時は来た
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「という事だから、いい、リヴィ。裁判になったら、ヘンリー殿下を真っすぐに見据えて、一言も発してはいけないわ。それを守ってね。」
「はい、お母様。」
部屋を出る前に母親と交わした会話はそれである。
母達は部屋を出てから、ヘンリー殿下と話が出来ないかと、彼が監禁されている塔の近くにて様子を伺っていたそうだ。
その時、物陰から声を掛けられた。
声を掛けてきた人物は、ラックランド伯爵だった。
家で、戻ってきたニコルから話を聞き、ヘンリーの裁判もあるので情報をかき集めていたのだが、そんな中、フォード嬢が王城へ連れていかれたと聞かされて、ニコルに彼らの手助けをするように頼まれ、慌てて王城へとやって来たそうだ。
そして、探し回っていた際に遠くにリナたちが見えたので周りに気づかれないように忍び足で来たらしい。
リナにはほぼ初対面であったが、手に持っていた鞭に彫ってある家紋を目視し、フォード公爵家の人だと伯爵は確信したようだ。
こんな小さな絵柄を、どこから見たのか知らないが、良く認識出来たものだと感心する。
リナの服装からして、王城に居るにはやや不審人物であったので、ここにいては悪目立ちしてしまうと言う事で、場所を移動した。
「目が良いのですね。」
「ええ、訓練したので。」
そんな会話をしたのち、有力な情報を得た。
「とにかく、フォード嬢を危険に晒すようなことの無いようにすると殿下はおっしゃっていました。婚約してからずっと、殿下は彼女を守れるよう全力で動いています。そして、この裁判で全ての決着をつけるつもりだと言っていました。もし、フォード嬢が裁判に出られるようならば、下手に喋らないようにしてもらいたいとの言伝です。自分を信じて全てを任せて欲しいと、そう殿下からの伝言を頼まれた。」
そうラックランド伯爵は塔を指さし、話したと言う。
それにより、先程の母親の発言へとつながるのだ。
王の間へと続く、長い長い回廊を兵士たちに挟まれてオリヴィアは歩いている。
母達がオリヴィアをその者達から守るように囲んでくれている。
王の間の前まで来ると、前を歩いていた兵士が道を開ける。
オリヴィアにが先頭で進むよう指示を出す。
それに従い、オリヴィアは扉の中央に立つ。
扉が開く。
中から光が漏れ、慌ただしく走り回る者たちの声が聞こえてきた。
準備に忙しく動いているようだ。
1人分ほど開いた扉の中へ進むように指示を出され、オリヴィアは足を踏み入れる。
中に入ったと同時に、パタンと背後で音がした。
扉が閉じられていた。
1人だけ、室内に入らされたという事実に気づくのに、数秒ほどかかる。
1人とハッキリ分かってからも、どうしてこうなったのかと不安が押し寄せ、暫く扉をジッと見つめていた。
***
扉の向こう側では、閉じられた扉を開けるよう、抗議する残された者達がいた。
「早くこの扉を開けなさい!!」
「我々はウェルト王国代表としてきているのだぞ。」
そう、母とハロルドがドア前の兵士に食って掛かった。
だが、その声に兵は、
「申し訳ありませんが、お通しできません。当事者と我が国の者以外は、入れるなとのお達しが出ておりますので。」
頑なに、拒まれた。
リナはオリヴィアの味方を部屋に入れないようにするための命令だと勘づき、酷く苛立った。
それを聞いたラックランド伯爵が口を開く。
「私が中に入り、彼女をお守ります。何かあればすぐに伝えましょう。」
そう提案した。
それを信じ、リナたちはこの場では一先ず引き下がることにした。
***
オリヴィアが王の間へと入室し呆けていると、声を掛けられた。
その者が席まで案内をすると言うので、後をついて行く。
室内は、まだチラホラとしか人は集まっていなかった。
奥の隅の壁側に位置する椅子へと、兵士に挟まれる形で座らされる。
何とも言えない圧迫感。
双方から向けられる視線は、不快感極まりない。
その後も、入室してくる貴族たちが、様々な意味のある視線を向けてくる。
居心地は最強に最悪であった。
そんな時に思い浮かぶのが、あの人、ハロルドの顔だなんて…。
今、隣にいて欲しい。
すぐに手を繋いでいてほしい。
その考えが過り、この想いを抱える自分は、これからヘンリーの婚約者としてどうしたらよいのだろうかと心が沈む。
だが、今はそれどころではない。
裁判という大きな不安が押し寄せてきている。
あの複雑な心を蹴散らすのであった。
そして、―――時は来た。
ヘンリーが入室し、オリヴィアに気が付きウィンクして通り過ぎていく。
国王が最後に入室し、部屋の扉は絞められた。
陛下が席に着くと、聖職貴族の者が声を高良げ話し始める。
「これより、裁判を始める。」
ガベルが打ち付けられ、緊張が一気に室内に走った。
次回から裁判が始まります