裁判3
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「本当にあなたは知らないのですか?サンセット卿によく似た人物を馬車から回収したと言う男の証言があるとしても、あなたは知らないと言い続けられるのですか?」
ヘンリーが怒りを通り越し、もはや、冷え切った表情で言う。
その言葉に、リチャードは顔を引き攣られながら、言い返す。
「お前の言うことなど、全て嘘に決まっている…」
「その者をここへ。」
そう言われ、連れて来られたのは、頭に布を巻いている格好の男であった。
「この男は、リチャードに雇われ、後始末を依頼された男だ。3日前の夜に何者かに殴られ殺されかけているところを友人達に助けられ匿われていたのを保護した。襲ってきた者達は、全て捕まえてある。この者の仕事は、馬車からある男を回収することだったそうだ。さあ、あの山中で見て来たままを、ここに居る皆に話すのだ。」
ヘンリーがそう言うと、男はどもりながらも、話し始めた。
「お、俺は、街で便利屋をしております者でございます。出自は辺境に近い小さな領地の男爵家の五男でして、王都へ出てきて結婚し婿に入りました。嫁の実家の商会を手伝っている傍ら、護衛や仕事の手伝いと言った便利屋もしております。7日程前に御貴族様が店にやってきて、ある馬車に乗っている男を連れてきてほしいとの依頼を受けました。あの日です…デーヴィッド殿下が亡くなった日にやるよう頼まれました。俺は朝からご貴族様の代理人だという男と共に荷馬車を動かし、モリート山へ向かいました。山の中腹で荷馬車は隠し、待機していろと言われ、かなりの間、待ったのです。そして、大きな音がした後、落下した馬車の中に居る者を目立たぬように一人で連れてこいと言われ、急いで仕事に取り掛かりました。俺が駆け付けると、装飾は割れ粉々に散乱している横たわった状態の絢爛豪華な馬車が無残にありました。その馬車内を覗くと血まみれの男がひとり倒れていました。その者は見た目よりも体重があったので俺は一人では運べず、歩いてもらうしかなくて、肩を貸しました。依頼主には胸に星形の勲章を着けている人物を連れて来るようにとのことでしたから。その者で合っていたのです。ですが、獣道に入る出前で、思わぬ人物と鉢合わせしました。第一王子様です。王子様はフラフラと体を揺らしながら、俺らの前を歩いていました。恐らく、馬車道へと出る道を探していたのでしょう。それを目にした怪我人が、私の肩から腕を外し、しゃがみ込んだと思ったら、勢いよく立ち上がり王子様目掛けて、突進して行きました。そして、王子様に襲い掛かったのです。」
皆が一語一句漏らさぬよう聞き入る。
「本当に恐ろしく、信じられない光景を見ました。王子様は頭を殴られ、その場に倒れたのです。そして、男は石を投げ捨てると、王子様の腕を掴み、引きずり始めました。王子様を襲った男は、俺に石を隠すように命令しました。体が強張り、動けなくなっていた俺はガタガタ震えながら、何とか石を掴み持ち上げました。王子様を殴って殺した凶器です。それが自分の手の中にあり、頭の中はパニックとなりました。そして、石を持ったまま馬車道近くまで来てしまい、このまま持ち帰っては大変なことになると、慌てて、馬車道の手前でそれを投げ捨てたのです。」
証言者以外、沈黙は続く。
「そして、王都から離れた土地まで王子様と怪我人の2人を運ぶよう指示されました。そして後日、その者たちを再びあの山に運び入れるよう命じられたのです。後日出向くとあの時の怪我人が、すでに亡くなっているなんて…死体を見た時には驚きました。この依頼を引き受けた事を酷く、後悔しました。俺も殺されるだろうと…王子様のご遺体は見つけやすい場所へ置くよう指示され、もう一人は酷く顔を潰されており、さらに獣に食わせろとの命でした。ですが、俺にはそのような事は出来なくて。遺体の上に丁重に草木を被せて見つからぬようにし、放置してきました。そして、俺は逃げ出しました。」
言い終えると、大きな息を吐く音がそこかしこから聞こえてくる。
皆、息を忘れていたようだ。
「彼の証言と医師のご遺体との見解が一致しています。ですが、先程、リチャードはこう言いましたね “あの山の山中で私の遣わせた臣下が遺体を見つけたのだ。遺体は獣に食われ無残なものだったのだそうだ” と、医師の見分は公表しておりませんから遺体の状況は知らなかったのでしょう。ですが、貴方の述べたものは、先程の彼が指示された内容ととても酷似していますよね。」
ヘンリーがそう言うと、
「言いがかりだ!!」
とリチャードが顔を真っ赤にして叫んだ。
明らかに怪しい。
質問が続く。
「第一王子を襲った者の顔はみたのか?」
「あ、はい、そこにおられる怪我をしている御方、第一王子様の側近として有名なサンセット卿の顔によく似た男でした。背格好もよく似ていたと思います。ただかなり重たかったです。頭から血を流し、引っ掻き傷だらけでしたが…本当によく似ていらっしゃいましたね。でも、似た感じだと思いましたが、言葉に訛りがあり、貴族とはとうてい思えない街のごろつきのような発言を度々していたので違和感がありました。この人は騎士様ではないって。」
貴族たちは固唾をのんで、黙って話を聞いている。
重い雰囲気を気にすることなく、男は声を上げた。
「なんだ。その者が似ていたと証言するのならば、、やはり偽者ではなくブルース・サンセットが犯人という事であろう!」
リチャードがドヤ顔で高らかと言いのける。
「だから違うって言っているではないですか。よく似た者であって、犯人はサンセット卿の偽者なのですよ。埋められていた遺体には、手に酷くかぶれた痕がありました。王子を襲って顔を潰されたとされる男です。その男の手はある物を触った所為で、ただれていたのです。凶器とみられる石に付着していた植物のようなもの、調べた結果それは漆でした。この国には珍しい北西の極一部でしか見られない植物です。あの山の兄上が襲われたという獣道付近に生息しているのが確認出来ました。どこからか、鳥や獣により種子が運ばれたのでしょう。そこに置いてあった漆付きの石を掴み、彼は犯行を行い、手に症状が出たようです。ですが、そこにいるサンセット卿にはそんな痕はない。たから別の人物です。」
ケント医師が立ち上がり、医師の立場から発言した。
「すでに治ったのだ。そう違いない。」
リチャードがその話にケチをつける。
「いいえ、最初から症状は見られませんでした。彼も漆に反応する体質だと思われます。果物のマンゴーを食べると体がひどく腫れ、痒くなるとのことでしたから反応が強く出る体質なのでしょう、彼が漆に触れれば、今頃大変なことになっているはずです。おそらく、治るのに1,2週間くらいはかかるかと思われます。証明するためにもこの場で、漆を彼に塗りましょうか?」
ケント医師が言い終えると、リチャードは黙った。
「この者が証言するように、ブルース・サンセットによく似た男がおり、兄を騙し殺害したのです。そして、そのよく似た男の遺体も見つけ出しましたが顔は潰されており、識別は困難でした。だが、この男の証言通りの場所で見つかっています。」
ヘンリーが続きを淡々と話す。
「へ、ヘンリー!何を始めたかと思えば、お前は、そのように薄汚い男の言葉を鵜呑みにするのか?そいつはお前がでっち上げた仕込みなのではないのか?そんな男の証言を誰が信じるのだ。」
リチャードが鼻で笑い飛ばしながら余裕があるように装い話す。
「仕込みではありませんよ。彼は王都の北西街に店を構える皆もよく呼び寄せているでしょう、レンガの建物が目印のあの商会の娘婿です。身分のきちんとした我が国の民です。彼、1人の話ではあなたは認められないということなのですね…では、これならばどうかな。彼は北西街の商会の娘婿と、先程言いましたが、逃げていた彼が、我々に囲われ連れていかれるのを見たご近所の方々が勘違いをして、人の好い彼を救おうと多くの証言をしてくれました。彼は貴族に騙され逆らえなかっただけだと。彼の元を訪れた貴族、例の依頼をした者の容姿や言動を証言する者が大勢いたのです。そしてその中には王都治安隊の貴族出身者も数人居ました。そして彼らの証言は一致していました。豪華な馬車を狭い路地に乗り着けて道を塞いでいたようで記憶していた者が大勢いたようです。その訪れた貴族の特徴は、黒いローブを深くかぶっていたが、明るい金色の髪色が零れ落ちており、ウエーブが肩程まであったそうだ。目元は、ローブで隠していたのではっきりとは見えなかったがギラギラした大きな目がチラチラ見えていた。薄い唇の左上に小さな黒子があり、声が男性にしては高かったそうだ。目立たないように振舞っていたが、あの場ではかなり悪目立ちしていたらしい。御者にここで待てと大きな声で命じて周りをキョロキョロ見渡して怪しかったという。そして、その男はある飾りの着いた剣を腰から下げていた…その模様は豚だ!そう、そこに居るクロウエア伯爵家の家紋です。そうそう、今、あなたが腰から下げている物と全く同じようですね。遺体の処理を依頼したのは、あなたですよね?クロウエア伯爵!」
そう名指しされた人物は、証言のまんまの姿の男であった。
もはや、言い逃れが出来ない。
漸く、先が見えてきました。
あと少し。
リチャードが簡単には認めないんです…2時間ドラマの様に証拠を突きつけて追い込みたいけれど、ハイテク機械がないからうまくいかない、もどかしい。