入場(穴だらけ作戦開始)
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第二王子とオリヴィアの弟たちが待機している部屋へと連れて来られたオリヴィアは、不穏な空気を纏っていた。
第一王子以外は、部屋に入ってきた彼女の姿を見た瞬間、ただならぬ殺気を感じ取っている。
そんなことなど気が付くことなく、ジョージがオリヴィアの隣で嬉しそうに話し出す。
「お前たちに本日の作戦を伝えよう。」
不穏な空気を感じ取っていた者達が、そのジョージの言葉を聞き、何かを察してオリヴィアへと目線を送り、同情心を向けてきた。
ジョージが作戦を話し終えると、皆は目を丸くした。
その時、ノック音と共に
「皆さま、そろそろです」
と、侍女が扉越しに声を掛けてくる。
「では、行って参れー!」
元気よくジョージが小躍りしながら、部屋から出る者達を笑顔で見送った。
回廊を歩く姉に向かって、オリヴィアの3つ下の弟イアンが恐る恐る声を掛けた。
「姉上、だ、大丈夫ですか?」
オリヴィアの首が勢いよく彼に向き、不敵な笑顔のまま答える。
「大丈夫…なわけないでしょう。」
返答は、かなり低い声で、口に潤いがないのかしゃがれていた。
ヒッと、イアンが小さく声を上げ、身を縮めた。
「リ、リヴィ…すまん。まさか、こんなことを兄上が命じるなんて…俺が兄上に変わって謝罪する。」
第二王子チャールズがオリヴィアへ近付き、申し訳なさそうに話し掛けてきた。
あの不敵な笑顔のまま、オリヴィアが返答する。
「チャーリー、ジョージに変わって謝罪なんて結構よ!!私は、私の与えられた役目を、誠心誠意、全力で務めさせてもらうわ!アハハ!アハハハ!アハハハハハハーーー。」
腹からでるオリヴィアの乾いた笑いが、回廊に木霊した。
「姉上が、壊れた…」
オリヴィアのひとつ下の弟ユーグが恐怖におののいた表情で呟いた。
ちなみに、先程、ジョージから説明された身代わり作戦はこんな感じである。
まず、私とチャールズが庭園へと現れる。
私は名を名乗らず、第二王子と親しそうに振舞い、知らない者には第一王子本人であると思い込ませるらしい。
たったこれだけで、第一王子だと思わせるらしい。
これを、ジョージは簡単だろう?と鼻を高々にして言うのよ…馬鹿なの!?
馬鹿だよ!!馬鹿すぎるよ!!!
そして、私を第一王子と思い込んだ令嬢達が私へと擦り寄ってきたら、その者達を誘導し、奥の指定されているテーブルへと座らせなければならない。
その後、ジョージが庭園に姿を現す。
そして、自分が第一王子で、私の事はサプライズの催しであったとネタバラシするというものが王子の計画らしい。
かなりの穴がある。
それもそこら中にドデカイ大穴だらけ。
もうね、気がついているでしょう…
この作戦は中身がスカスカ、失敗確定なの。
私のもとへと第一王子の顔も知らずに集まった者や本人が登場後に擦り寄る者を除外し、王子と言う肩書や外見を重視しない素晴らしい王子妃候補を選ぶという最高のプランなのだと、本人は大変満足なワクワク顔で言うのだから、これまた厄介である。
かなり頭がわる…失礼、彼は王位後継者の王子様であったわね…大変、個性的な考えをお持ちの想像力が豊か過ぎる男でありますわ。
きっとそう言う人を好む極少数派の者が、彼をお慕いすることとなるのでしょう。
母達も交えてのお茶会で交流していた幼い頃の彼は、聡明で、努力家で、とても素直な性格で、幼いながらそれはとても紳士で…今とはかなり違った天使ちゃんだったのだけれど、どこでどう道を踏み間違えてしまったのかしら???
という事で、私は無遠慮なおバカな奴の作戦を、易々と手伝う気はないのです。
どうするのかというと、傷ついた自分自身のために、全力で女性達を自分のもとへ集め、復讐をすることにしたの。
つまりはジョージの妃候補を失くしてやるってことよ。
全力で行くわ!!
指をくわえて泣くがいいわ、ジョージ!!
オーホホホホホホ。
「殿下が参りましたー。」
第一王子の誕生16年を祝う会の会場、王宮の庭園に、私達が来たことを知らせる従者の声が響き渡った。
もちろん、殿下とは、隣にいる第二王子のことであり、私ではない。
入り口の私達の方へ、皆が一斉に視線を向ける。
誰よりも視線を集めたのは…もちろん、私。
だって見た目は若き日の国王にそっくりなのだから。
これぞ、生きた美術品☆動く芸術
TOP OF THE美少年!!
皆の前に居るオリヴィアの姿は、国で最も美しいとされる国王と瓜二つの若き美少年。
恐らく、オリヴィアの周りに甘い匂いがしそうな色鮮やかな花びらが舞い、そこだけライト当たっているようなステージのような演出が、ここに居る者たちの脳内に流れているだろう。
オリヴィアは観察と聴力をフル回転する。
「う、美しい~。」
「陛下に、とてもよく似たあの少年は、いったいどこの誰?はあ、素敵だわ~。」
「もしや、あの御方が第一王子なのかしら?キャッキャッ素敵。」
と言いながら、視線を送ってくる者が大多数。
視線攻撃が強く痛い…手な感じで第一王子の顔を知らない者は、ギラギラと私へ熱烈な目を向けてくる、知らない人がかなりいることに驚きだった。
どんだけ、社交界をサボっているのかとオリヴィアは第一王子に心底呆れる。
ジョージの顔を知っている者たちは、私が第一王子ではないと判ってはいたが、陛下にあそこまで激似のアイツは、いったいどこの誰であるかまでは、分からないみたいだから、こちらもチラチラと強い訝る視線を送ってくる。
陛下にこんなにもよく似た少年への疑惑の目を向けるが、美しさに言が付くと何故か頬を染めてうっとりしてしまいそうになる。
じっくりと考慮していた。
もちろん、オリヴィアの男装であると気が付いた者もいる。
その者達は目をひん剥き、驚きで固まっていた。
それもそうだろう、私を知る者はオリヴィアだと分かる。
そして知っている……私が人前で男装…いや、陛下に変装をするなんて、天と地がひっくり返っても在り得ないこという事実を。
それくらい私を知っているならばこの男装の強要は鬼畜な仕業だと分か。
ジョージが何の配慮もなくオリヴィアにこんな命令をしてきたのだと、彼らにはよく伝わったことだろう。
あいつは本当に糞野郎だな…。
誰にも聞こえないからとオリヴィアは心の中で悪態をつく。
庭園の中に進むと、オリヴィア達の周りに第一王子を知らない令嬢達が集まり、声を掛けてほしそうにキャッキャウフフし頬を染めている。
おおくの令嬢達に、いっきに話し掛けられそうで怖かったので、ほんの少し距離を置き、囲まれてみた。
驚くことに、集まったのは令嬢の半分以上であったのだ。
ジョージって、本当に顔を知られていないのだなと憐れみさえ生じた。
あとで聞いた話しだと、ジョージではないと分かっていたけれど、顔で釣られ近づいてしまったという者も大半いたらしい…恐るべき国王のご尊顔。
それより気になったのは、声がギリギリ聞こえるか聞こえないかの位置に、第一王子推薦の側近候補で王子と普段から親しくしている友人達が集まっていること。
彼らがこちらを見ては、コソコソと話し、にやけて笑っているのが確認できる。
それを見て確信した。
これを計画したのはバカ王子だけではないのだと…アイツらもグルだったようだ。
ジョージは友人選びが下手過ぎる。
現に王立学院へ入って、高等科であいつらとつるむようになってから、最低でろくでもない男となり果てているのだ。
あいつ等…絶対に許さない!
許さんぞ、こら~!?
お前達の顔はこの目にしかと焼き付けたー。
これ以上はないと言うくらいの生き恥をかかせてみせるからな。
これからの人生、笑って過ごせると思うなよ!
オリヴィアは心の中で呪いの言葉を奴らに向って放つのである。
いよいよお茶会が始まりました。
オリヴィアは令嬢達を上手く誘導できるのか!?