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母の主張

ありがとうございます★☆★


 リナは黙って聞いていたが、途中からオリヴィアの背中を摩る手を止め、固まっていた。

 これほどまでに酷く娘は傷付けられたのかと、怒りで思考が支配され、動きが無意識に止まっていたのだ。


「分かった。あとは母に任せて。リヴィはもう何も考えなくていい。悲しまなくていい。大丈夫、大丈夫よ。」

 そう優しく最中を丸めて、深く傷ついているオリヴィアへ言い聞かせる。


「許さない…ギリッ」

 もう、バレてもいい。

 そんなの糞くらえだ!?

 極省の恨み節と怒りのこもった歯ぎしりは誰にも聞こえていなかったが、リナの本心がみっちり詰まった音を奏でていた。


 リナはお香の置かれていた位置へと目をやる。

 お香の置かれていた場所の上に丁度いい水差しを確認すると、聞き慣れない言葉を怒りのこもった低い声で呟く。


「$◇%」

 その聞き取りづらい不可思議な言葉を発しながら立てた二本指を下へと傾けた。


 その瞬間、卓上に置かれていた水差しがガタンと倒れ、水がザバーっと流れ、床に置いてある香へと狙うように水が落ち、香の火が消えた。

 水差しが倒れた瞬間に自信が濡れないようにと席を立ったラックランド伯爵は足元のビチョビチョになったお香を発見し、不思議な感覚に襲われ、それを見つめている。

 その隣でも同じように席を立ち、自身へと水が掛かるのを回避したドルトムントは、香が消えたことに悔しさを滲ませ、クソっと小さく声を出す。

 そして、リナの方を見た。


 そんな様子はお構いなしに、リナは動きを止めない。

 次に大きく手を広げ、またもや謎の言葉を小さく呟いたのち、目の前で両手を大きく叩いた。


 パンッと掌が合わさり弾かれ大きな音を発した。

 同時に室内のあらゆる窓と扉が開いた。


 そして、二本指を唇の前へ置くと息を吹きかけ、指をクルンクルンと前へ向かって回しながら、さらに謎の言葉を放つ。


 一瞬にして、部屋から外へと強風が吹き出す。

 強い風に、帽子が舞い飛ばされてしまう者、目が開けてられずに瞑る者、手や腕などで顔を覆い防御する者や体を縮める者もいる。


 風が静まると、室内の煙とあの匂いは完全に消えていた。


 そして、仕上げだというようにリナは窓を見回し、隠し持っていた鞭をドレスから素早く取り出すと、床に叩き着ける。


 床を鞭が叩く音と共に大きな声で叫んだ。

「#%$%&!!」


 その張り上げた声と共に、多くの者達が我に返る。

 国王もヘンリーも、ハッとして我に返る様子が、リナの目に映る。


 リナは皆の様子を一通り見回し、術は完全に解けたと判断すると、オリヴィアをその場に残して一歩二歩と前へ出る。


 正気に戻った者達は、意識を操られ、はっきりしていない時間があった所為か、自分がどのような状況に置かれているのかを把握しようと勤しんでいる。

 多くの貴族は記憶が途切れ途切れなようで、意識はまだフワフワとしていた。

 リチャードの進退決定後から、何故だか賛同してしまったオリヴィアとヘンリー殿下との婚約破棄までを、鮮明でないが自分の言ったことや、やったことは記憶していたのだ。


 何故そうしてしまったのかは分からないがその瞬間は、ヘンリー殿下の婚約者に強い憎悪を抱き、正義の為にと行動していたのだと、そこに居る者達は認識していた。

 だが、我に返り、とんでもないことをしてしまったと、皆が皆、蒼白な顔色を浮かべている。


 その間にも、リナは一歩一歩前へと歩み続ける。

 横目で、慌ただしい動きをしている扉の方をチラッと確認しながら…。


 先程のリナの行為によって突然開いた扉から、兵士の隙をつき、ハロルドが室内へと押し入っていた。

 追いかけてくる兵を引き離し、室内の最奥に居るオリヴィアのもとへと歩みを進め、必死で駆け寄った。


 何故だか、ハロルドはオリヴィアの居る場所がはっきりと分かるのだ。

 苦しんでいる感情も伝わってきているような、そんな気もしていたので、全力で掛け寄っていく。


 そして、とうとう、オリヴィアの傍まで来る。

 彼女は椅子に座り、下を向いて両手で顔を覆い、体を縮め震えていた。


 ハロルドはそんなオリヴィアを直ちに抱きしめたかったが、ここには多くの人目があり、婚約破棄の事をまだ知らないハロルドは、彼女には婚約者がいるとの認識し、推し留まる。

 頭に掌をそろそろっと伸ばし、優しく大きな手でポンポンと、慰めの気持ちも込めて、私が来たぞと合図を送った。


 オリヴィアはその手に反応し、顔をパッと上げた。


 ハロルドを確認すると、ボロボロと涙を流す。

 声は唇を噛み、押し殺して、酷く悔しそうに。


 そんな彼女の表情を見ていられずに、思わずハロルドは自身の胸にオリヴィアを引き寄せた。

 オリヴィアはハロルドの胸に顔を埋めて、彼の肩の服を掴み、泣いた。

 くぐもった泣き声が、ハロルドに響く。


 彼女がここで酷い心の傷をおい、1人で歯を食いしばり堪えていたのだと分かり、傍に居られなかったことを悔やむ。

 オリヴィアを安心させたくて、彼女の背に手を回し、優しくゆっくりと上下に撫でた。


 その様子をリナは歩みを一瞬止めて見ていた。

 2人の寄りそう様子に案著する。

 そして、再度進行方向へと向き直り、リナは目線の先に居るアドラシオン国王に向かい歩いて行く。


 堂々と、王の前へと歩みを進めるリナに、多くの貴族の目が注がれる。

 高貴な貴族は彼女に会ったことがある。

 ウェルト国王の弟がまだ王子であった際に、王子妃として同席していた人物であったからだ。

 現在の王弟は、王の臣下となり、公爵を名乗っている。

 つまり、この彼女は、フォード公爵夫人。

 ヘンリー殿下の元婚約者オリヴィアの母親だと気づく。


 そして、彼女が十数年前となんら変わらぬ20代前半の美貌であることに、多くの者が驚き、釘付けとなっていた。


 リナは王の前に立つと、こう言い放った。


「失礼ながら、王様へ具申いたします。私はウェルト王国フォード公爵の妻であり、ここに居るオリヴィアの母親です。この度、我が娘とヘンリー殿下との婚約が、娘が行ったとされる悪行の証拠がいっさいないにもかかわらず、あらぬ疑いと懸念から一方的に破棄されたとお聞きしました。我が家は婚約当時に作成した契約とは大きく異なる事態に到底納得がいかず、アドラシオン王国への不信感を強く抱いております。この娘への謂れのない嫌疑に対し、我が家は強く抗議します。我が娘を公然と侮辱されたのですから断じて許せることではありません!!…ですが、娘に対するいわれのない嫌疑の取り消しと、この場でコレを認めてくださるならば、怒りを治めることといたしましょう。婚約破棄が起きた際の最善の対策として娘に用意していた物です。コレをそこに居られる大主教様に即座に認めていただきたいのです。」


 そうリナは懐から取り出した丸めた用紙を王へと向け、堂々と話してみせた。


強いぞ母さん!頑張れ母さん!




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