の扉が開き、レスター伯爵が戻ってくる。

「部屋の用意が出来ました。」


 そう言われて、皆、3階の客室へと案内され移動した。

 フォード親子は2人で使うには十分な広い客室へ。

 ハロルドとカイルはその部屋から反対側の廊下に位置する一人用の客室へと案内されていた。


 ***


 それから、ほどなくして奴らがやって来た。

 何処か近くの場所で待機をしていたのかもしれない。


 リナとオリヴィアの客室の扉が、レディへの最低限の礼儀であろうか、大きく二度ノックされる。

 中からの応答はない。

 扉は勢いよく開け放たれた。


 だが、そこは、もぬけの殻であった。


 扉を開けたのはテオであった。

 その後ろから兵士たちが雪崩れ込む。

 彼らの後ろに、ひっそりと居たのはレスター伯爵だ。

 レスター伯爵が手引きをしたようだ。


 レスター伯爵は居ないという声を聞き、部屋に駆け込んだ。

 姿をくらましたオリヴィアに憤慨し、父の書斎へと駆けあがる。

 書斎の扉をノックも無しに開くと、執務机へと駆け寄り父親に詰め寄った。


「父さん!!あの人たちが居ないんだ!王の物だ!王の物をどこにやった!!逃がしたのか!?」

 肩で息を切らしながら、レスター伯爵は怒鳴った。


「落ち着けバカ息子よ。」

 そう言うと、書斎机の引き出しから何かを取り出し、立ち上がり、息子の元へとゆっくりと近づく、彼の肩を杖の柄でグッと手繰り寄せ、屈ませた。


 イタッとレスター伯爵から声が漏れる。

 すぐさま、老人が伯爵の首にネックレスを掛けた。


「馬鹿め、乗っ取られおって。だから、いつも言っているだろう。王女の忘れ形見マリー様の遺品を身に付けろと。」

 老人は自身の着けている腕輪を見てぼやく。


 伯爵はネックレスを掛けられた瞬間、憑き物が取れたと言わんばかりに、腰から崩れ落ち、床にストンと座った。

 何が起きているのか分からないと言った顔をして呆け、老人へと視線を向ける。


「私は…いったい…なんてことを…」

「意識を乗っ取られていたようだが、記憶はあるようだな。兎に角、今はそのまま乗っ取られたフリをして、家の中に居るあいつらをとっとと追っ払ってくれ。」


 老人に言われ、老人の視線の先の窓を見下ろす。

 中庭に居る数人の兵士を確認した。

 多くの靴音が聞こえてきているので、屋敷内にもいるようだと、レスター伯爵は消沈する。


「はあ、久しぶりに姫と一試合出来ると喜んだのに。残念だが、またの機会じゃな。」

 悲しそうに老人は呟いた。


「二番弟子が来ていたと言うのになんてことだ……一試合くらいしたかったのぉ…」

 絶望の色を顔に浮かべる伯爵を見て、老人は溜息をつく。


「それでこそ、お前だ。さあ、さっさと奴らを追い出せ。」

 老人は困った息子を急かした。


  ***


「それにしても、お母様はよく伯爵が操られていることを見破ぶれましたね。私は全く分からなかった。」

 オリヴィアは馬車内に向かい合って座る母親に聞いた。


「私も、鼠のように姿を変えているのならば直ぐに見分けがつくのだけれど、意識の乗っ取りを見分けることは、なかなか難しいわ。だたし今回は、自分の知り合いだったから、すぐに変だと疑えたわ。実は、レスター伯爵は私の事を二番弟子と呼ぶのよ。お父様の一番弟子は自分だと言い聞かせるように、人が居る時なんかは余計にね。伯爵の事は兄弟子と呼ぶようにと本人から言われているわ。そうじゃないと怒るの。フフッ。」

 思い出し笑いをしながら楽しそうにリナは語る。


「いつも出会い頭に一勝負挑まれるやり取りをされるから、今回もと思ったら、あんな紳士的な態度でしょう、かなり驚いてしまったわ。疑うしかなかったわよ。」

 それを聞いて、馬車内は納得の声を上げた。


「これからどうなるのでしょう…前回のルートを調べ上げられていたという事は、国境越えはかなり難しいのではないでしょうか?」

 エマが難しい顔をして声に出す。


「カイルがこの後、知り合いの所にお願いして、身を寄せさせてもらうと言っていたから。そこで腰を落ち着かせてから、話し合いましょう。受け入れてもらえるとよいのだけれど…」

 リナも心配そう表情が曇る。


 操られたレスター伯爵が先を外した瞬間から皆で作戦を立て、すぐさま行動を起こしたのだが、アドラシオン国内にいる以上、鼠が多すぎるので、情報が漏れやすく、いつどこで捕まるかと戦々恐々の状態なのは変わらない。

 立ち寄る場所は慎重に選ばなければならないのだ。


「どこへ身を寄せるのでしょうか?西へ迎えとのことでしたが…」

 オリヴィアがその質問をしたあとすぐに、その答えは聞かされた。


 馬車の窓がノックされ、先に出発したカイルから目的地を聞かされていたハロルドが声を掛けてきた。


「皆さん、クロスター領が見えてきましたよ。」



 カイルもレスター伯爵が偽物であると挨拶を交わした時に見破っています。

 実はカイルもマリー様に会いにフォード公爵と共にこちらを訪れたことがあるので、

 初対面ではありませんでした。

 さらに言うと【世話焼き騎士の~】の作中で駅で出会った老婆はマリー様です。


 それでは皆様、よいお年を。





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