初体験2
お読みくださりましてありがとうございます
ひとこと言わせて。
こっちこそ、ジョージだけはお断りだからねーーー!
これだけは譲れない。
性格悪すぎる。
あなただけは絶対に無理!?
海に向かって大声で叫びたーい!!!
えっ、ちょっと待って。
ということは、私の素敵な出会いは、すでに終了ってことよね…。
舞台の幕が上がることなく、終演のブザー音が鳴り響いてしまったようだ。
今日の出会いの為に、朝早くからお母様が気合を入れて着飾ってくれたのに。
私もお年頃だから、婚約者に有能な人を見つけなければいけないのよ。
ただでさえ、この容姿の噂は広がっていて、国王に怯える者か崇め奉る者しかいない国だから、私を信仰の対象か恐怖の標的にしかしない者ばかり…もう長いこと、会う前からお断りが当たり前になっていて、出会える機会が滅多にない…いいえ、微塵もないのよ。
外見がこれだから私は会話を交わして、中身を知ってもらいたいのよ…陛下とは違いますよってね。
その最後のチャンスが、たった今、消えたってことね。
今日は時期国王候補の誕生祝いと言うだけあって、家柄良し将来有望、これぞ間違いなしの優良物件(一部を除く)が、勢ぞろいだったのに。
こいつ、私の人生最大のチャンスを無にしやがった!?
クソックソッ、やっぱり今から殺処分してやろうかしら!
(まあ~待て待て。
早まるでないぞ~。
はいはい、深呼吸して、落ち着こうではないか~。)
おお、この声は、懐の深い、私の奥底に眠る良心様ではないですか!?
(ホッホッホ、コイツはこれでもこの国の王子
そして、今日はこいつの誕生会なのだ。
居なくなっては皆が困るだろう。)
まあ、そうですけど…。
(それに、少しはお祝いしてあげなければいけないし、
このことは大目に見てあげようではないか、
コイツも何かしらの考えがあり、
こんなことをしてしまったのだろうから、
まずは、話を聞いてみてはどうだろうか?)
私の頭の中で良心様が、異論のある他の私を説得した。
ということで、殺処分する前に、とりあえず言い分を聞いてみようとなったのである。
「それで、私に何をさせる気なの?」
「おっ、流石だなリヴィ。わかってくれたのかい?やはり君は僕に甘いよね。それにとても賢い。顔が父上じゃなければ、俺の妃にしてやったのに、本当に惜しいよな~。」
別に賢くはないし、お前に甘いってわけじゃない。
ほざくな!お前の嫁なんてこっちから願い下げだ。
という言葉を吐き出しそうになり、ギリギリのところで飲み込み、オリヴィアはぎりっと唇を噛みしめる。
「いいから早く話しの続きをなさい。」
イライラを隠さずにオリヴィアが乱暴に言う。
すると、およよ、月のものの日か?と斜め上の返事をするので、怒る気力が一気に失せ、逆に冷静になる。
オリヴィアは分かりやすいように大きくため息をつき、もう一度王子に話を促した。
「話を、進めてちょうだい。」
「君はせっかちだな〜そう言うところが王妃には向いていないのだぞ!分かったよ。進めるからそう睨むなって。お前も知っているだろう?俺は、社交界で顔をあまり知られていない。俺を侮辱する社交界の連中が心底嫌いだからな。それから、俺は社交界なんかで妃選びをやりたくない。俺は大恋愛がしたいのだ。我が国の王族は皆そうだったと父上から聞いた。俺も愛のある結婚を望んでいる。だからリヴィ、お前が必要なのだ。俺は王子の肩書だけで群がるような女は相手にしたくない。そこで、俺より先に、父上そっくりの恰好でヘンリーと共に会場に入ってほしい。まるでお前が第一王子かの様に振舞ってほしいのだ。そして、その後、俺が第一王子だと言って入場する。これで、見てくれだけを望むスケベ令嬢と肩書しか興味のない傲慢令嬢を篩にかけることが出来る。フハハハハッ!どうだ、我ながら名案だろう。」
「……そうですね。」
何故、あの両親から生まれているのに、こんな案しか浮かばないのだろうか。
この国で利発で有名な両親から、お生まれになっているはずなのに。
これが次世代の国王候補なのよね…。
ああ国王夫妻、さらに王国民よ、残念ながらウェルト国の未来は濃い霧に包まれているようです。
オリヴィアは、つい憐れんだ眼をジョージに向けてしまう。
その目を見たジョージが不機嫌声で言い返す。
「何だよ。」
「なんでもないわ。それより、その案だけれど、私が受けた場合の見返りはないの?私も今日、この社交場に最大のチャンスを求めてやって来ているの。お母様も今日の為に渾身の力を注入したわ。手ぶらでは帰れないのよ。まさか、何もないって事はないわよね?もちろん、優良な殿方を私に紹介してくれるのでしょ?そうなのよね?」
「え?リヴィに紹介!?無理!絶対に無理だよ、そんな事。この国に、リヴィと結婚したいなんて言う男はまずいないから。お前もあの噂を知っているのだろう?無理無理無無理、無理だって!皆がお前を、女とは思えない国王の影武者だって言っているぞ。ブハッ、ちょっと紹介は勘弁して!君に紹介なんて、無理だよ!ブハハハハッ。」
酷い返答だった……。
咄嗟の答えとはいえ、これは言葉の誤では済まされない発言だ。
こんな酷いことを何故に本人を前にして一切悪気も無く言えるのか?
気心の知れた幼馴染であったとしても、この発言は聞き捨てならない!
私は酷く傷つき、胸を強く抑え込まれたかのように苦しく、強い悲しみに襲われた。
もうここまで幼馴染に謂れ利何て、生きていけないかもしれない…そこまで追い込まれそうになる。
だが、凹んでいる自分に、おいっ、リヴィと、声を掛けてくる王子へと視線を向け、王子の顔を見た。
その瞬間、悲しみの感情は激しい怒りへと変わった。
半笑いで馬鹿にした表情を浮かべて見ていたのだ。
その顔に対して、ギリギリで押さえ続けてきた怒りの限界が、ヤッホーと挨拶をしてきた。
体中に電気が走った!
その際、オリヴィアの脳内で怒りスイッチがオンになる。
最高地の怒りが脳内に居る者達へと行き届く。
オリヴィアの脳内に住む寛大すぎる良心様も、これは見過ごせないと、反対派色に衣を翻し加わった。
そして、あることが満場一致で決定された。
“こいつの誕生会をぶち壊したれー!!”
“アイアイサー!!”
良心様の怒りのセリフと、皆の掛け声が脳内で強く復唱される。
出陣だと大槍を上空に向けて強く突き刺し、腕を振りかざす様子が浮かぶのであった。
「…そうね、分かったわ。その件を引き受けましょう。」
額に青筋を作りつつ、ニコッと笑顔を作り、ジョージへと返事をするオリヴィア。
その作られた完璧な笑顔に、ジョージは悪寒を感じながら、よろしく頼むと声が震えているのにも気づかずに小さく返す。
ジョージはこの時、いや、もっと早くに、オリヴィアの様子に気がつくべきであった。
お互いに母親の腹の中に居た頃から長い長い付き合いをオリヴィアとはしているのだから。
彼女が嫌がることを見返りもなしに簡単に引き受けたことや、彼女が自分の父親にそっくりであるという事実を心底嫌がっていることをジョージは知っていたはずなのに。
それなのに男装させられたことを全く怒らなかった。
いつもと違う彼女の行動を疑うべきであったのだと、今ここで気づいて誤っていれば…仕返しされてあんな目にあわされることもなかったのに。
そして、彼にとっての悪夢の誕生祝いが始まるのである。
次回もお茶会回想続きます。