裁判2
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「陛下、私はここに居るリチャード・アドラシオンこそが、我が兄デーヴィッドを殺害、示唆した主犯であると告発いたします。」
そう逆に声を張り上げ言い切った。
場がざわつく。
「どういう事だ。説明せよ。」
王様が低音の重苦しい声で、ヘンリーへ命令する。
王の声にて、静寂となる。
「私は、デーヴィッド兄上の死に疑いを持ち、独自に調べを進めてまいりました。そして、犯人へと辿り着く証拠を見つけたのです。」
リチャードを強くヘンリーが睨む。
「これは、我が国のある貴族と公国の貴族との間で取引されている貿易の書類です。ここには、60日程あけた間隔で、陶器を取引している記録がありますが、実際には、その製品だけではなく、別の物が製品の中にギッシリと詰められ、我が国に運び込まれていました。武器です。西大陸で銃と呼ぶもの。それから火薬です。」
険しい表情でヘンリーがそう言うと、貴族たちが激しく騒めいた。
銃と火薬は近年、西大陸から伝わってきたものであり、危険なことが知られている。
アドラシオン王国では暗黙の了解で、王の判断が下るまで、手を出さないこととなっていた。
だが、判断に時間が掛かっているために、一部の貴族は、趣味の狩猟などに取扱っている他国から購入し、秘密裏に使い、楽しんでいる様であった。
だが、公には使われていないし、禁止だ。
隣国から貴族が大量に仕入れ儲けているとなると、王国に背く大きな事件だ。
反逆も疑われる。
「誰だ、そのような不届きものはいったい誰なのだ!?」
そう言った声があちこちから上がる。
その時、王の側妃が立ち上がり
「お待ちください!今はそのような密輸事件の話をしている時ではないはずです。デーヴィッド殿下の死の真相の話を進めるべきでは?今すぐにその話は止めるべきよ。なぜリチャードを疑うのかを今すぐに話しなさい。私は、リチャードは犯人ではないことを早く証明したいのよ。そちらの言い分を早く話なさい。」
と話を止めに入る。
その言葉に、
「陛下!この密輸事件は、兄上の事件の動機として、大きくかかわっている事柄なのです。関係なくはありません。」
ヘンリーが強く発する。
「うむ、関りがあるのか。それならば、ヘンリー、続きを申してみよ。」
側妃の意見を流した王様の一言で、側妃が扇を床に叩きつけ、ストンと椅子に座る。
「取引を行っていた者の名は、クィーンズ公爵!」
その名が呼ばれ、室内に緊張が走り、名を呼ばれたクィーンズ公爵へと視線が集中した。
「な、何を言っている。そんなものは嘘だ。こんな話、ヘンリーのでっち上げだろう。」
クィーンズ公爵が顔を引き攣らせながらオドオドと発言する。
「公爵、調べはついているのですよ。火薬以外にも、同じような手口で、配下の者を使い密輸をしていたことも。麻草に武器、希少がゆえに輸出を厳しく禁じられている宝石も全てね。そうそう、あなたが隠れ蓑に使っていた配下の1人、デリカ子爵家ですが、すでに捕らえられ、犯行の全てを自白しています。うまく経由して細工を行っていたようですが、契約書やそれぞれの証拠なども全て没収し揃っているのですよ。このことは陛下もご存知です。」
皆が王様に視線を集中した。
毅然とした凛々しい姿でヘンリーを力強く見つめている。
そして、皆は悟った。
この御方は全てを把握しているのだと、そしてこれは、ヘンリーに用意された独壇場の舞台なのだと。
「それから、公国側の取引相手だが…それは、側妃様のご実家であるルーヴィシュ公爵家ですね。そうです、この密輸事件は側妃様が仲介役として大きな役割を担っていたのですよ。」
貴族たちの視線が、国王の側妃へと移る。
「側妃によって引き合わされたニつの家が裏で手を組み、不正取引を行い、富を増やし、秘密裏に武器と火薬、輸出禁止製品を売りさばいていたのです。」
ヘンリーが言い終わらない辺りで、側妃が叫ぶ。
「違う!!そのようなこと、ルーヴィッシュ家は関与していないわ。おのれ、貴様!!証拠はあるのか!?それこそが、お前の言う、謂れなきでっち上げだろう!濡れ衣よ!濡れ衣を着せようとしているのよ!」
その声に、ヘンリーが淡々と答える。
「証拠?私が確証もなく、こんな話をするとお考えですか?もちろん、証拠はありますよ。それもふんだんにね。公国の新興貴族が、腐敗だらけの議会に嫌気がさしましてね。膿を出すことに決めたのだそうです。本日より10日程前のこと。隣国の公国議会で、新興貴族が中心となり全ての悪事の証拠を揃え、あなたのご実家を訴え出て、断罪が行われました。新興貴族からの報告では、不正取引を直接行っていたドナー男爵はこう証言しているそうです。ルーヴィッシュ公爵家に妻子を人質に脅され、やるしかなかったのだと語りました。ドナー男爵は、妻子を取り戻すためにと多くの証拠を残し集めて持っていました。取引相手のデリカ子爵家の事に始まり、関連する同行者の名簿や公爵家からの指示、話した内容やあらゆる書類などを事細に物証として残している。目撃証言を得やすいように事を運んでいました。このことは全て、兄上が公国の新興貴族と共に調べあげ内密に報告していたことなので、陛下は全てを知っていました。そして、公国議会が開かれた朝に、この話に大きく関与している側妃にも、兄上は彼らの用意した証拠の数々を口頭で語り、忠告をしたはずです。クィーンズ公爵と共に罪を認め、洗いざらい全てを陛下に話すようにと。そして自ら廃妃を申し出て、国を出るようにとね。」
その言葉に、側妃がハッとし、王様の方を見る。
王様は、悲しそうに側妃を見つめていた。
王様が全てを知っていたと悟ったのだろう、側妃が崩れ落ちる。
「母上を守るために、その為に私が兄上の命を奪ったとそう言いたいのか!?残念だが、私は義兄上の殺害には関与していない。ハッ、殺したのは、紛れもなくブルース・サンセットだ。奴がやったのだ。居なくなったのが何よりの証拠ではないか。」
「いや、まだだ。まだ見つかっていないのだから確証はない。本人から証言をとらねばならない。」
「状況的にあの者しか犯行を行えないのだ。証言なんて必要ない。それに奴に証言なんてできないだろう。」
リチャードがニタニタと笑いながら早口でまくし立て、続けざまに言い訳を述べる。
その様子を見て、悔しそうな顔をしヘンリーがリチャードに問う。
「なぜです。なぜブルースが証言できないと言うのですか?」
その声は小刻みに震え、表情が歪んだ。
リチャードに対して、なぜ素直に犯行を認めないのかと、怒りで腹が立ち、感情を何とか抑えていた為に震えていたのだが、相手にはそうは見えていなかった。
「ハハッ、お前もそんな顔をするのだな。教えてやるよ。ブルースはすでに死んでいる。だから、証言は出来ない。あの山の山中で私の遣わせた臣下が遺体を見つけたのだ。遺体は獣に食われ無残なものだったのだそうだ。だから、奴に証言は出来ない。」
「墓穴を掘ったな、リチャード。彼をここへ。」
ヘンリーが真顔でそう言うと、折れているらしい固定された左足を引きずり、杖を突いた男が入ってくる。
顔にもある打撲痕が痛々しい青年がよろける度に後ろに着く兵士に手を貸され、ヘンリーの横へとやってきた。
「彼は、誰であるかは分かるだろう。怪我が完治していないが彼は、兄上の側近ブルース・サンセットだ。全て、ブルースからも話は聞いている。もちろん、陛下もね。彼は話すことも一苦労なのだが本人に間違いない。分かっただろう。もう逃げ場はないぞ、罪を認め、全てを白状しろ!リチャード!!」
ヘンリーがブルースの痛々しい様子を目の辺りにして、鼻の穴を膨らまし、怒りに満ちた表情で言い放つ。
「ハッ、何が逃げ場はないだ。私の臣下が見つけた遺体が偽物であったと言うだけだ。それに見ろ。そこに居る男こそが、デーヴィッド義兄上を馬車から突き落とし、見殺しにした者、殺人鬼だぞ。あの時、その場に居合わせた者達がそれを目撃しているのだ。証人としてこの場に連れてきたはいいが、義兄上を殺したのはその男だ!その男に間違いない。その男をかばい盾するヘンリーは共犯者、いいや首謀者だ!」
ヘンリーに向かって、リチャードが反論した。
「この期に及んで、まだいうのか…ブルースは、兄を突き落としてなどいない。そればかりか、あの馬車にも乗っていないのだぞ。彼は、デリカ子爵家の納屋で見つかったのだ。世話をしていた者の証言だと、兄上の事件があった前日の夜には納屋に連れて来られており、すでに己では動けぬほどの暴行を受けていたそうだ。その間に…兄は亡くなっている。彼には兄上の乗る馬車に同乗することは出来ないのだ。」
怒りをグッと抑えてヘンリーも言い返す。
「では、いったい馬車に乗り兄上を殺したのは誰だというのだ!!私は知らぬぞ。お前は知っているというのか?」
焦りも混じっているのだろう、余裕のない笑みを浮かべてリチャードが言い返す。
裁判、もう少し続きます。
Memo
クィーンズ公爵:王弟、王の側妃大好き
デリカ子爵:クィーンズ公爵の手下
ルーヴィシュ公爵家:公国の貴族、王の側妃の実家
ドナー子爵家:公国の貴族でルーヴィシュ公爵に脅され悪事を手伝わされついた