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反撃の種

いつも続きを読んでくださり、ありがとうございます


王都の中央広場を通り抜けて、王城へと真っすぐに伸びた道を走っているのが馬車の窓に掛かるカーテンの隙間から確認できる。


「そろそろですね。」

ハロルドが呟く。


捕まって直ぐに馬車で移動し、王都行の線のある駅へ到着すると臨時の王と直通汽車に乗り換えて王都の駅まで乗車した。

そこから、さらに馬車に乗せられて、ここまで時間をかなり短縮させて連行されている。

皆が馬車へと移り、漸く落ち着いてきた頃であるがもう王城に到着らしい。


 これだけのスムーズな運びに、どれだけの鼠が工作し動き、奴らの包囲に泳がされたのか、自分達は手のひらで踊らされたのだと、悔しくなる。


 その時に馬車が急停車したのだ。


 母のリナが馬車の窓を少し開け、カイルに話し掛ける。

「何かあったの?」


「王城の城門前に多くの人々が集まって騒いでいます。道が塞がれ通れない様子です。恐らく、第三王子を罪に問い地下牢へ監禁していることが国民へと広まったものと思われます。」

 カイルが瞬時に情報を集め報告する。


「了解。」

 カイルへそう返答した母がその事を聞いてニヤリと笑い、御者の背後から告げた。


「ここで降りるわ。」

 強い口調で言い放つ。


「リヴィ、行ける?まずは反撃の種をまくわよ。」

 母が聞く。


「はい!やってみせます。」

 力強く頷きながら、オリヴィアは返事をした。


 御者が馬車のドアを開け、オリヴィアは外へと出た。

 降り立った瞬間、美しい彼女を見た民衆は驚きを隠せない。

 ほける者、驚き声を上げる者、うっとりする者、拝む者、人それぞれ思い思いの行動を取っている。


 オリヴィアは前だけを見て、ひたすら城門まで進んでいく。

 ハロルドは万が一に備え、オリヴィアの後ろからピッタリついて守る姿勢を取っている。


 オリヴィア達の乗っていた馬車の後方では、彼女が馬車から降りたと報告を受けたリチャード殿下が身を乗り出し、横に居る騎士に命令を下していた。

 その命を騎士は兵士に告げて、兵士を走らせる。


 そんな慌てた様子は目に入らない位置に居たオリヴィアは、スタスタと速足で進んで行った。

 城門前まで来ると、立ち止まった。

 声を上げていた者達が振り返り、オリヴィア見る。

 人々と向き合うオリヴィア。

 そしてゆっくりと、口を開いた。


「私は、オリヴィア・フォード。第三王子の婚約者よ。」

 その場一帯が静まり返った。


「お前がヘンリー王子を唆したのだろう。」

「この殺人者が!!」

 罵倒に始まる。


「なんてこというのか、馬鹿者どもが!ヘンリー王子様がそんなことするはずない!陥れようとしている奴が居るんだ!噂は嘘さ!」

「女神のように美しい貴女様が王子様を唆してなどいませんよ!他に犯人が居るのですよ!そうに違いありません!!」

 ヘンリーやオリヴィアを庇うような意見も多くあり、様々な強い言葉が一斉に噴き出した。


 先程の兵たちが追い付き、オリヴィアを取り囲む。

 その声や兵士に動じることなく、オリヴィアは一度目を閉じると、カッと見開く。

 そして、母に言われた通りに事を起こす。

 

 パシン!?

「$#☆!」

 ドレスから隠し持っていた鞭を取り出し、目にもとまらぬ速さで地面に叩き着けた。

 そして、同時に謎の言葉を呟く。


 瞬く間に鞭を収納すると、演説を開始した。


「皆さん、(わたくし)は、憤っているのです!!」


 鞭の響きとその一言に、声を発していた者達が静まり返った。

 捕まえようとしていた兵士たちも躊躇し動きが止まる。


 オリヴィアの頭上には、なぜか後光が差す。


「私は、ヘンリー殿下と長い間、お心を交わしてまいりました。ですから、デーヴィッド殿下がこのような形でお亡くなりになり、ヘンリー殿下は深く悲しみ、苦しい想いを抱いていることをよく存じております。ヘンリー殿下がデーヴィッド殿下の全ての面を心から尊敬し誇っていたこと、デーヴィッド殿下が王の座へと就いた暁には、臣下として全身全霊で支えるお気持であったことも知っております。それは、ヘンリー殿下の婚約者である私も同じ気持ちでした。ですが現在、そんな私達に、酷い汚名が着せられています。あろうことか、私達(わたくしたち)の自尊心を傷つける内容の罪状が出されたのです。デーヴィッド殿下を害したと言う信じられない内容の罪状です。これには、はらわたが煮えたぎるような怒りを感じております。誰がこのような嘘を巻き散らしたのか…全てを公の場で露わにしなければなりません。さあ、(わたくし)は堂々と王城へ参ります。それは、無罪を証明するためなのです。皆さん、どうか勝利への道を渡しに歩ませてください。」


 分かりやすく、そして、感情的にならず、だが、訴える様な強い意志を乗せ、凛とした態度で語るオリヴィアは、それはそれは神々しかった。


 集まっていた民衆が言われた通りにモーゼの海割りの如くサササッと後退し、道を開ける。

 その中央をオリヴィアは、堂々とした佇まいで、王城の門へと歩んでいくのであった。



王城へ戻ってきました。

前半部、婚約破棄編の終わりが近づいてきています。

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