母の告白
月曜ですが、投稿します。
よろしくおねがいします!
下車すると、ニコルが慣れた様子で一段飛ばしに狭い踏面の階段を駆け上がり、大きな扉を開け放つ。
「お父様~リヴィを連れてきたわよ。」
大きな声で言い放った。
屋敷の奥から、肌が黒光りする筋肉の引き締まった男が走ってくる。
「よーぐ、やっだ!!」
扉の外まで声が通った。
オリヴィア達の前まで来ると、キュッと靴を鳴らし止まった。
結構な御年なのに、息切れも無い。
白い歯を見せ、こう言った。
「リヴィちゃん、久々だ~よく来たっぺよ。さあ、食堂へ行くべ。美味しいパイがあるぞ。」
オリヴィアはニコルがお父様と呼ぶ男に背中をグイグイと強く押され、急がされている。
優しそうだがムキムキのこの男がフォールズ辺境伯である。
「小父様、自分で歩きますから。」
「はぁぁぁあ、リヴィちゃんはめんこいな~。」
オリヴィアの声に答える気はないようだ。
「それにしても小父様は、とても変わられましたね。」
オリヴィアは、小父の腕力を止める事をあきらめた。
「おうよ!ここは一応、辺境地だでぇ、少し前にいざこざもあっでな~医者でも戦えるようにしとかねぇどって思ってな、数年みっちりと体を鍛えただぁー。熊とも戦えるど!」
腕を見せて筋肉をアピールする。
そんな会話をしながらさらに押され加速して進んでいく。
食堂のドアを開けると、大きなテーブルいっぱいに、美味しそうな料理が並んでいた。
「さあさあさあ、まずは腹ごしらえだべー。腹いっぺー食えぇ。」
辺境伯に椅子を引かれて、オリヴィアは座らされる。
これまでの経緯を話した。
夕飯の時間になり、食堂へと足を運ぶと次々と部屋に人が入ってくる。
伯爵の家族たちだ。
皆、よく来たなぁ~といつものように距離感なしの歓迎ムードでワイワイと食卓を囲んだ。
この家の食事は、貴族のマナーは無視して、皆で喋りながらの楽しい食事だ。
とても温かい。
「この食事に慣れてしまっていると、嫁いでから食事の時間がとても寂しく感じられるのよ。」
そう、ニコルが話していた。
確かに、この皆で語り、時には言い合い、大笑いしながらの食事は普通の貴族には無いものだろう。
「そうね。この賑やかさは、とても心地よくて温かい。羨ましいわ。」
少し照れくさそうに笑いながら、オリヴィアは答えた。
その返答に、ニコルも同意見だと微笑む。
そうしてバタバタと一日を終えた。
何事もなく、ベットに横たわり、一日を終えてしまった。
王族を拒絶してまで連れて来られたというのに何かをすることもなく、拍子抜けである。
そして、二日目もオリヴィアはニコルたちと穏やかな時間を過ごす。
あんなに皆の同行を拒否したのに、何も起きることもなく、逆にこれでよいのかとソワソワしてしまう始末であった。
その日の夕食後、伯爵家族たちとの雑談を終えると、何となく落ち着かず、シャワーを済ませてサッサと横になろうと、オリヴィアへとあてがわれた部屋へと戻って行った。
すると、そこには、思いがけない人物がいた。
窓際に置かれた椅子に、ゆったりと腰を下ろしてお茶を飲んでいる。
そこに居たのは、オリヴィアの母であるリナであった。
「お母様…どうしてここに?お、お体は大丈夫なのですか?ハートフィル領で療養されているはずでは??」
オリヴィアの母のリナが、その問いに困った顔をする。
一息吐くと語り出した。
「リヴィ、黙っていたのだけれど、私は病気で療養していたわけではないの。ずっとある者に見つからぬようにと身を隠していたの。それが真実よ。」
***
リナの話はこうだ。
数年前のこと。
王都から自領へと帰る道のりで、休憩で立ち寄るはずであった城塞が何者かによる攻撃で破壊されたという知らせが入った。
しかたがないので、近隣の地主と交渉し、地主の持つ屋敷のひとつに泊まらせてもらったのだが、その屋敷が盗賊により夜襲を受けた。
護衛と共に盗賊を倒し、事なきを得たのだが、盗賊を捕えに来た領地の私兵の様子が、おかしかったのだと言う。
明らかに身なりが粗末であり、領地の兵であると言う証(領主の家紋)が付いた物等を一切持っておらず、身に着けてもいなかった。
本当にこの領地の私兵たちなのかと目を疑ったという。
それなのに、リナの護衛達は捕まえた盗賊を何の疑問も持たずに、あっさり彼らに受け渡した。
護衛達はここ最近色々あったので、あらゆる手段からの情報と身の危険から優秀な者達が集められていたはずなのに、それにも関わらずこの軽率な行動である。
その際は、この盗賊たちとグルなのかもしれないと自身の護衛の裏切りを疑い、最大級の警戒をしたそうだ。
その後、図体がひときわ大きく怪しい相手の兵士が、リナの前へと歩み寄ってきた。
領兵の団長と名乗る者であったのだが、危険な目に遭わせてしまったのでお詫びをしたいと領主から託けを承っていると言い出した。
リナを領主のもとへ案内すると申し出てきたのだ。
その団長という男も身なりは貧相で汚らしく、口髭を生やし伸び放題で明らかに怪しい男であったため、リナは護衛を疑うのをやめ、別の判断を下した。
こいつらは鼠かもしれない…。
護衛がこんな見た目が疑いようのない不審者たちへ何の反応も示さずに、好対応である。
まるで、高貴な貴族に対応しているかのような丁寧さであったのだ。
団長と言うこんなにも怪しい人物とリナが会った時点で、リナが自称兵士に疑いを持つことは紛れもなく分かる話だろう、なのに護衛達はこの態度だ。
つまり、護衛がこいつらの仲間であるならば、リナを逃げないように今すぐに捕獲していなければならないはずなのに、護衛たちはそれをしていないということ。
護衛はこの汚い自称兵士たちを汚いと認識できていないということ、こいつらはきっと鼠だ。
そう判断した。
自分が鼠を見破れることを安易に発言し悟られるのは危険だ。
自身の正体をバラしてしまうことになる。
こいつらが偽者であることを護衛に知らせ、どうにかこの場を切り抜けなければならない。
理由を付けて団長の申し入れを断り続けていると、先程、捕まえたはずの盗賊がいつの間にかリナたちを取り囲んでいた。
さらに、その囲みに、兵士も加わる。
不穏な空気となる。
護衛とリナに何とも言えない緊張が走る。
だがその時、偶然通りかかった者が本物の兵士を呼んできてくれていて、全ての者達を捕える事に成功し、その場を切り抜けたのであった。
通り掛かった者は、偶然ではなく、危険を知らせに来てくれた味方だった。
彼の名前は、エーベルト・グリフ。
アドラシオン国貴族のグリフ男爵。
前フォールズ辺境伯の次男だ。
彼は辺境伯から男爵位を賜った優秀な医師であり、リナの母方の祖父であった。
ちなみに、リナの祖母は、リナの母ケイトを産んですぐに他界している。
その為、リナの母は当時のフォールズ伯爵家の養女に迎えられ、従兄弟と共に大切に育てられた。
祖父は、フォールズ領で医師として活動し滞在していたのだが、身元をある者達から隠すため、ハートフィル侯爵家へと身を寄せていた。
そんな人物が、わざわざ危険を顧みずに、リナのもとへ駆けつけたのだ。
彼の話では、ある人物がリナを捕えようと目論んでいるらしい。
誰かと聞くと、かなりの大物であった。
リナを捕えようとしている人物、それは、西の大陸、グランドル大陸の覇権を握った国、グランドル国の第五王子、ドルトムントだ。
ドルトムントは自身の兄弟を蹴落とし、第一継承権を得ている人物であった。
区切りが上手くいかず、次回へと続きます。