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魔女

いつもありがとうございます


 本来の議題であった第一王子の殺害についての決着は、第二王子の側妃の謀反により、第二王子の自白がなされ無事に片付いた。

 そこまでは何も問題は無かったそうだ。


 裁判決着後に、この部屋に漂う不審な香りが急速に濃くなり、部屋全体に広まっていることにオリヴィアも気が付いたという。


 そして、匂いなど気にも留めていない飄々とした声の主が、陛下へと進言した。


 その声の主はウィリアム・クロスター。

 いや、クロスターに扮した男、ドルトムントはこう言ったのだ。


 “陛下、世継ぎが決定した今こそ、王太子妃を我が国の貴族令嬢からご推挙願いたい” と。


 そして、その場で自身の妹のキャサリンを強く推したと言う。


 それに賛同するように、ヘンリー殿下と年頃の近い令嬢を持つ貴族たちが次々に名乗りを上げていく。


 そして、遂に始まったのだ。

 第三王子の婚約者おろしという名のオリヴィアへの攻撃が…。


 偽ウィリアムの発言直後のヘンリーは、強くその意見に抗議し、その都度否定していた。

 だが、あの香りが濃く広がるにつれて、会場内の雰囲気とヘンリーの意見は大きく変化していったのだという。


 当初、オリヴィアのみだけが我が妃となると強く語っていたヘンリーであったが、この国の貴族の娘を側妃に添えてもよいと意見を替え始めたという。


 その言葉に、オリヴィアは酷く動揺した。

 一夫一妻制のウェルト王国では、王族だけは世継ぎ問題があるので特別例外で第二夫人を持つ場合があるが、これまでその選択をすることは無く、一夫一妻制が当り前の認識であると、オリヴィアは婚約前にヘンリーへ語ったことがある。

 その際、ヘンリーはこう言った。


「アドラシオンは側妃や愛人を所得の多い者は持てる制度があるが、自分は一夫一妻制が好ましく、リヴィが自分の妻であり続ける限り、側妃は絶対に持つことはない。我が真名を懸けて誓う。」


 そう、オリヴィアを強く見つめて語ってくれていたのに…


「リヴィだけを大切な存在とし、死ぬまであなたひとりを大事にする」

 そう続いて強く語ったあの言葉は、偽りであったのかと、チクリと心を傷つける。


 しかし、第一王子が亡くなり、第二王子が幽閉され、この国の次期王となった今のヘンリーの立場を考えると、致し方がない事なのかもしれないと脳裏をかすめ、オリヴィアも考えがぶれ始める。


 アドラシオン王国は富のある者が第二夫人や妾、愛人を囲い、子を成す事を社会貢献として認識され寛容されている。

 そう言うお国柄だから…仕方がないのかもしれない…


 と過りはしたが、そんな理由だけでは、偏屈なオリヴィアは意見を丸呑みし変えるという事にとうてい納得は出来ない。


 やはり、ヘンリーときちんと話し合えれば分かってもらえるはずだと、なりふり構わず問いただしたくなる気持ちをこの場ではといったん飲み込み、心を落ち着かせる。


 もし、もしもの話だが、彼がどうしてもと側妃を迎えたとしても、自分のことだけを愛してくれるはずだと、その時はそう考えるしかなく、なんとか心を落ち着かせた。


 これ以上、この場で事を荒立て騒ぐことをしてはいけないと、口を噤む。


 さらに話が進むにつれて、我が国の令嬢が正妃になるべき。

 オリヴィアは側妃にという流れに変わっていく。


 これも次期王となるヘンリーの立場を考えると致し方が無いことなのかもしれないと、室内の熱気あふれる強力なプレッシャーにのまれ、これについてオリヴィアは全く納得していないが、後でヘンリーときちんと話さなければと、一先ずここでも黙っていた。


 今は、色々なことが一気に起こり、気持ちが高ぶり騒いでいる貴族たちを前にしているため、何も語らない王族側の者達は彼らを納得させる巧い言葉を熟慮しているに違いないと、ヘンリーを不安気に見つめて、オリヴィアはそう思い込むしかなかった。


 自分を信じて黙っていてくれ、ヘンリーからの伝言だと母からそう聞いているし…。


 いったんこの案件は持ち帰るなりして、後々にきちんとした場を設けて臣下達を説得し、オリヴィア以外は妃を持つことはないと言ってくれるだろうと、そう考えるしかなかった。


 長い間を婚約者として過ごしてきたことからも、ハッキリと心に刻まれている。

 自分はヘンリーに愛されている。

 それは紛れもない事実なのだから…。

 だから、どんな形であっても2人の心は離れずに自分だけを愛し、自分を傷つけるようなことは決してしないと、疑いもしなかった。


 それなので、ここでは何も発せず、じっと我慢し、成り行きを見守っていたのだ。


 ヘンリーが口を出さずに全て自分に任せろと、この部屋に入る前に母からの伝言でも聞かされていたし、彼を、彼の言葉を全面的に信じて…。


 だが、思いもよらない状況へとオリヴィアは追い込まれて行くことになる。


 突如として、オリヴィアとの婚約を白紙にという話が持ち上がったのだ。

 これにはオリヴィアも勢いよく立ち上がり、否定意見を述べた。


「ここまでのお話しを静観してきましたが、婚約の白紙とはいかがなものかと思われます。納得できません。その発言の撤回を要求します。」


 しかし、もうこの時点で、オリヴィアの意見に賛同する者は、この空間には一人もいなかった。

 ヘンリーも発言したオリヴィアを睨みつけ険しい表情を向けてきていたのだ。


 否定意見を述べたオリヴィアを、ヘンリーが強く、強く、睨んでいたのだという。


 あんなにキツイ目をヘンリーから向けられたのは初めてで、背中に冷汗を掻き、酷く戸惑ったとオリヴィアは涙目でいう。

 再びその様子を思い出したのか、唇を震わせている。


 発言をするなと言われていたのに発言してしまったオリヴィアに対して、ヘンリーは怒っているのだと、あの瞬間はそう考えたのだが、そうではないのだとオリヴィアは次の会話で知ることとなった。


 まずは、偽ウィリアムが否定意見を言ったオリヴィアに対し、傲慢で性悪な女だと指をさして大きな声で罵倒した。


「こんな悪女がアドラシオンの王妃になろうとしていたとは、なんと甚だしい。自国の恥だ。やはり、この婚約は絶対に認められない!破棄するべきだ。」

 そう言い出したのだ。


 それに続くように、ラックランド伯爵が立ち上がりこう言った。


「彼女は魔女である!!」

 と、室内に響くほどの大きな声で言い放った。


 自分の妻の心をも操り、一時期は自身も洗脳されていたのだと主張しだす。

 彼女の味方へと引き入れられ、自分の意志ではなく洗脳され動かされたのだと訴えたのだ。


 それからは、オリヴィアを人の心を操る魔女と扱い、多くの者が口々に悪意を向ける。

 オリヴィアをこの国から排除しろ、男を外見で惑わす性悪な妖女だなどの侮辱の言葉を用いてそれぞれ好き勝手に言いだした。


 一通り、部屋に居る者達がオリヴィアに対して暴言を吐き終えた頃、ヘンリーが口を開く。

 オリヴィアを助ける為ではなく、悪意ある者達に続き、追い打ちをかけたのだ。


「私はこの魔女に騙されていた。私に対する気持ちが無いのにも関わらず、私の婚約者の地位に居たがために嘘を吐き続け、私を惑わし弄んだ。皆の言う通り、性悪な魔女だ。ウェルトの世界一美しいと称賛されている国王にそっくりだという理由で、自国では避けられ、可哀相な女だと同情したのが大きな間違いだった。この私が婚約者にしてやったというのに、あの態度は見過ごせない。お前はやはり外見だけ。中身は傲慢で世界一醜い。今、ハッキリした。陛下!!私、ヘンリーは願います。この婚約を破棄させてください!」

 と、高らかに陛下へと願い出た。


 そして、先程の結果へとつながったのだと言う。



婚約破棄までの成り行きでした。

これからどうなるのでしょうか?

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