悩みの種
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
明日、投稿出来そうにないので、月曜ですがしちゃいます。
宜しくお願いします!
「よくやったわ~これで民衆のリヴィに向ける悪意は粗方回復できたはず。大衆紙の新聞記者もあの場に居たから明日には悪い噂は払拭されているでしょう。」
そう意気揚々と話している母親の横で、オリヴィアは疲れを隠せないでいた。
現在の状況は、王城の一室に押し込められている。
まあ、部屋は狭くはなく、テーブルと椅子もあり、お茶とお菓子もそこに用意されており、勝手にくつろいで待っていろと言った感じだ。
部屋の前に一人だけ、兵士が立ってはいるが、オリヴィア以外は出入り自由なようである。
「お母様…なぜもっと早くに馬車を寄こしてくれなかったのですか?私、城内に入ってからも、かなりの距離を歩いたのですよ。お陰でヘトヘトです。」
「え~!?だってあれだけの神格化した雰囲気を出して颯爽と門の中へ去って行っているのに、皆が見える場所で馬車に、よっこらせと乗ったりしたら、陳腐に見えるじゃない。それに、ハロルドがピッタリと支えて守ってくれていたから、問題はなかったし~いいじゃんいいじゃん、良かったじゃ~ん。」
カツラと眼鏡を取り外し、変装を解いている母がニヤニヤと笑いそう言う。
その言葉になぜだか言葉に詰まり、反論できないオリヴィア。
「…まあ、そうですけど。足がとても痛いのですよ。」
確かに歩いている時にハロルドがピッタリ横で支え、守ってくれていた事がもの凄く嬉しかったとは、言い返しづらい。
「あら?ヒールは高くなかったから、足の痛みはそうでもないでしょう?ねぇ、それは、誰かにアドバイスでも貰ったのかしら?あなた、ドレスの時は踵の高いヒールを履くのが拘りだったじゃない。」
オリヴィアの足ものと見ながら、母親がハロルドを見て言った。
「ハ、ハロルド様に…助言を頂きました。」
ハロルドの名を呼んだだけで頬を赤らめるオリヴィア。
「あ、はい、私が。」
名を呼ばれわんこの如く素早い反応を示して会話に躊躇なく参加する。
そして、目を合わせ、微笑む2人は、とても仲睦まじい柔らかい雰囲気を醸し出している。
おやおや、これはと、険しい目つきを一瞬する母親にも2人は気が付かない。
「それは素晴らしいことね~あなたは昔からとてもカッコいいし、ハロルドは素敵な人よね!!まだまだ未熟な娘に助言をありがとう。」
母親はそう言って、ハロルドの腕に手を回した。
ハロルドが酷く動揺する。
「んな、なんですか、いきなり!カッコいいとか、素敵だとか、出会った時からこれまで一度だって言ってくれたことないですよね???ちょっと腕、腕っ!やめなさい。」
明らかな挙動不審振りで顔を真っ赤にしてそう言うと、母親が絡めていた腕を慌てて外そうとする。
その時、母親のリナは注視していた。
この男の目線と行動、言動そして娘の動向に…。
案の定、娘は顔を曇らせ、酷く落ち込み、リナと目が合った瞬間に、即座に顔色を曇らせ逸らされた。
ハロルドも、チラチラとオリヴィアへと目線を送り、オリヴィアの様子を伺っている。
ああ、これはもう、そうなのか~この2人だったのかと、リナは確信した。
「冗談よ。私はテッド一筋だから~ふふっ、揶揄ってごめんね。」
と言い、パッとすぐにハロルドから腕を外し、離れた。
どうしたものかと、リナは大きな悩みの種を抱えることとなる。
トントン。
「カイルです。」
「どうぞ。」
カイルがそそくさと入室する。
「どうだった?」
母親のリナがカイルへと尋ねる。
リナを見て、やっと真面な外見に戻ったかと語っている表情のカイルが話し出す。
「ダメだ。あちらの重要な情報は聞き出せなかったよ。俺達が動ける範囲には情報を持った奴はいなそうだ。」
「そう、ありがとう。監禁もせず、緩い監視なのは情報が洩れる事の無いという自信の表れって事なのね。」
「そういう事!だがしかし、この優秀な外務大臣補佐にかかれば、少しは情報を手に入れられることが出来るのですよ。」
「よっ、優秀補佐官カイル!!流石、ウェルト一の凄腕諜報員!!」
リナが合の手を入れる。
「リナ、そう言うのはいいから。それで、良い情報と悪い情報、どちらを先に聞く?」
「では、良い情報から。」
「分かった。ヘンリー王子の事だが、監禁されているのは、あそこに見える塔の上層部だそうだ。そして、わりと、いや、かなり元気に悠々と過ごされているらしい。それから、捕まった時に、一切の抵抗をしなかったとのことだ。もしかしたら、何か考えがあるのかもしれないとも言われていた。」
カイルが報告すると、
「ああ、ヘンリーは無事なのね。本当に良かったわ。」
オリヴィアは案著する。
案著するオリヴィアを少し悲しそうな瞳でハロルドが見つめる。
そんな娘とハロルドを横目で見ながらリナが質問を続ける。
「それで、悪い情報は?」
「リヴィが王城へ到着したので、本日の正午より、王の間にて王子の裁判が開かれる。参加するのは貴族院でも上位の貴族と王族、聖職者、そして、リヴィだ。裁判は、ヘンリー王子への罪を問うものらしいが、リヴィの行く末も左右する。ヘンリー王子の言動次第では、リヴィが危うい立場になりかねない。」
カイルが頭を掻きながら話す。
「そんなっ。私達は何もしていないのに、罪を被るなんておかしいわ。」
オリヴィアも落ち込む。
「これでは情報が足りないわね。裁判までに、もう少し情報を集めましょう。あっ、そうだわ。あなた達、先程のこれにサインして!!大丈夫よ。最悪の事態の最終手段として用意するだけだって言ったじゃない。そんなことは王家との契約でもあるし、起こりっこないのよ。はい、ここにちゃちゃっとサイン。」
紙を差し出され、顔を見合せた2人は、唾を飲み込み、恐る恐る署名した。
「さぁ、カイル、行くわよ!」
そう署名された紙を丸めてしまいながら、リナが言うとカイルを連れて部屋を出て行った。
部屋にはオリヴィアとハロルドが残された。
不安でたまらないオリヴィアは、2人きりになったことも気が付かないほど気が気でない様子。
グルグルと良くない考えが浮かび、それをなんとか掻き消してを繰り返すので、心ここに在らずの状態となっていた。
ハロルドがポンと肩に手を乗せられたことで、意識を取り戻す。
刺激のあった肩へと視線を移すと、長い指の温もりのある大きな手が乗っかっていた。
ゆっくりと持ち上がるその手をまだ呆けた状態で見つめ、目で追う。
あ、顔が近くにある。
心細いけれど、ハロルド様が傍にいてくれるのね…。
「大丈夫かい?心配なのだろう?」
そう聞かれて、オリヴィアは声が咄嗟に出ず、涙目になりながら首を上下に振り、そうだと返事をした。
「だよね…殿下の事が心配だよな。私は君が心配だ。自分が警護を引き受けたくせに、こんなことになるとは…全て私のせいだ。どうして、君のように心優しい娘が罪に問われなければならないのか…神に誓っても罪を犯すなんて在り得ないと言うのに。」
ハロルドが自分に憤り、悔しそうに嘆くのを聞いたオリヴィアは、感情が爆発した。
彼は何も間違っていないのに、責任を感じている。
こんな自分の為に、悔しがってくれている。
自分に対してこんなに感情を動かしてくれているのだと、不謹慎ながら嬉しく感じた。
「ハロルド様…」
思わず抱きついてしまった。
ハロルドも一瞬戸惑った様子であったが、彼女の背中に腕を回し、抱きしめ返した。
「大丈夫、私が必ず守ります。」
そうハロルドは呟いた。
カタンと音がして、2人は急いで離れる。
その後すぐに、トントンとノック音の後に、入りますと母親の声がした。
すると、ゆっくりとドアが開き、カイルと母親が部屋に静かに戻ってきた。
「2人共、朗報よ。」
母親が飛び切り明るい表情で言った。
王城へつきましたが、ヘンリーは監禁されているようです