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母の告白2

前回からの続きです。


「アレは、ルトアールの子孫を狙っている。」

 そう、助けに来たエーベルトが移動中の馬車内で、知らせてくれた。


 そもそも、この事態を招いてしまったのは、エーベルトに原因があるのだとか。


 アドラシオン国フォールズ領で暮らしていたエーベルトだが、数年前より、アドラシオンでのグランドル国の水面下での動きが活発化していたらしい。

 アドラシオン国へ潜入する鼠が年々増え、その事態に危機感を持っていたという。


 そんな折、現フォールズ辺境伯の娘、エーベルトの兄の孫にあたるニコル令嬢がラックランド伯爵の子息と婚約した。

 その婚約式にお祝いで駆けつけたのだが、そこで思わぬ人物と出くわす。


 その者は、アドラシオンの四大公爵家のご子息に仕えていた。

 名をテオと呼ばれていたのだが、彼を見て驚きを隠せなかった。


 昔、まだ西大陸が統一されていなかった時代に、医師集団であるフォールズ伯爵家は医療の最先端国であり、恩のあるルトアール国に戦時の死傷者の対応の手伝いを頼まれ、西大陸を訪れていた。

 若き青年であったエーベルトもその一団の一人として参加していたという。

 その時に見かけたグランドル国の国王の腹心、名将ヴィオラ閣下に、テオと呼ばれていた青年はそっくりであったのだ。


 テオを見かけた時に名将ヴィオラ閣下の関係者に違いないと考え、なりふり構わず逃げだしてしまった。

 そして、クロスター公爵家の手を借りて、ウェルト王国の娘の居るハートフィル侯爵家へと身を寄せ、忍んでいた。

 この時に、逃げおおせたと思っていたのだが、追跡されていたようだ。


 それにより、リナが見つかり狙われた。


「何故、私が標的に?」

「髪の色だ。その色は、ルトアールの女王が代々継いでいる色とされているから。それに、君はマリー様によく目鼻立ちが似ている。そんな君に狙いを付けたのだろう。君を攫って、色々と調べようとしているようだ。」

「調べる?」

「ああ、能力があるかないか。君達は鼠の判別が出来るから。それを見極めたかったのだろう。」


「でも、あの力が使えるドルーは、死んだはずなのでは…そう聞かされています。」

「妖術を使える者が再び現れたのさ。つまり、ドルーの意思を受け継ぐものがね。ルトアールの女王の影を執拗に狙っていることから、もしかしたら、彼は生まれ変わりなのかもしれない。」


 鼠とは、ドルーのかける妖術により、別の人物に成りすましている者の事。

 それを見破る力は、ルトアールの女王の血を引いている長女にしか現れない特殊能力らしい。


 嫁ぐ際にそのことをハートフィル侯爵家で母親から聞いていたリナは、自身が調べられれば、家族にも危害が及ぶと考え、急いで身を隠したのだと言う。


「リヴィ。あなたは、ルトアール国の王女の血を引いているの。そして、おそらく、ドルーの生まれ変わりであるドルトムントに狙われている。」

 リナがオリヴィアに言った。


「ルトアールって、西大陸の今はグランドル国の自治区になっているあのルトアールよね…なぜ、そんなに遠い国の王女が東の大陸にいるのですか?それに、なぜ、グランドル国に狙われているのですか?」


 オリヴィアが質問すると、リナがパンと大きく手を叩いた。

 これをしておかないと、歴史の話を始めると自分達は眠くなるらしい。


「グランドル国が西大陸全土を制圧したことは知っているでしょう?その際に、ルトアール国も戦場になると思われたのだけれど、ルトアールは医療の知識に長けた国だったから、グランドルに有益を齎すと考えたようで、戦争で有力な人材を失うのを回避するために武力による進撃をせず、対話交渉でのやり取りとなったらしいの。その際に、グランドルの自治区となる代わりに、人質として王女をグランドルに差し出すよう言われたそうよ。その時の第一王女がマリー様、あなたの高祖母よ。しかし、マリー様は結婚していたの。そして、その時すでに夫の子を身籠っていたの。戦況が怪しい時期であったために身籠った事は公表の機会が与えられず、国民にはまだなされていなかったみたい。だから当時の女王がマリー様を密かに逃がしたの。その手助けをしたのが、当時のフォールズ辺境伯。マリー様はフォールズ辺境伯家へ身を隠し、生き延びた。」


「つまり、そのマリー王女の血を引くのが私達。」

「その通りよ。」


 嘘でしょ!?

 私にルトアール国の王族の血が流れていたの!?


「そう言う訳で、我が一族はグランドル国に追われる身となりまして、見つからぬよう、粛々と努めてきたというわけです。ちなみに本の歴史の知識を頭に入れようとすると、眠くなるのは王女の血の所為らしいわ。昔の話を嫌う彼等の血が眠気を起こさせて聞かせないようにするらしいの。」

 お母様はペラペラと話を進めているのだが、私の頭は結構なキャパオーバーだ。


 さっきから、はぁとか、へぇとしか返事が出来ていない。


 一族の秘密を話し終えて満足したらしいリナが、母親の顔に戻る。

「あなたには辛い思いをさせてばかり…本当にごめんなさいね。そんな事情から嫌な思いを沢山させてしまったわ。」

 母親がオリヴィアの頭を撫でて、謝る。


「それでも、あなたも運命の恋をする事が出来たようで、お母様は心から嬉しいの。」

 そう続けた。


「私が恋?運命の恋!?」


 誰に!?と思わず聞き返しそうになるくらい、自身でも驚いた言葉であった。

 だって、私は恋というモノがどんなものか分からないのだから…。


「ええ、鼠を見分ける能力は、王女の血を引く者の心と体が成長したのち、運命の相手、ツインレイに出会い、恋に落ちると発現すると言われているの。リヴィは、なかなか発現しなかったから、ヘンリー王子は運命の相手ではないのかもしれないと考えられてね。後になって運命の相手と何かあってはマズいと、ずっと婚約発表を先伸ばしにして遅らせていたのだけれど、ようやく能力が発現したようで良かったわ。でもね、能力を発現しない前例はあったのよ。だから、婚約相手は王族だし、あなたも18歳を過ぎて、これ以上は年齢的にもヘンリー王子との婚約の発表を引き延ばしに出来ないとなってしまって。発現しない例の可能性を信じ、婚約発表の許可をあなたが学院卒業のタイミングで出してしまったの…うん、うんうん、きちんと発現して本当によかったわ。そうだわ、能力と言えば――」

 嬉しそうに、リナが話している。


運命の相手(ツインレイ)


 そうオリヴィアが小さく呟いた時に彼女の脳裏に浮かんでいた人物…それはヘンリーではなかった。


 誰であったのか…本人も信じられなくて、心底驚いている。


 それは、ハロルドだったのだ!!!!


 え!?今、私、アーハイム公爵を思い浮かべていたわよね?

 え、なんで?どうして?

 婚約者はヘンリーなのに…どういうこと??


 その衝撃に戸惑い、その後、母の話している言葉は一切耳に入ってこなかった。


 しばらくして、呆けている私を見て、眠いのだと勘違いしたようで、また明日と言って、リナは自室へと戻って行った。


 その後、ベッドに入ってみたものの、気持ちがざわつき、全然眠ることが出来なかった。

 朝方になって意識を失うように、ようやく眠りについた。


ツインレイはアドラシオンでは儀式として伝わっていますが、それはツインレイの片割れ(ウェレ)を亡くした者(ルトゥ神)が弔いの儀式を執り行ったことから始まったと伝えられています。

ツインレイ(大事な人)を弔う儀式を略式でツインレイと呼ぶようになり、広まったとされています。


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