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さようなら、僕の最愛の人

続きを読んでくださっている方々、誠にありがとうございます☆

 

 案の定、勘は当たっていたようである。


 父の話した内容を要約すると、彼女達は、ある消えた王族の末裔らしい。

 消えた王族と言うのは、今の西大陸のルトアール自治区、古代史におけるルタールがあったとされる地を治めていた王族だろう。


 ウィリアム・クロスターに成りすましていた者が、フォード公爵夫人を自分は耳にしたことが無いミドルネームを加えて呼んでいた。


 “リナ・アン・ルトゥ・ルタール=フォード” と。

 そして、彼女を“次期女王”と。


 奴はそう言っていた。


 アンはルトアールの最後の女王の名と同じである。

 よくルトアール国の王女に好んで使われていた名だと幼馴染のマーガレットが話していた。

 留学へ出発する前の送迎会での会話の中で古代史講義が始まってしまい、ウィリアムに付き合わされて聞きかじったものだ。

 それに、ルトゥ・ルタールは、女神ルトゥがこの大陸で人と同じように過ごすために自分で用意した名だとも言われていると、彼女が熱く語っていた気がする…


 こんな所で幼馴染との雑談が役に立つとは…ウイリアムは嬉しそうにニコニコと話を聞いていたが、私にとっては眠気と闘う時間でしかなかったのに。

 だが、今聞いておいてよかったと心から思っている。


 これは、ルトアール王族の血が彼女に流れていると言う事を示していたのだろう。

 それどころか、創生記に出てくる女神ルトゥにルーツが辿り着くとされている…。

 とてつもなく、高貴な血の持ち主なのではないか!?


 あの力は…女神ルトゥの力なのか!?


 その時、1人の男がバルコニーへと駆け込んできた。


「リナ!リヴィ!大丈夫か?」

「カイルおじちゃま‼」


 頼りになる親戚、カイルおじさんの登場だ。


「これくらい、お茶の子さいさいだわ。」

 リナがカイルの方を見ながら、得意げに話す。


「良かった!!!俺がいないほんの少しの間で、こんなことになっていたとは、かなり焦ったぞ。」

 走ってきたせいか汗が滴り、乱雑になった髪をかき上げて、カイルは息を整えるために1つ大きく息を吐いた。


「準備は整った。脱出ルートは確保してある。さっさとここから出よう!」

 そう強い眼光でリナに言った。


 リナは頷き、オリヴィアに話し掛ける。

「この国を一刻も早く離れるわよ。さあ、我が家へ帰りましょう。」


 その言葉にオリヴィアは真剣な顔つきになり、コクリと頷いた。


 振り返って、ヘンリーへと顔を向ける。


「ヘンリー…殿下。これまで、ありがとうございました。あなたのこれからの幸せを願っています…さようなら。」

 そう告げる。


 そして、その横に居るハロルドへと視線を移すと、力強く言い切る。

「行きましょう!!ハロルド様。」


「はい!!」

 ハロルドも満面の笑みで答えた。


 ハロルドがオリヴィアに駆け寄り、手を取る。

 手を固く繋ぎ、リナとカイルの後を追う。


 立ち去ろうとするオリヴィアをぼんやりと眺めるヘンリー。

 彼の思考内に先程のオリヴィアの言葉が反芻していた。


“さようなら”


 それだけは言われたくなかった…。


 ずっと、これからもずっと、君の隣に居るのだとそう想っていた。

 愛していたのに…


 もう、その未来は消えてしまった。

 悔しさと悲しさと憎しみと苦しみ、これからこの想いを抱え続けることになるのだと、確信している。


 そう考えると背中の小さくなっていくあなたに声を掛けていた。


「リヴィーーーーー!!!!」


 ヘンリーの声に気づき、オリヴィアが振り返る。


 呼び止めたはいいが、オリヴィアになんて言ったらよいのか、ヘンリーは全く考えついていなかった。


 だが、これだけは伝えなければと咄嗟に声に出す。


「俺は…君と一緒に過ごす時間が、たまらなく幸せだった…これは紛れもなく本心だ…紛れもない…本心なんだ…これまで本当に、ありがとう…」

 ぎこちない笑顔で、言葉に詰まりながら、話す。


 その言葉に、嬉しそうに笑顔を浮かべ、オリヴィアはこう返した。

「私も、あなたの婚約者であった間は、とても、とても幸せだったわ。あなたには感謝しかない。ヘンリー、これまで本当にありがとう。」

 そう言い大きく左右に手を振り、別れを告げる彼女は眩しく、キラキラと輝きを放つ。


 ヘンリーの瞳には、彼女に出会ってから常に、彼女はそう映っていた。

 あの裁判の時以外は…一瞬の悪夢の出来事。


 オリヴィアの言葉に、彼女と2人で歩む道はなくなり、ふたりで想い合い過ごした日々は完全に過去のものとなったのだと痛感する。


 苦しみが胸を支配したせいか、無意識で心臓の上にある布をギュッと強く握り絞めていた。

 泣くものかと、口元をきつく引き締める。


「さようなら、僕の最愛の人。唯一の想い人。心から愛していました。」

 そう、彼女の背を眺めながらヘンリーは最後に呟いた。


 彼女の傍らには、自分ではなく、すでに彼女の夫となったハロルドが居る。


 ヘンリーは気合を入れ直し、国を背負う覚悟を決める。

「好機です!すぐに兵を動かしましょう。」


「謀反人を捕えよ!!」

 ヘンリーが高らかに宣言した。



これにて、前半部、婚約破棄編が終わりました。

次回から女神の帰還編、後半戦へと突入します。

まだ全てを書き終えていないのと本業が忙しく、一気に投稿はできませんが…

少しずつですが投稿してまいりますので、どうぞよろしくお願いします。

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